写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里

イデミツ・アジア・タレントカップ第1戦カタール大会
3月8日~10日/ルサイル・インターナショナル・サーキット

2024年シーズンのイデミツ・アジア・タレントカップ開幕戦は、MotoGP第1戦カタールGPに併催で行われました。イデミツ・アジア・タレントカップは、アジアからオセアニア地域の若手ライダー育成を目的に、2014年にスタートした選手権です。マシンはホンダ・NSF250Rのワンメイク、そしてタイヤは今年からピレリがサプライヤーとなりました。

選手権はこれまで多くのライダーを輩出しており、例えば、現在Moto2で活躍する小椋藍、佐々木歩夢、そして今季はスーパースポーツ世界選手権に参戦する鳥羽海渡なども出身ライダーです。

今季は5名の日本人ライダーがエントリーします。参戦2年目の荻原羚大、三谷然、高平理智、そして今季から参戦する池上聖竜、竹本倫太郎です。

レース1:三谷が初優勝。日本人ライダーが表彰台を独占

レース1は、土曜日の現地時間16時にスタートしました。ホールショットを奪ったのは、2列目5番グリッドからスタートした荻原です。その荻原に続くのは、初のポールポジションを獲得した三谷でした。

三谷は荻原の後ろにぴたりとついて走りながら、様子をうかがっていました。一方の荻原は「集団を小さくしよう」と考えてラップタイムを上げ、その結果、荻原と三谷の2人が抜け出す形となります。荻原としても、三谷がついてくるのは想定内でした。

ところが、4周目、荻原にとって想定外が起こります。ゼブラに乗り上げ、リヤが滑ってハイサイド転倒を喫したのです。再スタートを試みるも、エンジンがかからず、荻原はリタイア。それまで作戦通りの展開だっただけに、痛恨の転倒となりました。

代わってトップに立った三谷は、快走を続けます。そして2番手に7秒以上の差をつけて、独走で優勝を飾ったのです。ポールポジション、レース中のファステストラップ更新、そして優勝。まさにパーフェクト・ウインとなりました。

一方、2位、3位は激しく争われました。表彰台を争うのは、5人のライダーです。そのなかには、高平、池上がいました。勝負の最終ラップを、高平は2番手、池上は4番手で迎えます。オーバーテイクを繰り返す激しいバトル。そんななかで高平は12、13コーナーで2番手に浮上し、池上も3番手に上がると、そのポジションを守ってチェッカーを受けました。

イデミツ・アジア・タレントカップ カタール大会レース1の表彰台は、日本人ライダーが独占したのです。

三谷にとっては、参戦2年目での初優勝でした。表彰台では、感に堪えない表情を浮かべて君が代を聞いていました。

そんな三谷は、レース後、「納得のレースです。初めてのポールポジション、初めてレコードも出して、初めての優勝だったので、うれしいです。去年1年間戦ってきて、優勝できそうなのに逃すことが多かったんです。今回初めて、ああいうシチュエーションで勝てて……」と、落ち着いた様子で初優勝について語りました。

初優勝の三谷然選手
レース1でイデミツ・アジア・タレントカップ初優勝を飾った三谷

一方、2位の高平は、あまり満足していない表情を浮かべていました。「スタートでかなりミスをしてポジションダウンしちゃって。そのあとのレース展開がすごく難しかったです」と、レースを振り返りました。

同じくスタートで失敗したという3位の池上も「結果的に3位になったんですけど、前の転倒があっての3位だったので、自力での表彰台ではないです。本当はもっとトップについていくのが第1戦のレース1の目標だったので、それが果たせなかった」と悔しそうに語っていました。今回がイデミツ・アジア・タレントカップでの初レースだった池上は、イデミツ・アジア・タレントカップ仕様のNSF250Rのクラッチの感覚の違いに戸惑いがあったのだそうです。

竹本はイデミツ・アジア・タレントカップの初レースを表彰台争いの集団で戦い、7位でゴールしました。

「スタートで失敗してしまって、だいぶ後方になってしまいました。なんとか第2集団にはついていけましたが、ペース的に自分のベストと比べるとだいぶ速くて、ついていくのに必死でした。それに、後半タイヤがたれてきてしまい、前に出られなかったです。タイヤがたれて全然前にいけなかったので、レース2は後半にトップ集団のなかで争っていきたいと思います」

トップを走りながら転倒リタイアとなった荻原は、昨年の経験をしっかり生かしたレースでした。それだけに、悔しさも大きかったようですが、「スタートは本当に集中していましたし、転ぶ前までは、自分の思い通りだったんです。それだけに、すごく悔しい……。今日したミスは、明日は絶対にしない。去年も勝てていないので、(イデミツ・アジア・タレントカップで)初優勝できるように頑張ります」と語っています。

レース2:三谷2位、高平3位、ともに2レースで表彰台に立つ

日曜日のレース2は、現地時間14時35分にスタートしました。このレースでも荻原がホールショットを奪ってトップに立ち、その後ろには三谷がつけます。レース1と違ったのは、この2人に、高平を含む4人のライダーが続いたことでした。トップ集団は荻原、三谷、高平など6人のライダーで形成されました。

4周目、ハリス・ハフィが奪ったトップを荻原が奪い返します。5周目に入るストレートではハフィが前に出ようとし、1コーナーのブレーキングで荻原もアウト側からブレーキング。しかし、ハフィのフロントタイヤと荻原のリヤタイヤが当たってともに転倒を喫し、トップ争いから脱落しました。

トップ争いの混戦は続き、その中でも、キアンドラ・ラマディパ、三谷、高平が表彰台圏内を争っていました。トップを入れ替えながら周回を重ね、最終ラップに入ります。最終ラップの1コーナーにトップで入ったのは、三谷でした。しかし、高平も7コーナーで三谷をオーバーテイク。2人のバトルにラマディパが割って入り、トップに浮上します。ラマディパがそのままトップでゴールし、三谷が2位、高平が3位でフィニッシュしました。三谷、高平ともに、2レースでの表彰台獲得でした。

レース2終盤での優勝争い
接戦のトップ争いは最終ラップにまで持ち越された

混戦となったレース2を2位で終えた三谷は、優勝を逃した悔しさをにじませつつ、「ボクが前に出て抜け出そうとしても、後ろのライダーがストレートのスリップ(ストリーム)で出てきちゃったり、という場面が多かったので、中盤からは逃げ切るのではなく混戦のなかで勝とうと思っていました。最終ラップ自体は、悪くなかったと思います」と語っていました。

同じく接戦で3位を獲得した高平は、レース1の反省を生かしてスタートで前に出ました。中盤にトップに立ったとき、リードできるペースがあればよかった、と反省点を挙げつつも、「レース展開としてはあまりよくなかったけど、昨日より少し満足できるレースでした」と、振り返っています。

表彰台の高平理智選手
カタール大会の2レースで表彰台に立った高平

転倒後に再スタートした荻原は、16位でゴール。開幕戦カタール大会の2レースで2度の転倒を喫しました。荻原は、2023年のイデミツ・アジア・タレントカップでは、シーズンを通じて2回の転倒にとどまっていたほど転倒が少なかったのです。今大会の転倒の背景には、今季に挑む覚悟があったようでした。

「今年で結果を残さないといけない、という焦りは多少あるかもしれません。昨日みたいにコースの外に出るようなミスは、したことがないんです。次戦が9月でだいぶ空くので、しっかり準備して、まずは1勝するためのトレーニングをしていきたいです」

レース1で3位だった池上は、レース2ではサイティングラップでマシンに異変を感じてピットインし、マシンを交換して17位でゴールしました。

「マシンを変えたのでセッティングが全然違ったんですが、そのわりにはタイムもまあまあ出ていたんです。自分のマシンだったら、トップで走ることくらいはできたと思います。今回はレース1もレース2もあまりよくない結果で終わってしまいましたが、インドに向けてやることは分かったので、次のインドでは勝ちたいと思います」

また、竹本は6周目に転倒を喫してリタイアとなりました。スタートでミスをしてしまい、その焦りもあったようです。

「前のライダーが急に減速したので、自分の減速が間に合わずに当たってしまいました。スタートがレース1もレース2もよくなかったので、次のインドまでにスタートの練習と、ブレーキングの姿勢がよくなるように練習したいと思います」

イデミツ・アジア・タレントカップの第2戦インド大会は、9月22日、インドのブッダ・インターナショナル・サーキットで行われます。

2024年 イデミツ・アジア・タレントカップに参戦する日本人ライダー

#2 三谷然(みたに ぜん)

2007年3月27生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦2年目(2023年ランキング5位)

■目標とするライダー
「目標のライダーは、オフシーズン中も一緒に練習していた小椋藍選手です。(理想の)ライディングフォームは、ダビド・アロンソ(現Moto3ライダー)。歳がすごく近いんです。でも、彼は上(Moto3クラス)で戦っているし、彼を目標にしていきたいと思っています」

三谷然

#9 高平理智(たかひら・りいち)

2009年1月14日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦2年目(2023年ランキング6位)

■目標とするライダー
「バレンティーノ・ロッシ。人を動かすようなライダーだからです。だから、僕も笑顔を意識しているし、明るく人と接するように心がけています」

高平理智

#14 池上聖竜(いけがみ・せいりゅう)

2008年10月20日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦1年目。2022 FIM MiniGP Japan Seriesチャンピオン。2022 FIM MiniGP World Series Final総合ランキング3位。

■目標とするライダー
「マルク・マルケス選手。ホンダのときから、ほかの選手より転倒回避能力がすごい。今はドゥカティですけど、乗り替えて最初から成績がいい。すぐに対応できる能力を持つマルク・マルケス選手がすごいなと思っています。ボクもいろいろなバイクに乗り換えるんですけど、最初はどのサーキットでも遅い、というのが課題なんです。カタールのテストも最初はすごく遅かったので。いまは、マルク・マルケス選手を目標として走っています」

池上聖竜

#16 荻原羚大(おぎわら・りょうた)

2008年9月7日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦2年目(2023年ランキング3位)

■目標とするライダー
「目標でいつか超えたいと思っているのは、小椋藍選手です。オフシーズン中もよく一緒にトレーニングしてくれるのですが、間近で見ていて、藍選手の走りはすごいなと思うんです。マシンの扱い方がボクとは全然違う。手足のように扱うから、すごいなと思っています。理想だし、いつか超えたいですね」

荻原羚大

#21 竹本倫太郎(たけもと・りんたろう)

2008年6月24日生まれ。ホンダレーシングスクール鈴鹿スカラシップを獲得

■目標とするライダー
「僕の好きなライダーは、ケーシー・ストーナーです。バイクと一体化しながら曲がっていくのが理想的なんです。ストーナーの走り方は一体化してきれいに走っていくので、それを目標としています。MotoGPのアーカイブを見て、ストーナーの走り方すごいな、と思ったんです」

竹本倫太郎

参戦ライダーたちの集合写真
2024年のイデミツ・アジア・タレントカップに参戦する若きライダーたち