知っているようで知らないタイヤの中身、じつは「骨格」と「筋肉」でバイクの走りをしっかり支えているんです!

一見すると「黒いゴムの輪っか」でしかないバイクのタイヤ、実際のところ「中身」はどうなっているんだろう? じつはタイヤは想像以上に複雑な構造で、ゴムは「蕎麦打ち」のように作って、組み立ては「100年間ずっと手作業」。聞けば聞くほど、これはあまりにも想定外……。

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すごく今さらな疑問ですけど、タイヤの「中身」ってどうなっているんですか? パッと見は「ゴムの輪っか」ですよね?冷静に考えると「ゴムの輪っか」が大パワーや最高速を支えているのってすごいな、と。

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……おっと今回はそうきたか(笑)。まぁタイヤって、ゴムの塊にしか見えないよね。

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ですよね。タイヤって、風船のような感じで、全部ゴムでできているんですか?

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いや全部ゴムだったら、空気を入れたらドンドン膨らんじゃう。それこそ風船みたいに。じつはタイヤの中身って、けっこう複雑なんだ。というワケで、目に見えているゴムが気になるのは分かるけれど、まずは中身から考えてみよう。
じつはバイクやクルマのタイヤは、ホイールに組み付けて空気が入った状態で「部品として一人前」になるんだよ。

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それは当たり前な気がするけど……。

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いや、正確には「空気入りタイヤ」って呼ぶくらいで、ここはけっこう重要なんだ。そして空気の入れ方には2パターンある。「チューブタイヤ」と「チューブレスタイヤ」だね。

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それは聞いたことがある気がします。

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左のチューブタイヤは、ホイールのリムとタイヤの中に収めたチューブで空気を密閉。昔ながらのスポークホイールはこのタイプが多い。右のチューブレスタイヤはホイールのリムとビードが密着して空気を密閉している。キャストホイールはこのタイプが多い。


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「チューブタイヤ」はホイールとタイヤの中に、それこそ風船のようなゴムのチューブを入れて、その中に空気を入れる方式。そして「チューブレス」はレスって言う通りチューブを使わずに、ホイールに嵌めたタイヤの中に直接空気を入れているんだ。

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チューブがないと空気が漏れちゃうような気もするけど……。

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そこはね、ホイールにタイヤが接する部分の「ビード」と呼ぶ部分の構造や形状が、チューブタイヤとチューブレスタイヤで異なっていて、チューブレスタイヤは空気が漏れないようになっているし、タイヤの内側には「インナーライナー」という空気を密閉する材料が貼ってあるんだ。

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チューブレスタイヤはビードとインナーライナーで空気を密閉している



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ところで、なぜチューブとチューブレスがあるんですか?

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それぞれに良さはあるけど、基本的にはホイール(リム)の種類によって使い分ける必要があるからだよ。オフロードバイクやモトクロッサーのようなワイヤースポークホイールだと、リムにスポークの孔が開いているから、チューブがないと空気を溜められないでしょ。反対にロードスポーツ車のキャストホイールなら空気を密閉できるからチューブレスタイヤが使える。
これはバイクのジャンルや車体やホイールの構造による要求によって使い分けているわけで、どちらが良いっていう話じゃないよね。

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なるほど~。なんとなくチューブレスの方が高性能だと思ってたけど、違うんですね。

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それでは、空気の次にタイヤの中の方にある「カーカス」の話をしようか。カーカスというのは薄くゴムを敷いた布地のようなもの。カーカスも時代によって様々な素材が使われてきた。ラジアルタイヤの場合は、布地の織が進行方向に対して90度に巻かれ、バイアスタイヤは2層以上のカーカスが……。

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その「ラジアル」と「バイアス」って聞いたことあります! なにが違うんですか!!

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おっと! やっぱりそこが気になるよね。でもちょっと待って、ラジアルとバイアスの違いは次の機会にじっくりと説明するから。その前にタイヤ全般の構造を知っておこう。その方が分かりやすいからね。

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分かりました、すでに次回が楽しみだなぁ!

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バイアスやラジアルなどの構造によって異なるけれど、カーカスの上には「ベルト」と呼ばれる繊維素材が巻き付けられているんだ。昔はアラミドなどの合成繊維が主流だったけど、ピレリは1980年代から「スチールベルト構造」を手掛けてきて、現在のバイクやクルマのタイヤの多くはこのスチール素材のベルトを使っているんだよ。

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黄色丸印の部分がカーカス。さらに内側にはインナーライナーが貼られている(図はラジアル構造のタイヤ)


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黄色丸印の部分がベルトで、カーカスの上に巻かれている。ピレリは「スチールベルト」を採用してきた。(図はラジアル構造のタイヤ)


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タイヤの進行方向に対して0度に巻かれるスチールベルト。スチールの太さや本数、ラバーでのコーティング方法、さらにタイヤに巻きつける間隔などにピレリのノウハウが詰まっている。


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黄色丸印の部分がトレッドと呼ばれる表面のゴム部分(図はラジアル構造のタイヤ)


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ピレリのスチールベルトは、何度か教えてもらっているから知ってるよ。でも、タイヤの中身がこんなに何層にもなっているなんて知らなかったなぁ~。なかなか外側のゴムに辿り着かないけど、なぜカーカスやベルトが必要なんですか?

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良い質問だね! ……と言いつつ詳しく説明するのが難しい。色々な役目があるからね。タイヤの中のカーカスやベルトは人間の身体に例えると「骨格」みたいなモノかな。しっかりした土台として、かつきちんと動くためには丈夫な「骨格」が必要でしょ。この骨格がなくて、ゴムだけだと空気を入れるとどんどん膨らんでしまう。タイヤはスピードを出すほどに遠心力で膨らもうとするからね。それを抑えるのが大きな役目で、それ以外にもしなやかさや耐久性を出したり、色々な役目がある。

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確かに、タイヤが膨らみ続けたら困りますね。

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そしてお待ちかねのゴム。正確には「トレッド」と呼ぶんだけど、骨格の上に重なっているから、人間の身体で言えば、さしずめ「筋肉」というトコロかな?

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おーっ、タイヤも骨格と筋肉で出来ているんですね! なんとなくイメージしやすいかも。

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ハイグリップタイヤとか、スポーツツーリングタイヤとか、ゴムの種類が気になったりするでしょ?

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はいっ!見た目には同じゴムですからね。どうやって作り分けているんだろう?

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スポーツに例えると「赤筋肉」はマラソンなどの持久力に富み、「白筋肉」は瞬発力に優れるから短距離走に有利、みたいに言われるよね? だからタイヤにとっての筋肉といえるトレッドのゴムも、『マラソン=スポーツツーリング』『短距離走=ハイグリップ』というような特性に仕上げているんだよ。

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なるほど~。それではゴムの特性って、どうやって作るんですか? いろんな材料を溶かして混ぜて~みたいな感じかな?

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いろんな材料を混ぜて作るのは正解だけど……、もしかしてトレッドのゴムはドロドロに溶けた液体状のモノを「型」に流し込んで鋳物のように作っていると思っていないかな?

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ん? そう思ってたけど。違うんですか?

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じつは全然違って、タイヤのゴムは「蕎麦(そば)を打って作る」のに近い。蕎麦は、そば粉に小麦粉やつなぎ粉、少量の水を混ぜて、あとは練り上げていくでしょ。ゴムの場合も、天然ゴムや合成ゴムの主材料にカーボンブラック(炭素の粉)やシリカなど他の素材、少量のオイルを混ぜたものを専用の機械で練り上げていくんだよ。

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そうなんですか! 本当に蕎麦みたいですね(笑)。蕎麦も混ぜ方や産地で味が変わるように、タイヤも混ぜる物や混ぜ方でゴムの特性が変わるということですね! 分かりやすいかも。

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産地や店によって味や風味が変わる蕎麦。タイヤのゴムの作り方は蕎麦を練ったり茹でたりするのをイメージしてもらうとわかりやすい⁉︎


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うん、だけどそれだけじゃないんだ。ここからは「タイヤの作り方」が関係してくるんだよ。

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作り方?

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そう。ここまでタイヤの構造を「中の方」から説明してきたけれど、タイヤを作る時も中の方から作っていくんだ。
まずはホイールに嵌まる部分のビードの輪を2個作って、そこにタイヤの側面になるサイドウォールの元になる部分を貼り付ける。そこにカーカスを巻いて貼るとドーナツみたいな形になって、さらにその上にベルトを巻くんだ。そして蕎麦を打つみたいに練り込んで作ったトレッドのゴムを巻き付ける。すると溝のないスリックタイヤみたいな感じのカタチになるんだけど、この状態を「生タイヤ」とか「グリーンタイヤ」って呼ぶんだ。

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インナーライナーの上に短冊状のカーカスを貼っているところ。この上からスチールベルトを巻き、その上に練り歯磨き粉のようなコンパウンドを巻き付け、生タイヤになっていくのだ。


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「生」ってコトは、まだ作っている途中ですね。

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そうだね。タイヤの種類(ラジアルやバイアスなど)によってビードやサイドウォールの構造だったりカーカスを貼る方向や枚数、ベルトの巻き方などは変わるけれど、グリーンタイヤまで組み立てるのは、いまだに人の手に委ねられているところもあるんだ。

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えっ! すべて機械で行うんじゃないんですか⁇

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そう、ピレリがタイヤを作って100年間、いまでも手作業で行っていることはとても多いんだ。中国の工場は一部機械で行う半自動になっているけどね。

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凄いですね~。

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それでね、グリーンタイヤをモールドと呼ばれるタイヤの溝などが刻まれた金型に嵌める。そしてモールドと隙間ができないように、内側からそれこそ風船をビュッと膨らまして密着させる。それから蒸気を使って熱と圧力を加えることでトレッドに溝が刻まれてタイヤが完成するんだけれど、その時の温度や圧力、そして時間が、タイヤの特性の働きを決めるんだよ。

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ゴムの特性を決めるのは、材料や構造だけじゃないんですね。その中にメーカーごとのノウハウが隠されているのはなんとなく想像できるなぁ。パスタやラーメンも茹で時間で変わりますからね。

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そ、そうだね。他にもカーカスの繊維の引っ張り方とか、ベルトのスチールのより方とか、そういう細かいことやモールドに入れてからの処理の仕方とか、膨大なノウハウで成り立っているんだ。こうしたノウハウはタイヤを分解して素材とかを分析しても分からないから、他メーカーが同じ性能のタイヤを作ることは難しいんだ。

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凄く繊細なんですね。まるで一流シェフが作る料理みたい! 隠し味とかありそうだし。

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でもね、市販タイヤは開発技術の高さと生産技術のバランスが大切なんだ。さっき、タイヤは人の手で作っているって言ったけれど、工場では多くの人が交代制で作業していて、もの凄い職人技のスキルを持った人がひとりで作っているわけじゃないよね。そんなベテランさんがお休みしたら、しばらく高性能タイヤは作れません……ではダメで、きちんとマニュアルに従って作れば誰がやっても同じ性能のタイヤが作れないとならない。

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なるほど~。それもピレリの技術力なんですね。タイヤの「中身」もゴムだけじゃないってわかったし、次は「例の件」もお願いします!

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バイアスタイヤとラジアルタイヤの違いだね。楽しみに待っていてくれよ!