写真:Pirelli、伊藤英里
テキスト:伊藤英里
イデミツ・アジア・タレントカップ第4戦日本大会 10月4日~6日/栃木県 モビリティリゾートもてぎ
2024年シーズンのイデミツ・アジア・タレントカップ第4戦日本大会が、MotoGP第16戦日本GPに併催で行われました。イデミツ・アジア・タレントカップは、アジアからオセアニア地域の若手ライダー育成を目的に、2014年にスタートした選手権です。マシンはホンダ・NSF250Rのワンメイク、タイヤは、2024年からピレリがサプライヤーを務めています。ピレリが供給するタイヤは、DIABLO™ SUPERBIKE SC2です。
この選手権は多くの世界選手権ライダーを輩出しています。日本GPを終えてMoto2チャンピオン獲得がかかる小椋藍や、同クラスに参戦する佐々木歩夢、Moto3クラスに参戦中の山中琉聖、古里太陽などもイデミツ・アジア・タレントカップ出身のライダーです。
そんなイデミツ・アジア・タレントカップに、今季は5名の日本人ライダーがフル参戦エントリーしています。参戦2年目の三谷然、高平理智、荻原羚大、そして今季から参戦する池上聖竜、竹本倫太郎です。日本大会には、ワイルドカードとして飯高新悟が参戦しました。
レース1:三谷然、強みとなったブレーキングで勝利をつかむ
土曜日に行われたレース1のトップ争いは、チャンピオンシップのランキングトップにつける三谷然、荻原羚大、池上聖竜による、三つ巴の接戦となりました。最終ラップをトップで迎えたのは三谷です。三谷は、「90度(11コーナー)手前でトップにいなければ」と考えていました。
「バックストレートを1番手で立ち上がると、マシン差がないレースなので(トップを守るのは)あやしいかな」
しかし、三谷はダウンヒルストレートからの激しいブレーキングとなる90度コーナーでトップを守り、優勝を飾ったのです。
このブレーキングは、開幕戦カタール大会以降に手に入れた、三谷の武器でした。
2024年シーズンのイデミツ・アジア・タレントカップの開催スケジュールは、3月上旬の開幕戦カタール大会(MotoGP第1戦カタールGPに併催)以降、8月中旬の第2戦マレーシア大会までブランクがありました。三谷はこの間を使って、新潟県新潟市にある日本海間瀬サーキットで走りこんだのです。練習では、元MotoGPライダーであり、スズキのMotoGP開発ライダーでもあった青木宣篤さんの教えを受けたそうです。
絶対的な武器があれば、ライダーは自信を持って攻めることができます。「ここで勝てる(抜ける)」というポイントを念頭に、レースを組み立てることができるからです。三谷はブレーキングを強化したことで、さらなる強さを手に入れたようでした。
「間瀬サーキットさんの協力のおかげで、1週間、合宿をさせてもらったんです。みっちりバイクに乗って、自分で試しながら走ることができました。どうしたら強いブレーキングがかけられるか、青木監督にも相談しながらいろいろ試したんです」
「まさに、そのブレーキングが(最終ラップの勝負で)生きました。ほかの国で勝つのもうれしかったけど、母国となると違いますね、うれしいです!」と、満面の笑みを浮かべていました。
レース1は日本人ライダーが表彰台を独占しました。2位が荻原、3位は池上が獲得しています。
荻原は「90度コーナーで三谷選手に仕掛けるつもりでしたが、ヘアピン(10コーナー)でミスをして距離が空いてしまったのでスリップに入れず、2位に終わりました」と、レースを振り返っています。
ランキング2番手につける高平理智は、セッション中、一部で雨が落ちた難しいコンディションの予選で転倒を喫したため、タイム計測ならず、16番手からのスタートでした。しかし大きくポジションを上げて5位でゴールしています。
「追い上げはできたんですけど、トップ集団と離れてしまいました。トップ集団とのタイム差も大きいので、そこも改善したいと思います」
同様に竹本倫太郎も予選で転倒。17番手からのスタートで、6位フィニッシュでした。
「前の集団についていけなかったのが悔しい。明日(日曜日)は最初から飛ばしていきたいです」
ワイルドカード参戦の飯高新悟は、今季、全日本ロードレース選手権J-GP3クラスと、併催のMFJカップJP250選手権に参戦するライダーです。今回、初参戦のイデミツ・アジア・タレントカップで予選フロントロウを獲得。レース1は序盤に後退して7位でした。
「予選はこけないように走っていたら周りが転んじゃったので、フロントロウって言われても、……タナボタ感はありますね」
「レースでは1周目に全日本と同じくらいの気持ちで攻めていたんです。でも、アジア・タレントカップのライダーは1周目からガツガツいく。ちょっと気を付けていたら一気にポジションが落ちてしまい、第3集団のまま、前にいけませんでした。明日は転ばないように限界ぎりぎりのところで攻めていきたいです」
レース2:僅差で攻防を制した池上聖竜が初優勝
日曜日に行われたレース2もまた、レース1と同じ顔触れによる優勝争いとなりました。レース序盤にトップに立った三谷が後方を引き離しにかかるものの、その後、池上、荻原がその差を詰めていきます。
池上はトップを走る三谷に接近。9周目、3番手を走っていた池上が、シフトダウンでギヤがうまく入らず、11コーナーでラインを外します。このときはトップの三谷、2番手の荻原に離されたものの、池上は「まだ4周ある。追いつける範囲だ」と考え、実際に2人をとらえるのです。
迎えた最終ラップは、このレースもまた、レース1で優勝した三谷がトップで入りました。三谷に続くのは荻原。池上は3番手につけていました。池上は3コーナーで荻原をとらえて2番手に浮上すると、90度コーナーで前を走る三谷をとらえようと考えていたのです。
池上はダウンヒルストレートで三谷の前に出たものの、三谷が90度コーナーのブレーキングでトップを奪還。しかし池上は落ち着いてビクトリーコーナーで三谷に仕掛ける素振りを見せると、メインストレートでスリップを使い、トップでチェッカーを受けました。2位の三谷とは、わずか0.026秒という僅差でした。
イデミツ・アジア・タレントカップ参戦1年目の池上にとって、初優勝となりました。池上は「レース1で2人(三谷、荻原)それぞれの遅いところ、速いところが分かったんです。それを踏まえてレース2に少し改善ができました。それが今回の勝因だと思います」と語っていました。
「最終ラップは90度コーナーで(三谷選手を)抜く予定だったんですけど、うまく抜ききれなかったんです。ビクトリーの左(12コーナー)で抜くか、見せる程度でいこうと思ってそれがうまくいきました。三谷選手がそれでインにつけなくて、はらんだところを立ち上がりで抜こうと思っていたので。結果的にうまく勝ててよかったです」
「今までのボクの強さはバトルでした。でも、今季はそれがうまく発揮できなかったんです。こういう地元の日本で力強さ、自分のいいところを出せたのがよかったと思います」
一方、僅差の2位で終えた三谷は、「ボクとしては最高の走りをしていたので、すごく悔しいです」と、レースを振り返りました。
とはいえ、三谷は日本大会を優勝と2位で終えたことで、ランキング2番手の高平との差を71ポイントに広げ、次戦タイ大会でチャンピオン獲得の可能性を浮上させました。タイ大会を終えてランキング2番手以下に50ポイント以上の差を築くことができれば、2024年シーズンのイデミツ・アジア・タレントカップチャンピオンが決まります。
三谷はこの状況について、「まったくプレッシャーはないです」と、いつも通り淡々と語ります。
「毎戦、同じように、『絶対に1位をとる』という気持ちで臨んでいきたいと思います」
3位で終えた荻原は、レース後、イデミツ・アジア・タレントカップのテントに戻ってからも、悔しさを隠しませんでした。接戦の三つ巴の争いで、荻原は優勝した池上からわずか0.078秒差の3位だったのです。
「なんもできなかったです」という一言に、悔しさがにじんでいました。
「昨日(レース1)と今日(レース2)で思ったのは、トップに出る回数が少ないかなということです。トップでコントロールラインを通過できる回数を増やして、レースをもう少しリードできたらいいなと思います」
ランキング2番手の高平は、4位でゴールしました。ランキングトップの三谷とは、71ポイント差となりました。
「また前と離れてしまったので、悔しいレースになりました。単独でまあまあのタイムを出せたのはよかったです。自分のなかではベストの走りができたなと思います。ただ、まだトップに出て、抜け出す走りができないですね」
「ランキング3番手の荻原選手が近くなってきたので、(次戦は)意識しながら走ろうかなと思います。自分のポイントを取れるところは取っていきたいです」
ワイルドカード参戦の飯高は、レース1の7位からふたつ順位を上げて5位でフィニッシュしました。飯高は、2025年のイデミツ・アジア・タレントカップ参戦を目指すということです。
「昨日よりも2個ポジションが上がって、自分としても納得できる、いいレースだったと思います。序盤はペースに余裕があったのですが、後半、前のライダーと離れて単独になったらうまく走れなくなったので、それが今後の課題ですね」
もうちょっと前に行きたかった、と語る竹本は8位でゴールしました。
「昨日(レース1)よりはよかったのですが、レース1と予選グリッドが同じなので、その影響で全然前にいけなかったです。追い上げてはいったんですけど……」
イデミツ・アジア・タレントカップ第5戦タイ大会は、MotoGP第18戦タイGPに併催で、10月25日から27日にかけて、タイのチャン・インターナショナル・サーキットで行われます。