今シーズンからMoto2とMoto3のタイヤが、ピレリのワンメイクになりました!

タイヤの性能がレースの勝敗や成績を左右するのは、レースファンならずとも有名な話。ところが近年は、格差をなくして平等に戦える単一メーカーのタイヤを使うワンメイクが増えています。だけど多くのレースがピレリのワンメイクになっているのは、なぜなんだろう?

Driver Icon

ピレリのタイヤはレースでもよく使われていますよね?タイヤメーカーの中で最もレースに特化しているイメージがあるよね。

DIABLOMAN Icon パターン1

そうだね。市販車をベースとするレースである世界スーパーバイク選手権(WSBK)では、2004年からはピレリが単一供給メーカー(ワンメイク)だし、この2024年シーズンからはMoto2とMoto3もピレリのワンメイクになった。シーズン前のテストからかなり好感触だったけど、開幕したらいきなり昨シーズンを上回るベストタイムを更新したんだよ!

Moto2.jpg
Moto3.jpg
Moto2&Moto3は参戦初年度。当然、ピレリタイヤを初めて履くマシンやライダーが多いのだが、多くのライダーが好タイムを記録。予選だけでなく、レース距離のタイムも多くのコースで更新している。


Driver Icon

ということはWSBKはピレリのワンメイクになって21年目なんですね。それだけでも凄いけど、ついにMoto2&Moto3にも参戦するんだ。だけど、なぜピレリはこんなにレースに力を入れているんですか?

DIABLOMAN Icon パターン3

おっ、そう来たか(笑)。じつはピレリは他にも世界各国のタレントカップやルーキーズ、さらにその手前のMiniGPといったレースにもタイヤを供給しているんだよ。

Driver Icon

……いろんなレースにタイヤを供給しているけど、それってどんなメリットがあるんですか?

DIABLOMAN Icon パターン1

ロードレースの頂点にMotoGPがあるのは知っているよね? そしてMotoGPライダーになるにはMoto3→Moto2と順に上がってくるのがセオリーだけど、そこに至るには各国で行われているタレントカップやルーキーズと呼ばれる登竜門レースで成績を残すのが今の流れなんだ。

Driver Icon

確かにいきなりトップカテゴリーのMotoGPやWSBKのライダーになるっていうのは見たことがないよね。

DIABLOMAN Icon パターン3

でもね、ライディングテクニックが優れていても速いマシンや良いタイヤに恵まれないと勝つことはできないし、それにはコストがかかるよね。さらにバイクレースも含むモータースポーツって、欧州のイメージが強いけど、もっと「世界のスポーツにしよう!」という機運も高まってきた。だから世界各地でタレントカップなどが行われ、さらには10~14歳のライダーが参戦するMiniGPも開催。「MotoGPに至るライダーを育てていこう」という一貫した『Road to MotoGP』というアプローチが始まったんだ。

MinigpFinal_ohvale2.jpg
『Road to MotoGP』のコンセプトで行われているMiniGP(https://www.minigp.jp/)。日本でも2022年から開催され、世界に挑戦するヤングライダーが奮闘している。


Driver Icon

なるほど。ということはピレリはライダーを育てるためにレースに力を入れているってこと?

DIABLOMAN Icon パターン3

そう、ピレリはこういった思想に賛同してレースにタイヤ供給をしているんだ。レースの勝敗におけるタイヤの影響ってすごく大きいんだけれど、ワンメイクにすれば基本的にみんな同じタイヤだから、条件は変わらない。そうなると各ライダーのスキルの勝負になるよね。子供たちや若いライダーが、格差なく平等にMotoGPを目指して頑張れるのは良いコトでしょ。

Driver Icon

だからワンメイクなんだ!すごい納得した。

DIABLOMAN Icon パターン1

そう、ピレリのレースに対する思想のひとつだね。

Driver Icon

えっ、他にもレースをやる理由があるの?

DIABLOMAN Icon パターン3

もちろん! ここまではレーシングライダー寄りの理由だけど、ピレリは世界中の一般ライダーに向けてタイヤを作っているからね。

Driver Icon

たしかに。私はレースに出ないから、ここまでの話はあまり関係ないかも………。

DIABLOMAN Icon パターン1

だよね。だけど「ピレリはレースで使うタイヤをそのまま市販する」って聞いたらどう思う? っていうか「ピレリは市販しているタイヤをレースに使う」ということなんだけどね!

Driver Icon

ええっ、そうなんですか!? それは凄い。

DIABLOMAN Icon パターン3

ほら、ちょっと興味が湧いたでしょ?

Driver Icon

だって、本格的なレースに使うタイヤって、もっと特別なモノだと思っていたから。というか買えると思っていなかった。

DIABLOMAN Icon パターン1

普通そう思うよね。でもピレリのタイヤは、たとえばWSBKで使っているタイヤを、誰でも買うことができるんだ。スリックタイヤは公道走行はできないけれど、サーキットで使うことはできるんだよ。それにプロダクションレース用のディアブロ スーパーコルサV4 SCと同じパターンのディアブロ スーパーコルサV4 SPなら、公道走行も可能だよ。

014_Supercorsa-v4_SC_gruppo-schiarito.jpg
DIABLO SUPERCORSA V4 SC
プロダクションレース用のDIABLO™ SUPER CORSA V4 SC。WSBK参戦のノウハウで磨き続け、スーパーコルサシリーズは世界中のイベントレースで圧倒的なシェアを誇る。
015_Supercorsa-v4_SP_gruppo-schiarito.jpg
DIABLO SUPERCORSA V4 SP
DIABLO™ SUPER CORSA V4 SCと同パターンだが、その中身やコンパウンドは別物。ウォームアップ性に優れ、多くのスーパースポーツのOEMタイヤに採用されている。


Driver Icon

そうなんだ~。でも、なんで市販タイヤをレースに使うんですか?

DIABLOMAN Icon パターン3

それは、安全性や耐久性も含めて、レースこそが究極のテストを行える現場だからだよ。たとえば市販車で320km/hからフルブレーキングしても壊れないタイヤを、実走行でテストできるのはスーパーバイクレースくらいでしょ。

Driver Icon

そうですね……(汗)。確かに色々なメーカーのバイクや乗り方の異なるライダーがいるからどんなテストよりも厳しい環境ですね。

DIABLOMAN Icon パターン3

それにね、ピレリといえば「スチールベルト」が大きな特徴なんだけれど、これは元々ストリート用に開発された技術なんだよ。そのスチールベルトを究極の環境でテストできるのが、レース参戦だったんだ。

steel_belt.jpg
タイヤの周方向に対して0度に巻かれるスチールベルト。メッツラーが開発した技術で、メッツラーとピレリがR&Dを繰り返し、進化させている。


Driver Icon

そんな理由もあったんですね! ……でも、やっぱりレース用は市販タイヤとまったく同じってワケではないんでしょ?

DIABLOMAN Icon パターン1

本当に疑り深いなぁ~。コレは表現が難しいんだけれど「違うけど、違わない」という表現が良いかな。

Driver Icon

ん?それってどうゆうコト?

DIABLOMAN Icon パターン3

たとえばWSBKの場合、まずは3種類のタイヤを用意するんだ。ひとつは前のレースでいちばん成績の良かったタイヤ。もうひとつは去年のレースで、そのサーキットでいちばん成績の良かったタイヤ。そして、それらを参考に開発したまったく新しいタイヤ。この3種類をテストして2種類に絞って本番のレースに臨むんだ。

toprak-razgatlioglu-bmw.jpg
様々なメーカー、エンジン形式、排気量の市販車をレベルの高いライダー達がテストする環境であるWSBK。様々な意見が集約され、常にタイヤの開発が行われているのだ。


Driver Icon

ほらっ、やっぱり特別なタイヤじゃないですか!

DIABLOMAN Icon パターン3

いやいや、そうじゃないんだ。WSBKのタイヤは「先行開発品」という扱いになるけれど、基本的には翌シーズンの市販タイヤになるパターンが多いんだ。それに同シーズンのタイヤでも、鈴鹿8時間耐久レースや全日本ロードレースなどに使いたいという要望があれば、(在庫があれば)買うことができるんだよ。その意味では、間違いなく「市販タイヤ」だよ。

Driver Icon

そうなんだ~。……ということは、ライバルのタイヤメーカーも、簡単にピレリの最新レース用タイヤが手に入るってことですよね? それじゃ大切な技術とかが流出しちゃうんじゃないですか?

DIABLOMAN Icon パターン2

良いトコロに気が付いたね~(笑)。たしかに簡単に手に入るし、しっかり分析されているみたいだよ。

Driver Icon

それってマズいんじゃないですか?

DIABLOMAN Icon パターン2

今は解析技術が進んでいるから、どんな素材や成分を使っているかは、ほぼ完全にわかるみたいだね。もちろん分解すれば内部構造もわかる。ところがそれを元に製造しても、まず同じ性能やフィーリングのタイヤはできないんだ。

Driver Icon

そうなんですか?

DIABLOMAN Icon パターン2

たとえば一流のシェフやパティシエの方が、料理やお菓子のレシピを公開していることがあるでしょ。で、その通りに作ったら「似たモノ」は出来るけれど、まったく同じにはならない。ちょっとした火加減のタイミングとか、その日の温度や湿度に合わせて作業時間を調整したりとか、そういうノウハウまではマネできない。専門的には「物性変化」って言うんだけど、現代の技術でもそこまで細かな分析は無理なんだ。タイヤの開発とか製造ってとてもセンシティブで、この微妙な違いがレースだと成績に影響するんだよね。

pirelli_factory.jpg
ピレリタイヤは世界各国で生産を行っている。当然、ゴムの原材料などは生産地で変わるわけだが、全世界で同じクオリティのものを作るために「物性変化」を完璧にコントロールしているのだ。


Driver Icon

凄いレベルの話ですね。

DIABLOMAN Icon パターン2

でもね、一流シェフの料理はそのレストランでしか食べられないからスペシャルタイヤに近いかもしれないけれど、ピレリタイヤは本格的なレース用でも市販の量産品だから、ピレリタイヤを扱っているショップなどで買うことができるんだ。そういうタイヤを安定して量産できる工場をもっている、というところが、ピレリの大きな特徴かもしれないね。

Driver Icon

んん~、それを聞くと私はレースはしないけれど、なんだかピレリのタイヤが欲しくなってきましたよ~!