写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里
ピレリは2024年より、イデミツ・アジア・タレントカップのタイヤサプライヤーとなりました。
イデミツ・アジア・タレントカップは、アジア、オセアニア地域の若いライダーの育成を目的とする選手権です。MotoGPの登竜門とも言われており、今季、Moto2クラスに参戦する小椋藍や佐々木歩夢、Moto3クラスの山中琉聖、古里太陽なども、ここからロードレース世界選手権への道を拓いていきました。
そんなイデミツ・アジア・タレントカップへのタイヤ供給について、アジア-パシフィック・モーターサイクル・レーシング・マネージャーのアレッサンドロ・カレッフィさんに話を聞きました。
カレッフィさんは、ピレリがイデミツ・アジア・タレントカップにタイヤを供給する目的について、こう説明しています。
「ピレリがMoto2、Moto3とすべてのタレントカップにタイヤを供給することは大きな一歩です。私たちのサービスとビジネスを、以前とは異なる国々で展開することを意味します。スーパーバイク(スーパーバイク世界選手権)は、主にヨーロッパでの開催でしたからね。日本で最後にスーパーバイクが行われたのは、2003年。21年前のことですから、日本に戻って来られて、我々のブランドを披露できてうれしく思っています」
「タレントカップは、ドルナによる非常に有効な道筋だと思いますよ。未来の世代にとって、本物のプロフェッショナルな環境で成長する機会がありますからね。また、私は2月の終わりに、全日本J-GP3のテストのために日本に行きました。今年、ピレリは全日本J-GP3の数チームとともにスタートするのです。アジア・タレントカップでも、5名の日本人ライダーが活躍しているのは喜ばしいことですよね。ピレリはビジネスだけではなく、スポーツに信頼を置いています。そして、どこであろうと、このスポーツの成長をサポートしようと努めているのです」
ピレリがホンダ・NSF250Rによって争われるイデミツ・アジア・タレントカップに供給するタイヤは、DIABLO™ SUPERBIKEのSC2。サイズは100/70 R17、120/70 R17です。
「Moto3ではSC1とSC2、2つのコンパウンドが使用できますが、タレントカップでは、SC2のみ供給します。タイヤの複雑さを回避するためです。子供たちはひとつの選択肢しか持たず、そのひとつのコンパウンドですべてのレースを戦うことになります」と、カレッフィさんは説明します。
バイクもタイヤもできるだけイコールのコンディションとすることが、タイヤの理解につながり、ライダーを成長させるからです。
そして、カレッフィさんはピレリが描く、若いライダーたちの世界への道筋を語り始めました。
「日本のキッズライダーが、DIABLO™ SUPERBIKE SC2を使って、全日本J-GP3への参戦を始めたとしましょう」
「そのライダーがアジア・タレントカップにやってきたときに、また同じタイヤ(SC2)を履くことができます。そしてそれは、ロードレース世界選手権Moto3に行っても同じです」
「技術的な側面から考えると、そのライダーの16歳から21歳までの5年間、3つの異なる国内、国際選手権で同じ知識を使えるのは非常に有益ですよね。だから、ピレリは市販するタイヤでレースをするのです。私たちは、日本やアメリカなど、どこでも同じ製品を保証できるのです」
それは、ピレリが「We sell what we race, we race what we sell.(レースしているタイヤを売り、売っているタイヤでレースをする)」の理念を掲げているからこそ。
というのも、ピレリが供給するのはプロトタイプのタイヤではないからです。全日本ロードレース選手権J-GP3、イデミツ・アジア・タレントカップ、ロードレース世界選手権Moto3に供給されるSC2は、市販されている同じタイヤなのです。
ここに付け加えると、ピレリは2024年からイデミツ・アジア・タレントカップのみならず、その先のMotoGPの登竜門、ジュニアGP世界選手権、レッドブル・ルーキーズカップのタイヤサプライヤーとなりました。2021年から始まったFIM MiniGPワールドシリーズを含め、世界選手権まで一貫してピレリタイヤによって戦うことができるルートになったのです。
そうしてスタートしたピレリのイデミツ・アジア・タレントカップへのタイヤ供給ですが、開幕戦カタールGPは季節柄、高温ではなかったものの、長いブレイクを経て9月に行われる第2戦インド大会などは、暑い気候が予想されます。そのようなコンディションにおいて、ひとつのコンパウンドのみのタイヤのパフォーマンスはどう考えているのでしょうか。
「アジア・タレントカップが行われるサーキットを考えると、例えば、私たちにはインドでのレース経験はありません。けれど、ほかのサーキットでは数年間にわたって経験があります。特に東南アジアはね。ですから、問題は小さなものですよ」
「アジアでは朝の10時から午後の5時まで、だいたい同じ気温ですからね(イデミツ・アジア・タレントカップに供給する)SC2は、どこであっても十分な性能だと考えています」
また、アジアでのレース人気やライダーのパフォーマンス向上について、カレッフィさんはこう語りました。
なお、テレビのMotoGP視聴者数としては、単一の国としてインドネシアが最も多いそうです。MotoGPやWSBKのファンは、東南アジア太平洋地域で増え続けている、ということでした。
「東南アジアのモータースポーツについて考えましょう。日本とオーストラリアはまったく状況が異なっていて、日本はヨーロッパやオーストラリアのように、モータースポーツにおいては長い歴史を持っていますからね。東南アジアや中国のような北アジア、そしてマレーシア、タイなどは、たった15年前にモータースポーツの歴史が始まったばかりです。すべてにおいてとても若い、と考えられます。ライダーだけではなく、テクニックなど多くのことに関わらなければなりません」
「私たちは、東南アジア、アジア太平洋全域で、レースを発展させようとしています。それができると信じていますし、そのための適切な製品もあります」
そのような熱いエネルギーを持つ東南アジアを含む地域で、MotoGPを目指すライダーたちがイデミツ・アジア・タレントカップを戦っています。彼らはロードレース世界選手権へと駆け上がるキャリアを通じて、ピレリで戦っていくことになるのです。
アレッサンドロ・カレッフィさん
ピレリ アジア-パシフィック・モーターサイクル・レーシング・マネージャー
モーターサイクル・レース分野で20年以上の経験を持つ。長年、WSBKやFIM世界耐久選手権でトラックサイド・エンジニアとして活躍していた。現在はアジア太平洋地域の全モーターサイクル・レース活動を担当する。