写真:Pirelli、伊藤英里
テキスト:伊藤英里
イデミツ・アジア・タレントカップ第4戦日本大会
9月26日~28日/栃木県 モビリティリゾートもてぎ
イデミツ・アジア・タレントカップ(IATC)は、アジアからオセアニア地域の若手ライダー育成を目的に、2014年にスタートした選手権です。マシンはホンダ・NSF250Rのワンメイク、タイヤは2024年からピレリがサプライヤーを務めています。
IATCはロードレース世界選手権MotoGPへの足掛かりとなる選手権です。例えば、MotoGPライダーとして活躍中の小椋藍も、この選手権から世界への階段を駆け上っていきました。小椋は、IATC出身ライダーとして初の世界チャンピオンです。また、2024年のチャンピオン・三谷然は、今季、次のMotoGPの登竜門となるFIMジュニアGP世界選手権とレッドブルMotoGPルーキーズカップに参戦しています。
IATCは、ドルナスポーツ(MotoGPの商業権を保有)がサポートする、若手ライダーを対象とした選手権やプログラム「ROAD TO MOTOGP」の一環です。「ROAD TO MOTOGP」は将来的に各国間のライダーの格差が出ないよう、全世界レベルで未来のMotoGPライダーを育成するというもので、ピレリはこれらの一環である、MiniGP、各エリアのタレントカップ、Moto2とMoto3、またスーパーバイク世界選手権(WSBK)の各選手権にタイヤを供給し、タイヤのイコールコンディション化を図っています。なお、2027年からは、MotoGPクラスのタイヤサプライヤーもピレリが務めることになっています。
2025年シーズンのIATCには、4名の日本人ライダーがフル参戦エントリーしています。参戦3年目の荻原羚大、参戦2年目の池上聖竜、参戦1年目の松山遥希、飯高新吾です。日本大会には、さらに戸高綸太郎と松平賢正がワイルドカード参戦しました。
レース1:荻原と池上のトップ争い再び
土曜日夕方に行われたレース1は、今季の多くのレースのように、荻原と池上がトップ争いを展開しました。第2戦、第3戦と違っていたのは、池上がポールポジションからスタートしたことです。
最終ラップは荻原が先頭で迎え、池上もぴたりと荻原につけます。しかし、荻原は池上をしっかりと抑え、ダウンヒルストレートもイン側にラインをとって90度コーナーを立ち上がり、続く左コーナー、ビクトリーコーナーも抑えました。荻原はトップでチェッカーを受け、池上はわずか0.015秒の2位でした。


「90度コーナーで池上選手が来るだろうなと警戒していたのですが、そこでは仕掛けてきませんでした。そうなったら最後のビクトリーの切り返しで来るか、その前の複合コーナーの左で来るか……。もてぎを知っていたからよかったですね」
今年、荻原はIATC参戦3年目です。「このぐらいの結果を求められていると思っています」と語ります。荻原は、全日本ロードレース選手権やMotoAmericaに参戦して経験を重ねてきたのだそうです。
「今年に関しては、SDG Team HARC-PRO. HondaさんからSUGOでST600に参戦させていただきました。その経験が、このタレントカップにもすごく生きていると感じます。大きい排気量のバイクの乗り方が引き出しになったのもありますし、HARC-PRO.さんのような名門チームで走ることができたので、レースウイークの進め方などを学べたのもよかったです」
僅差で優勝を逃した池上は、「今週はすごく手応えあって、初日からよかったんです。今日も序盤から前で走って、最初のほうはペースも悪くなかったんですけど……」と、悔しそうに語っていました。
そして、最終ラップまで三つ巴の3位争いに加わったのは飯高です。飯高は最終ラップの3コーナーで3番手に浮上するも、ポジションを守り切れずに5位でゴールしました。
「余力もありましたし、本来は表彰台を獲得できたレースだったと思います。ただ、少しシフトが入りにくく、それが影響しました。以前からちょっと入りにくいと感じてはいたのですが、レースになると難しくなりますね。自分のミスもありましたし、そういう意味で少し無駄が多めなレースだったと思います」

ワイルドカードの松平は7位を獲得。アメリカ国籍である松平は、今年はヨーロピアン・タレントカップにスポット参戦してきました。アジアでのレースは初めてで、もてぎも1回、数セッションを走っただけだったそうです。
「7位はうれしいけれど、もっと、上のポジションにいけると思います。コーナリングスピードやスタートも、まだ改善できるところです」

同じくワイルドカード参戦の戸高は11位でした。戸高は、全日本ロードレース選手権J-GP3クラスに参戦するライダーです。J-GP3のホンダ・NSF250Rとの違いはもちろん、普段は全日本で主に日本人ライダーをライバルとして走っているため、アジアのライダーのキャラクターの違いに戸惑いがあったとも言います。
「全日本とはマシンが全然違います。昨日はそれに戸惑ってしまい、うまくペースを上げることができませんでした。レース1は、タイムとしてはいけそうでしたが、日本人とは違う海外のライダーの走りに苦戦しましたね。そこは、いい経験になったと思います」
松山は、1列目3番手スタートでしたが、転倒リタイア。「スタートでミスをして、そこから前についていきましたが、少し焦りが出てしまいました」ということでした。
レース2:0.1秒以下の優勝争い、軍配は荻原に上がる
日曜日朝に行われたレース2は、5、6台がトップ集団を形成しました。しかし、レースが終盤になるにつれてその集団は小さくなり、最終的に、やはり荻原と池上がトップを争う2人となったのです。
最終ラップの90度コーナーにトップで入っていったのは、レース1とは異なり池上でした。しかし、イン側に寄せていたラインをブレーキングでアウト側に開けたことで、荻原のパスを許す形となりました。荻原が今季8勝目を飾り、池上は0.043秒差で2位でゴールしました。
荻原の8連勝は、2021年に古里太陽(現・Moto3ライダー)が飾った開幕戦からの7連勝を更新する記録となりました。
荻原は「昨日からマシンのセッティングを少し変えて、ブレーキング重視に振ったんです。それがうまくはまりました。最後、危なげなく抜くことができてよかったです」と笑顔を浮かべました。レース1を戦って、「ブレーキング勝負になったら厳しい」と、セッティングを変更していたそうです。その変更が見事にはまりました。
「昨年に比べて、レース中に落ち着くことができている気がします。それに、昨年から今年までのインターバルで、ブレーキングはかなり重きを置いてトレーニングしてきたんです。少しは成長できたかもしれませんね」
一方、池上はこれで4戦8レースで荻原の後塵を拝し、2位に終わりました。
「レース2も積極的に自分が引っ張っていく形になりました。最後はまた荻原選手との対決になりましたが、今日はいつもと違う展開で、最後の90度コーナーにトップで入っていきました。でも、抜かれてしまい、最後そのまま終わってしまった。すごく悔しい気持ちでいっぱいです」
ただ、今回の2位はこれまでとは違う、とも池上は言います。池上は、8月の全日本ロードレース選手権第4戦もてぎで、J-GP3クラスにスポット参戦しています。これはIATCのための参戦だったそうで、この経験が今回のレースに大いに生きているということでした。
「今までの自分だったら、あれほど単独でタイムを出せなかったと思います。全日本で走って、難しい車両でもそのラップに応じて臨機応変に対応する能力がすごくつきました。レース中も何回かミスをして順位を落としたんですけど、そこから冷静に立て直す力もついたと思います」
「2位ですけど、今までとは少し違う、成長を感じられた2位だったと思います」
そして、レース2では飯高が3位を獲得し、日本人ライダーが表彰台を席巻しました。
「シフトの問題は残っていましたが、もう分かっていたので普通に走れたと思います。このレースでは、IATCで初めてトップを走ることもできました。少しの間でもトップを走れたのは、自信にもなりました」

ワイルドカード参戦の戸高は、レース1よりも順位を上げて7位でレースを終えました。
「レース1のように集団でしたが、前に出る回数が多くて、そこはよかったです。アジアのライダーたちのキャラクターも、どこで入ってこられるのか、ということが分かってきました。本当はもっとトップ集団についていって勝負がしたかったのですが、集団の中でトップでゴールできたので、昨日よりも進歩して終われたと思います」
松山はトップ集団に加わっていたものの、7周目に転倒を喫してレース2もリタイアとなりました。残念ながらリタイアで日本大会を終えましたが、1年目のIATCで「(4戦8レースで)成長はしてるし、タイムでもトップ2にはついていけています」と、語っています。
ワイルドカード参戦の松平は、2周目にハイサイドを起こして転倒。リタイアという形で終わりましたが、「バイクも、周りのライダーの走りも、全部がいい経験になりました」ということでした。
イデミツ・アジア・タレントカップ第5戦インドネシア大会は、10月3日から5日にかけて、インドネシアのプルタミナ・マンダリカ・インターナショナル・サーキットで行われます。
2025年 イデミツ・アジア・タレントカップに参戦する日本人ライダー
#16 荻原羚大(おぎわら・りょうた)
2008年9月7日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦3年目(2024年ランキング2位)。2024年、スポット参戦した全日本ロードレース選手権もてぎ大会では、ピレリタイヤでJ-GP3のコースレコードをマークした。

#14 池上聖竜(いけがみ・せいりゅう)
2008年10月20日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦2年目。2022年FIM MiniGP Japan Seriesチャンピオン。2022年FIM MiniGP World Series Final総合ランキング3位。2024年にはヨーロピアン・タレントカップにも参戦した。

#2 松山遥希(まつやま・はるき)
2009年7月17日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦1年目。2022年FIM MiniGP Japan Seriesランキング2位。2023年FIM MiniGP Japan Seriesランキング3位。2024年は筑波ロードレース選手権J-GP3に参戦。

#21 飯高新吾(いいだか・しんご)
2009年12月22日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦1年目。2023年、2024年全日本併催のMFJ CUP JP250に参戦。2024年はJ-GP3にもダブルエントリー。イデミツ・アジア・タレントカップ日本大会にワイルドカード参戦し、レース2では5位を獲得。

日本大会のワイルドカード参戦ライダー
#7 戸高綸太郎(とだか・りんたろう)
2010年8月19日生まれ。2025年シーズンは、Astemo SI Racing with RSCからJ-GP3クラスに参戦している。2025年シーズンに向けたIATCの選考会で、リザーブライダーに選出された。

#28 松平賢正(まつだいら・けんせい)
2010年10月21日生まれ。国籍はアメリカ。2025年シーズンは、ヨーロピアン・タレントカップにスポット参戦している。戸高と同じく、2025年シーズンに向けたIATCの選考会で、リザーブライダーに選出された。
