ピレリといえば「二輪&四輪のイタリアの高性能タイヤ」というイメージが強いけれど、そもそもどんな会社なんだろう?
高性能タイヤというだけでなく、イタリアンでお洒落なイメージも強いピレリ。その確固たる世界観の秘密は、150年を超える歴史の中でしっかり個性と高品質を磨いてきたから。ピレリは、タイヤ作り以外にも、様々な文化事業にも力を注いできたのです。
-
以前も聞いたと思うんですけど、PIRELLIってピレリさんが創業した会社なんですよね? 教えてディアブロマンVol.4参照( https://pmfansite.com/pirelli/article/2024/0523111500.html )
-
覚えていてくれて嬉しいなぁ。その通り。
-
ピレリは高性能タイヤというイメージが強いですが、それだけでなく「イタリアらしさ」を強く感じます。イタリアの車両メーカーからも感じる、洒落た感じやカッコよさがありますが、改めてピレリがどんな会社なのか教えてもらえますか?
-
そこまで興味を持ってくれて感激だね! それでは改めて創業者の話をしてみよう。 ピレリは、1872年にジョバンニ・バティエスタ・ピレリ氏が24歳の時に、イタリアのミラノで起業した「G.P.Pirelli&C.」という会社からスタート。学生時代にスイスやドイツ、ベルギーやフランスなどを巡ってさまざまな工場を見学した際に「ゴムの加工技術」に注目したのがきっかけで、イタリア国内初のゴム製品の製造会社を興したんだ。
-
150年以上の歴史があるんですね! 24歳の若さで起業って凄いなぁ!
-
最初は伝達ベルトとか絶縁体、スポーツ用のゴムボールなどを生産し、とくに電気ケーブルのゴム被覆の分野で成功。そして当時は「空気入りタイヤ」も注目を浴び始めた時期だったから、ピレリは1890年にバイク用タイヤの生産を開始。そして1901年には四輪用タイヤも作り始めたんだ。創業時のピレリの様子や歴史は、ピレリ財団のWEBサイト()で見ることができるからぜひ見てほしいな。
-
素敵なサイトがあるんですね。興味深い。ピレリは、すでに130年以上もタイヤを作っているんですね!
-
こうしてピレリはタイヤ、電気ケーブル、その他多品種のゴム製品の三本柱で成長。2度の世界大戦を経て、ケーブル被覆の技術やトラックなどの大型車のタイヤ技術も確立したし、二輪&四輪レースでの活躍も目覚ましかった。
タイヤの新技術やレースでの戦績を挙げたらキリがないけれど、ゴム製品の会社として成功。1960年にはミラノ初の超高層ビル(地上31階建て、高さ127m)の本社ビルをミラノ駅の前に建てたよ。このビルは1978年にロンバルディア州に売却して今は行政機関が使っているけれど、欧州における超高層ビルの草分けとして有名なんだ。
現在の本社はミラノの郊外のビコッカというところにある。本社敷地内には創業家のピレリ家が別荘として使っていた15世紀に建てられ建物も健在だよ。 -
いかにも歴史のあるヨーロッパの企業という感じですね。文化的な香りがプンプンします(笑)。
-
鋭いね~。じつはピレリは文化事業にも力を入れているんだ。もともとビコッカは大学がある文化的な地域なのだけれど、ピレリは「ピレリ ハンガー ミュージアム」というコンテンポラリーアートの美術館を作ったりしているんだ。
また、かつてはピレリの工場で働くスタッフたちの士気を高めるために、ミラノのサッカーチーム、インテルのスポンサーをしていた時期もある。
ちなみにビコッカに本社が移転して、最寄り駅の名前が「ミラノ・グレコ・ピレリ駅」という名称になったり、「ピレリ通り」もできた。ちょっとした企業城下町みたいな感じになっているね。
少し話が前後するけど、もともと欧州にはミシュランというタイヤメーカーの巨人がいて、そこにアメリカ資本のダンロップや輸入ブランドのブリヂストンが参入してくるんだけれど、それにピレリは対抗している。そんな熾烈な市場で生き残るには、しっかりとした「個性」をコアとしながら、高品質化や高級化でブランドを確立する必要があるんだ。
文化事業に力を入れるのもブランディングの一環なんだよ。 -
どういうことですか?
-
たとえばスポーツ関連だと、イタリア国内のスキー選手権やテニスのオーストラリアオープンなどをスポンサードしているし、2026年のミラノ冬季オリンピックでも公式スポンサーの一社になっている。ヨットのアメリカズカップではイタリア代表チーム(プラダ)のスポンサーも担ったよ。これらはパートナーシップの理念を通じてブランドの魅力と価値を効果的に印象づけているんだよね。
-
ほかにも、少し前まではブランディングのためにアパレル事業も手掛けていたし、文化的といえば「ピレリカレンダー」もあるね。
-
カレンダーって、タイヤを買うともらえる販促グッズみたいな?
-
いや、販促グッズではなくて、販売もしていないカレンダーがあるんだ……。カレンダーというより、ほぼアート作品であり芸術支援と言ったほうがいいかな。主導は英国のピレリで、シリアルナンバーが入った豪華な作りになっているよ。その歴史は長く、「ピレリカレンダー」は1964年にスタートし、2025年で51回目。有名なカメラマンや新進気鋭のカメラマンを選出し、毎回テーマを決めて作成している。テーマはタイヤやモータースポーツとは関係ない場合が多いよ。ピレリカレンダーのWEBサイト()を見るとその世界観が伝わってくると思うよ。
-
とてもお洒落なサイトですね。タイヤメーカーのピレリが芸術的なカレンダーを作ってどうやってブランディングに活用するんですか?
-
著名人やVIP、トップセールスを獲得した販売店などに配布するのが主かな。でね、カレンダーが完成すると英国の王宮美術館などで「カレンダーパーティー」を開催するんだ。招待客はタキシードやドレスで参列し、まるで映画のアカデミーショーの授与式みたいな雰囲気かな。
-
さすがピレリ。規模が違いますね~。
-
また、モータースポーツ以外の分野でもイタリアのさまざまなメーカーとコラボアイテムを製作しているよ。
-
どちらもカッコいいですね! 確かにこれは良いブランディングになりますね。
-
でもね、ブランディングといっても、タイヤは消費財。だからハイブランド化するのはとても難しい。そこでピレリは、会社としての方向性や立ち位置も変化させているんだ。
先に「ピレリはタイヤと電気ケーブル、その他多品種のゴム製品の三本柱で成長」って言ったけれど、じつは2000年代にどんどん分社化して、ピレリは人が乗る乗り物(バイク、自動車、自転車)のタイヤのみを作る会社になった。そして2010年代に中国の資本が入ったんだ。 -
どうしてですか?
-
これは「高品質化」のために舵を切ったといえるね。端的に言えば「欲しい材料を調達するため」かな。
資本参加したのはいわゆる投資会社ではなくて、中国の大手のケミカル材料会社なんだ。その会社としては材料を開発したら自分たちのタイヤブランド(ピレリ)で使えるから効率が良いし、ピレリとしては欲しい材料が手に入って開発スピードも高まるからウィンウィンだよね。そこで中国に新たな大きな工場や研究施設を作ったんだよ。 -
そうなんですか!
-
工場に関して言えば、ラジアルタイヤや高性能タイヤを生産しているドイツの工場の設備設計などをそのまま移管。すでにどうやったら効率を高められる工場になるかを分かっているから、例えば「この工程は製造ラインが一直線だと効率が良い」となれば、工場用地を買う時点で敷地の形状を考慮したりできた。広大な土地がある中国だから可能な部分もとても大きかったんだ。
作業工程で移動距離が少なければコンパウンドの劣化も少なくなるなど、メリットはたくさんある。それに中国は気候的に暑すぎないのも良いね。 -
新工場としては最適だったんですね。
-
研究開発の設備や施設も最新だから、そこで素材研究や開発をしたい、と優秀な人材に対する強い吸引力にもなっている。この中国工場は2010年頃にプロジェクトがスタートして、2017年ころに本格稼働しているんだけれど、ドイツやほかの工場でやっていないこともどんどんトライしているよ!
-
それでは中国工場で作ったタイヤは日本にも入っているんですか?
-
そうだね、現在、日本に入っているピレリタイヤの半分くらいが中国生産だね。アジア向けのタイヤは中国とドイツの工場の半々くらいかな。じつはコレ、SDGsにも貢献しているんだよ。
-
どういったところがですか?
-
生産地と消費地が近いほうが、移動時の排出ガスが軽減してカーボンニュートラルの実現に近づくことができる。ヨーロッパからアジアを始めとする日本に輸出するより、中国からのほうが断然近いからね。
-
なるほど!
-
SDGs、とくにカーボンニュートラルはヨーロッパでは政策で進めているからね。その意味ではピレリは先陣を切ってやっている。さらに「材料の内製化」も促進。インドネシアに広大な土地を購入して自社でゴム農園を作ったんだ。ゴムの木を育てて天然ゴムを採取。その材料は、国際的なFSC認証を受けている。
-
現代はSDGsやカーボンニュートラルなど、エコロジーな観点を持つことが、地球とボクらの未来に大切ですもんね!
-
そう、いまやサステナブルも「高品質」のひとつ。実は中国工場は、環境・社会・経済の3つの観点から「地球に良い」「資源を使いすぎない」「未来を守る」ということを徹底して設計。そういった企業だからこそ、「その会社に入りたい人が増える→優秀な人材が集まりやすい→工場や会社が成長する→製品の品質が高まる→いっそうハイブランドになる」、という非常に良いループができるんだ。
-
それは素晴らしいですね!
-
そして高めた技術は、市販タイヤはもちろんPRの場としてレースにも活かせるというワケ。ピレリは2004年から世界スーパーバイク選手権(WSBK)にタイヤを単一メーカー供給(ワンメイク)していて、2024年からはMoto2とMoto3もピレリのワンメイクになったよね。
-
-
そしてついに、トップカテゴリーのMotoGPクラスも、2027年シーズンからピレリタイヤになる。
-
すごい!! どんなタイヤになるんですか? ますますタイムが上がるんですか?? それに、えーと……
-
まぁまぁ落ち着いて、すでに第1回目のテストは終わっているから、詳細はまたの機会に紹介するよ(笑)。
-
会社の歴史や文化的な取り組みとかを聞いて、ますますピレリの魅力が高まりました! そしてMotoGPクラスのサプライヤーになるだなんて、くぅ~待ち遠しいなぁ!
-
そう思ってくれると嬉しいよ。期待して待っていてね!









