Photo/minami、ピレリジャパン
取材協力/鉄馬実行委員会 https://tetsuuma.jimdofree.com/、HSR九州 https://www.rms.co.jp/kumamoto/hsr/
「ピレリじゃないと勝てない」
全国各地のイベントレースでそう言われるほど、各レースでの占有率が高くなっているピレリタイヤ。茨城県の筑波2000で春と秋に開催されるT.O.T.での占有率が7割を超えることはこのサイトでもご紹介してきましたが、九州・熊本でもピレリタイヤの占有率が高まっているイベントレースがあります(今回は127台中83台、65%のバイクがピレリタイヤを使用)。
それがHSR九州で春と秋に開催されている「鉄馬」です。
名前のとおり、鉄フレームを採用するいわゆる「旧車」で競われる鉄馬の歴史は長く、鉄馬実行委員会の上野委員長によるとそのスタートは2013年のこと。
当時、すでに関東ではT.O.T.が始まっていて、九州からもT.O.T.に参加するライダーがいたのに加え、鉄フレーム+18インチのバイクでレースをやるムーブメントが起こり始めていたそうです。
そこで、九州でもそういうレースを楽しんでいる人たちが一堂に会するイベントを作れないかということになり、2014年に鉄馬の前身である第1回アイアンホースドリームカップがHSR九州で開催されました。 その後、日本特殊螺旋工業を大会スポンサーに迎え、2020年から現在の「鉄馬βTITANIUM」として春と秋の2回開催を続けています。
上野会長曰く、「ターゲットは50代のライダー。『50になったら鉄馬』と言っていて、40代後半から50代のライダーが楽しめるイベントにしようと思っています。50歳で初めても10年間は楽しんでもらえますよ」
その言葉通り、ピットもパドックも変にピリピリした雰囲気はなく、とても和気あいあいとエントラント同士が楽しんでいる様子。ときには、調子の悪くなったバイク(どれも70~80年代生まれ)の修理を他チームのライダーが手伝ったりと、レースというよりもイベント、さらに言えばみんなの「お祭り」のような感じ。 特に今回は、パドックに協賛メーカーのブースが40も並び、パドック奥には地元のグルメやかき氷を提供するキッチンカーも多数出店してお祭り気分を盛り上げていました。
とはいえ、レースになるとそこは真剣勝負。18インチホイールの大柄なバイクが1コーナーを目指して我先にと飛び込んでいく様は大迫力!ときには接触・転倒というアクシデントも起こってしまいます。
元世界GPライダーで、大会のレーシングアドバイザーを務める青木宣篤さんは「とにかく熱量がハンパじゃない。古いバイクを走らせるには努力が必要で、みなさんとても頑張っています。好きでやっている人を見て、これなら自分もできるんじゃないかと思って輪が広がっている気がします。ただ、安全第一に楽しんでいただきたいので、心の片隅にこれ以上は行っちゃいけない、という気持ちをもって欲しいですね」と語ってくださいました。
沖縄からはるばる遠征するライダーも
九州・熊本という土地柄、九州以外の場所から遠征してくるライダーが多いのも鉄馬の特徴かもしれません。
沖縄からアイアンモンスター750クラスにゼファー750で参戦した山内得仁さんは、熊本県内に仲間とともにガレージを借りてバイクを保管。レースの際は身ひとつでHSR九州にやってくるそうです。
「走り始めてから5年になりますが、公道では味わえない楽しさがありますね。沖縄では練習をする機会がないので、年に2回、必ず鉄馬に参加しています」
その山内さんに誘われて、今年5月の鉄馬に初めて参加したというのはZRX400でアイアンNK4に参加した和歌山在住の井上直紀さん。
「以前、沖縄に住んでいたんですが、沖縄ではミニバイクレースくらいしかできなくて、昨年の鉄馬を見て参戦することにしました。古いバイクが好きで、キャブレターを触ったりプラグの色を見たりしながら楽しんでいます。次はZRX1200にしたいと思っています」
四国・徳島県からアイアンスポーツクラスにGPZ900Rで参戦したのは、マーベラスエンジニアリングの折目進哉さん。
「レースはズブの素人で、お客さんからレース用のチューニングを頼まれたのがきっかけです。鉄馬はT.O.T.より敷居が低くて、自分でも参加できるかなと思いました。レースが終わった次の月曜日にも仕事がありますから、コケないような走りしかできませんね」
最新ネイキッド・Z900RSのワンメイクもある
鉄フレームの旧車がメインの鉄馬ですが、昨年から新たに加わったのがカワサキ・Z900RSのワンメイククラス。フレームこそスチール製ですが、エンジンはフューエルインジェクション装備の水冷4気筒。トラクションコントロールやアシストスリッパ―クラッチを備えた現代のネイキッドです。
今回は19台ものエントラントを集め、鉄馬の一大勢力となったZ900RSクラスについて、森川高明さんと長澤毅さんにお話を伺いました。
「Z900RSクラブジャパンというオーナーズクラブがあって、最初は走行会をやっても4~5人くらいしか集まらなかったんですが、モリワキさんがレース用のパーツを作ってサポートしてくださったこともあって、走行会に参加→レースに出場という人が増えてきました。サーキットもレースも初めての人がほとんどで、1年で20秒も速くなった人もいますよ」
その火付け役になったモリワキから、今回、アイアンスポーツエキスパートクラスに社長の森脇尚護さんが参戦。スタートで出遅れるものの、激しい追い上げを見せて見事に優勝を飾った。
「Z900RSはユーザーがとても多いバイクですが、当初はドレスアップパーツが主体でレース用パーツはありませんでしたので、ウチがやるならレース用パーツ、それも真剣にやろうとプロジェクトを立ち上げました。今回も、4in2in1の新型マフラーのテストも兼ねて参戦しました。鉄馬は素晴らしいイベントで、ウチはこれからも出展しますので皆さんに楽しんでほしいと思います」
鉄馬実行委員会の尽力もあって、年々イベントとしての規模も大きくなり、今回は有料入場者数1191名(HSR九州発表)、エントラントとチーム関係者などを含めると総勢2000人が楽しんだ鉄馬。元気な50代を中心に、これからもますますの盛り上がりを見せてくれるはずです。