写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里
MotoGP第18戦タイGP
10月25日~27日/タイ チャン・インターナショナル・サーキット
Moto2小椋藍「想像していたくらい、うれしい」
小椋藍(MTヘルメット – MSI)はタイGPの予選Q2でポールポジションを獲得し、最高のポジションから決勝レースに臨みました。前戦オーストラリアGPを終えて、ランキングトップの小椋は、ランキング2番手に浮上したアロン・カネト(ファンティック・レーシング)に対して65ポイントの差を築いていました。小椋は5位以上を獲得すれば、チャンピオンが決定するという状況だったのです。
金曜日も予選も晴れてドライコンディションで行われましたが、日曜日だけは朝から雲が空を覆い、雨が降りました。その後、雨は止んでMoto3の決勝レースはウエットレース宣言ながらスリックタイヤでのレースとなるのですが、Moto2の決勝レース前に再び雨が降ったのです。
「ああ、ウエットのレースだ」
レーシングスーツに着替え終えた小椋は、降っている雨を見て、完全に気持ちを切り替えたと言います。しかし、実際にコースインをしてみると、ホームストレートはウエットではあるものの、他はドライコンディションであることが分かったのです。この状況に、元々の目標である表彰台圏内で走れるかな、と考えていました。
もちろん、スタート前は「さすがに緊張した」そうです。といっても「コンディションのせいで緊張しました。どうなるか分からなかったので。ドライだったら、あまり緊張しなかったと思うんですけどね」ということでした。
路面状況が不透明だったために少し様子を見たスタート後、数周で後退してから、6周目以降に追い上げを開始。10周目には3番手、14周目には2番手にまで浮上し、トップのカネトに接近する勢いを見せていました。ただ、ここで雨が再び降り出します。そして、2周を残した20周目に赤旗が提示され、全周回数の3分の2を完了していたことから、レースは終了となりました。
2位を獲得した小椋は、2024年シーズンのMoto2クラスチャンピオンに輝いたのです。2009年、250㏄クラスでチャンピオンを獲得した、青山博一(現ホンダ・チームアジア監督)以来、15年ぶりとなる、日本人ライダーのチャンピオンとなりました。
小椋が歓喜をより実感したのは、パルクフェルメにやって来て、チームに迎えられたときだったそうです。
「ボクは、世界選手権でレースをしているときは、勝って自分がうれしいというよりも、周りが喜んでくれることがいちばんうれしいと感じるんです。だからやっぱり、(パルクフェルメに)帰ってきてチームのみんなを見たときのほうが、うれしさはありましたね」
そして、「想像していたくらい、うれしいです。レース人生では、(MotoGP、Moto2、Moto3のクラスにかかわらず)世界チャンピオンになることをいちばん大きな目標としていました。それを達成できましたから」とも言って、目を細めていました。
「これまでに2度、チャンピオンになるチャンスを失ってきましたが、ボクはこのタイトルだけを夢見てきたんです。そして、ついに成し遂げました。今、ボクは心からMotoGPにステップアップする準備ができていると感じられています」
2020年にMoto3クラスで、2022年にMoto2クラスでチャンピオン争いを繰り広げてきた小椋は、3度目のタイトル争いで、ついに世界チャンピオンという、自分が追い求めてきた栄冠を手にしたのでした。
Moto3古里太陽、表彰台争いを展開するも最終ラップ最終コーナーで接触、転倒
Moto3クラスはウエットレースが宣言され、周回数は当初の予定の19周から12周に減算されて行われました。ただ、ウエットレースが宣言されたものの、ほとんどのライダーがスリックタイヤで臨むコンディションではありました。
古里太陽(ホンダ・チームアジア)は4番手からスタートして、レース中盤にはトップに立ち、最終ラップまで5名による優勝争い、表彰台争いに加わりました。しかし、最終コーナーを立ち上がってメインストレートに入ったとき、コーリン・ヴァイヤー(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)と接触し、転倒を喫しました。痛みはあるものの、古里に大きなけがはなかったということです。また、転倒後にマシンとライダーがフィニッシュラインを通過したことで、古里は5位を獲得しています。
「最低でも表彰台は、とは思っていたんですけどね。最終ラップ、勝負になるとは思っていました。幸い後ろに誰もいなくて、ひかれずにすんだのでよかったです」
Moto2クラスに参戦する佐々木歩夢(ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)は、今季自己ベストの予選順位である12番手からスタートしました。ただ、決勝レースではチャタリングに苦しみ、それでもポイント圏内の13位でゴール。Moto2クラスで2度目となるポイント獲得を果たしています。
「レースはまたチャタリングに苦しんでしまいました。この問題がここ4戦続いています。チャタリングがなければ5、6番手のグループにはついていけたと思うのですが……。改善できるように、次のレースに向けて集中したいです」
また、佐々木はずっと切磋琢磨してきた小椋のチャンピオン獲得にコメントを寄せました。
「アジア・タレントカップからずっとライバルで、一緒に走ってきました。(小椋は)今年いちばん速かったと思います。自分も藍みたいに強くなって、MotoGPライダーになれるように頑張りたいと思います」
Moto3の鈴木竜生(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)は10位でゴール。20番手からのスタートが響きました。山中琉聖(MTヘルメット – MSI)は、セクター3のウエットパッチにのってハイサイドを喫するミスを2回起こし、順位を下げて11位でのフィニッシュとなりました。
次戦、第19戦マレーシアGPは、11月1日から3日にかけて、マレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで行われます。