タイヤ交換はスリップサインが出たら……。溝があるうちは安全に走れると思っていて良いですよね?

食品には「賞味期限」や「消費期限」が表示されているけれど、タイヤの場合はどこにも書いていない。でも、じつはタイヤの主成分であるゴムは生モノ。そして、性能を発揮して安全に楽しく走れる「賞味期限」があるんです。

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先日、ツーリング先で「タイヤの賞味期限」について話をしていた方がいました。購入したばかりの中古車をお披露目していたライダーにベテランライダーが「タイヤは一度交換したほうが良さそうだよ」とアドバイスをしていたんです。でも。その中古車のタイヤはまだまだ溝があって使えそうに見えたんですよね。そもそもタイヤの「賞味期限」ってどこかに書いてあるんですか?

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「賞味期限」は、お菓子や食材のパッケージに書いてあるアレのことかな? ん~、タイヤには書いていないね。

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食品に記載される「賞味期限」。タイヤにも書いてあれば分かりやすいんだけど……。



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それじゃ、タイヤに「賞味期限」はないってことですか?

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う~ん、実はよく似たような質問をされるけど、表現が難しい。

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どういうことですか?

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たとえば食品のパッケージには、「賞味期限」や「消費期限」が記載されているよね。他にも薬局で売っている風邪薬や胃腸薬などの医薬品・医薬部外品などには「使用期限」が書いてある。

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「賞味」「消費」「使用」。微妙にニュアンスが違いますね……。

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「消費期限」や「使用期限」は、この期限を過ぎたら食べたり服用したらダメという意味。タイヤには書いてないけれど、これに近い意味をもつのが「スリップサイン」だ。これは法令で決まっていて、スリップサインが出たらそのタイヤは危険だから使ってはいけないということなんだ。

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タイヤはスリップサイン(溝の中にある凸部分)が出るまで摩耗したら、タイヤ交換するように法令で義務付けられている。



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それは知っていますよ。ボクのタイヤは溝があるから、まだまだ大丈夫!

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では、タイヤの「賞味期限」って何だろう? 食品だったら「美味しく食べられる期限」ってことだから、「賞味期限」を過ぎて食べても体調が悪くなったりするわけじゃないよね。本来の美味しさではないかもしれないけれど……。その意味ではタイヤも「性能を発揮して安全に楽しく乗れる期間」という意味での「賞味期限」はあるんだ。

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なんだか難しいなぁ……。それじゃ、スリップサインとタイヤの「賞味期限」は違うってことですか?

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正解! 性能を発揮して楽しく安全に乗れる期間を「賞味期限」とするなら、新品からスリップサインが出るまでの、半分くらい減ったところまでかな。ピレリやメッツラーのタイヤは、この半分くらいまで消耗する間の性能の落ち幅がとても低いんだ。

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へぇ~、でも半分過ぎたら性能が落ちるんですか? それは「賞味期限」を過ぎてしまったってこと?

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いやいや、スリップサインが出るまでは安全性や基本性能はきちんと確保しているよ。ただ、半分を過ぎたくらいからスリップサインまでは初期の性能から緩やかに落ちていくんだ。

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ピレリはグリップの高さや減りの遅さだけでなく、「性能維持=賞味期限」の長さにもこだわってタイヤを開発している。



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なるほど~。

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たとえばバイクを自宅から駅までの通勤の移動手段として使っていて、そこに趣味性を求めないなら「スリップサイン=消費期限」と考えて使えば良い。でも『バイクは週末にツーリングを楽しむ生活の癒し』という趣味のライダーなら、楽しく走れるか否かは、とても重要になる。だから「賞味期限」や「消費期限」はバイクライフによって変わるんだ。

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ボクもバイクに乗る日は貴重な1日だから、やっぱり楽しみたい! ちなみに年間に1500kmくらいしか乗らなかったら、3年経っても4500km。スリップサインが出ていなければ大丈夫ですか?

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4500kmなら溝は十分残っているよね。ただ、タイヤは走行すると路面との摩擦で熱が入る。するとゴムの分子同士の電子交換が行われて物性変化が始まるんだ。

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物性変化?

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物性変化とは、要するに1回でも走るとそこからゴムの素材が変化しはじめて、少しずつ性能が落ちていくということ。それが3~4年続くと、ゴムは少しずつ特性を変えていってしまうんだ。もちろんいきなりグリップしなくなったり壊れてしまうわけではないけれど、タイヤメーカーとしては大丈夫とは言いたくないのが本音かな。
食品と同じで、賞味期限を過ぎても食べるor過ぎたら食べないは自己責任。だけどメーカーが大丈夫と言ったら、自己責任じゃなくなってしまうからね。

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そうか~。ディアブロマンとしては、どれくらいでタイヤを交換するのがオススメなの?

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タイヤのサイドウォールには必ずそのタイヤの製造年月が記載されている。最初の2桁が週で、後の2桁が製造年の下2桁を表示。写真のタイヤの場合は2024年の第19週(5月中旬)に製造されたことを意味する。



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そうだな~、表示年週から3年くらいが「賞味期限」の目安と言いたいところだけれど、実際には適正な状態で倉庫に保管されているときには走行時のようにタイヤに熱は入らない、すなわち「物性変化」は起きにくいと考えるのが妥当だよね。
表示年数はひとつの目安で、実際は使用し始めてから3年くらいと思えばいいかな。物性変化による性能低下は見た目では判断できないからね。中古車両の場合は装着後の走行履歴は分からないことが多いので、サイドウォールの製造年週を目安に、それ以外は使用開始から3年と覚えておきたい。
あとは、大体3年ごとに同カテゴリーのタイヤが新型になることにも注目。それに交換すると、最新の性能が手に入るということ。だから3年で交換、もしくはいま履いているタイヤの新型が出たら交換、って決めると乗る楽しみがより増えると思うよ。

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確かにそれは分かりやすい
ところで、タイヤを長持ちさせるコツってあるんですか? やっぱり「賞味期限」をできるだけ長くしたいじゃないですか。

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そうだね、まず誰でもできることとしては、いつも適正な空気圧に保つこと(詳しくは『教えてディアブロマンVol.10』参照)。特に、保管期間が長い人は注意したい。空気圧が低すぎる状態で駐車しているとタイヤが変形し、接地した部分が平らに変形してフラットスポットができてしまうこともあるからね。
ハイグリップタイヤほどフラットスポットができやすいから、サーキット走行以外は乗らないような人は、メンテナンススタンドでタイヤを浮いた状態で保管するのがオススメだね。

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長期間保管する際は、フラットスポットができないようにメンテナンススタンドでタイヤを浮かせるのがオススメ。写真はJトリップ製のリヤスタンド。メンテナンス性も格段に向上する。もちろんフロント用も用意されている。



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メンテナンススタンド、持っていないんですよね……。

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空気圧を少し高め(10%程度)に入れておくのもフラットスポット防止になるけれど、圧力が高いほど空気は抜けやすくなる。長期間保管するなら、やっぱりスタンドでタイヤを浮かせるか、たまに移動してタイヤが接地している場所を変えると良いね。

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そうなんですね~。

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ちなみにレースにも使うスーパーコルサのようなハイグリップタイヤは、気温がマイナスになるような寒さだと、衝撃でヒビが入ってしまうこともある。

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レースに使用するようなDIABLO™ SUPERCORSAのSCシリーズは、本来タイヤウォーマーを使用して性能を発揮させるタイヤ。温度依存が高く、流石に気温がマイナスになる環境での使用は想定していない。



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割れちゃうんですか!?

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そう。だから運搬にも気を使う。コストはかかるけれど、温度調整機能のついたリーファーコンテナできちん温度管理しながら運ぶんだ。

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大変ですね! でも日本だって冬は気温がマイナスになるじゃないですか。大丈夫なんですか?

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たしかに屋外で−6℃とかになったらキツいかも。そういう地域は屋内保管とか、カバーや毛布を巻くとかして欲しいけど……、これってあくまでレースにも使うようなハイグリップタイヤの場合だからね。
とはいえ公道用のスポーツタイヤでも、サイドウォールがソフトな素材のDIABLO ROSSO™ Ⅳ CORSAとかは、寒い冬場とかはいきなりガンガン走るんじゃなくて、身体もバイクの各部もタイヤも温めながら徐々にペースを上げるのが良いよね。

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DIABLO ROSSO™ Ⅳ CORSAは、排水性を確保しながら、横方向のグルーブを最小化したトレッドデザイン。ミッドリーン時の設置面積を広げ、旋回中の剛性と横方向のグリップを確保している。フルバンク時にはスリックエリアを使うことで、高いグリップ力を得ることが可能。



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まぁ、冬場にいきなり飛ばしたりしませんけどね(笑)。

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他には太陽光線、紫外線はゴムを傷めるから、保管場所が屋外ならバイクカバーをかけたほうが良いね。これが「賞味期限」を長くするコツかな。基本的には、指定空気圧に合わせて、日常的に相応の頻度で乗っていれば、そんなに気にする必要はないよ。

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分かりました~。

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タイヤの賞味期限は、バイクライフのどこに軸足を置くかで変わってくる。ただ、メーカー的には「お早めにお召し上がりください」っていうのが本音かな(笑)。

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なんだか高級なお菓子みたい。でも、美味しいうちに味わいたいのは、お菓子もタイヤも一緒ですね(笑)。