写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里
2024年シーズン、ピレリはロードレース世界選手権Moto2クラス、Moto3クラスのタイヤサプライヤーとなりました。
世界選手権としては、ピレリはこれまでスーパーバイク世界選手権(WSBK)、スーパースポーツ世界選手権(WSSP)、スーパースポーツ300世界選手権(WSSP300)にタイヤを供給し続けています。しかし、量産車ベースのマシンで争われるWSBK、WSSP、WSSP300とは異なり、ロードレース世界選手権Moto2、Moto3は競技用のレーシングマシンで争われるクラスです。
ピレリがMoto2クラス、Moto3クラスにタイヤを供給する目的は? 「We sell what we race, we race what we sell.(レースしているタイヤを売り、売っているタイヤでレースをする)」という理念を持つピレリがこの2つのクラスに供給するタイヤは? そして、2024年のタイヤ供給で期待することは?
Moto2&Moto3プロジェクト・コーディネーター、ルカ・バルベッティさんに話を聞きました。
バルベッティさんは、Moto2、Moto3へのタイヤ供給の目的について、こう説明します。
「Moto2、Moto3への参戦で私たちが目的としているのは、新しいプラットフォームを持つことです。そしてまた、テストのための、つまり、これまで公式には関わってこなかったMoto2、Moto3バイクのように異なる環境で、スタンダードレンジのタイヤを使うためのプラットフォームを持つことなのです」
「私たちにとっては新たな挑戦ですが、新たな冒険でも成功できると確信していますよ」
そう語るバルベッティさんに、Moto2、Moto3に供給されるタイヤについて確認しました。つまり、これまでの理念「We sell what we race, we race what we sell.(レースしているタイヤを売り、売っているタイヤでレースをする)」は、新たな“冒険”にも適用されているのか、と。
バルベッティさんの答えは、「そうです、まさに同じフィロソフィーを適用しました」というものでした。つまり、Moto2とMoto3に供給されているのは、一般に購入できるピレリタイヤ、DIABLO™ SUPERBIKEなのです。
ただし、サーキットによっては開発ソリューションを投入する可能性がある、ということでした。例えば、カタールGPでは、Moto3のスリック・リヤタイヤに、ソフト(SC1)とミディアム(SC2)に加え、ハードコンパウンド(C1096)がアロケーションされています。
「ルサイル・インターナショナル・サーキットは、最近(2023年)再舗装されたばかりで特性が分からないので、3つ目のソリューションを持ち込むことにしました。つまり、安全のためです。現時点では、Moto3マシンへの理解が十分というわけでもありませんしね。また、砂の影響も考慮しました。砂がタイヤの摩耗について問題を引き起こす可能性があると考えたのです。ただし、このオプションは、次戦ポルティマオでは使用できません」
2024年シーズンのMotoGPは、カタールGP終了時点で全21戦が予定されています。そして、その開催国は中東からヨーロッパ、アメリカ、アジア、日本、オーストラリアなど多岐にわたります。それは気候やコンディションも様々であるということです。豊富なデータの蓄積も期待している、とバルベッティさんは語ります。
「私たちの仕事はデータを集め、開発の方向性が適切かどうかを検証することです。非常に応用範囲の広いタイヤだから、ライダーや市場に提案することができるのです。ですから、私たちは非常に暑かったり、路面がタイヤに厳しいサーキットのどちらでもレースをしていく必要があるのです。あるいは、夏でも非常に気温が低かったり、とても(路面が)滑らかなサーキットでもね」
「通常、Moto2とMoto3に供給するのは2種類のコンパウンドです。世界中のどんなサーキットでもどんな状況でもレースができるように、です。そして、そのタイヤは、国内選手権でも使用できるものなのです」
「これが私たちのフィロソフィーです。これをマネージメントすることは簡単なことではありません。しかし、私たちの意見としては、どんな場所でも性能を発揮できる製品を市場に提案する、最善の方法なのです」
Moto2、Moto3という、ピレリにとって新しいバイクへのタイヤ供給と、さらに多様なコンディションを経て得られたデータは、市販されるタイヤのさらなる進化へつながります。
「何かをテストして、目標に達するタイムであれば、そのソリューションは近い将来、通常の市販タイヤに導入されます。私たちは、普段、サーキットそのものをターゲットにした作業は行いません。しかし、もしフィードバックがポジティブなものであれば、市場に導入できる可能性があります。いつもとは限りませんよ。破棄することもありますし、場合によっては、ほかの開発工程を設けなければならない時もあります。しかし、それが通常のフィロソフィーであり、ピレリの強みです。簡単なことではありませんが、それがピレリにとって、とても価値のあるものなのです」
同席したアレッサンドロ・カレッフィさん(アジア-パシフィック・モーターサイクル・レーシング・マネージャー)も、こう語っています。
「私たちは製品を開発しますが、古いものよりも優れていると判断した場合は、その製品を生産していきます。1週間後には、世界中の誰もがその製品を使えるようになるんですよ」
では、2024年のMoto2、Moto3へのタイヤ供給によって、ピレリが期待することは何でしょうか。
「最初のテストを見ると、当然、ライダーはどのサーキットでも速く……、おそらく多くのサーキットで以前よりも速くなるでしょうね。それが、私たちが期待することですよ。また、Moto2、Moto3のプラットフォームを利用して、いくつかの選択肢を確認したり、他の選択肢の開発を加速させていく予定です」
「今年はすべての情報を収集し、整理してそれを統合する年です。そして、2025年、2026年に向けた進化を定めます。今年は、ピレリタイヤとしてだけではなく、プロモーターやテクニカルスタッフとの関係性などにおいても学びの年になるからです。今後のために、タイヤのパフォーマンスを含めて総括的に考える必要があるのです」
2024年、ピレリは新しい“冒険”をスタートしました。しかし、その内にある理念は変わりません。「We sell what we race, we race what we sell.(レースしているタイヤを売り、売っているタイヤでレースをする)」。適用範囲をさらに広げるべく、ピレリは新たなプラットフォームを求めたのです。
ルカ・バルベッティさん
ピレリ Moto2&Moto3プロジェクト・コーディネーター
2001年ピレリ入社、モーターサイクル部門でFIM世界耐久選手権やモトクロス世界選手権、エンデューロ世界選手権など、数多くの国内、国際ロードレース、オフロードレース選手権に携わる。2024年、Moto2、Moto3へのタイヤ供給にともない、プロジェクト・コーディネーターに就任。