写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里
WSBK第1戦アラゴンラウンド
4月8日~10日/スペイン モーターランド・アラゴン
スーパーバイク世界選手権(WSBK)の2022年シーズン開幕戦アラゴンラウンドがスペインのモーターランド・アラゴンで開催されました。2022年はピレリにとって、WSBKのワンメイクタイヤサプライヤーとして19年目のシーズンとなります。
第1戦の開催地モーターランド・アラゴンはタイヤに厳しい路面で、特にリヤタイヤには過酷なサーキットです。フロントタイヤについては、この路面状況による摩耗に加え、ストレートエンドでの激しいブレーキングに耐えることも要求され、アップダウンの激しいレイアウトにより下り坂ではフロントに大きな負荷がかかります。また、高速コーナーや複数の切り返しがあるため、タイヤへの高い信頼性やグリップ力が求められるのも特徴です。
ピレリはこのアラゴンラウンドに向け、WSBKのフロントには2種類のソフトタイヤSC1と1種類のミディアムタイヤSC2を持ち込みました。SC1のうち一つはスタンダード、もう一つはA0674と呼ばれる開発タイヤです。A0674は2021年のヘレスとポルティマオラウンドで使用され、ライダーたちから高い評価を受けました。スタンダードのSC1に比べてコーナリング中とコーナー進入でのサポート力を向上させ、フロントエンドのフィーリングを高めるために開発された新構造が特徴となります。
リヤにはスタンダードのスーパーソフトタイヤSCXとソフトタイヤSC0、そして今季から新たに投入された開発タイヤであるエクストラソフトタイヤSCQが用意されました。今季新たに登場したSCQはこれまでの予選用タイヤに代わるもので、スーパーポール(予選)とスーパーポール・レース向けのタイヤです。
スーパースポーツ世界選手権(WSS)には全てスタンダードのタイヤが用意され、フロントはソフトタイヤSC1とミディアムタイヤSC2、リヤにはスーパーソフトタイヤSCX、ソフトタイヤSC0、ミディアムタイヤSC1が持ち込まれました。
WSBK:スーパーポール・レースとレース2でバウティスタが優勝
土曜日のスーパーポール(予選)では、新たに投入されたエクストラソフトのリヤタイヤ、SCQによってトプラク・ラズガットリオグル(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)が1分48秒267、アルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)が1分48秒273を記録し、この二人のタイムは2021年にジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)が予選用タイヤで記録したスーパーポールのレコードタイム1分48秒458を上回るものでした。
レース1は気温16度、路面温度28度のドライコンディション。ポールポジションのラズガットリオグルと2番グリッドのバウティスタがフロントにSC1(スタンダード)、リヤにSCXを選択。3番グリッドのレイはフロントにSC1(開発タイヤ)を選び、リヤには二人と同じSCXをチョイスします。
序盤はレイ、ラズガットリオグル、バウティスタが三つどもえのレースを展開していましたが、次第に2021年チャンピオンのラズガットリオグルが遅れ始めました。一方、レイとバウティスタは激しいトップ争いを展開。二人の攻防は最終ラップまでもつれこみました。最終ラップに入ったときトップはレイでしたが、バウティスタがバックストレートでレイに並び、続く16コーナーのブレーキングで前に出ようとするも、レイがクロスラインでバウティスタを抜き返し、最終コーナーを立ち上がりました。
優勝はレイ、2位は今季ホンダからドゥカティに移籍したバウティスタ、3位はラズガットリオグルという結果でした。WSBKフル参戦2年目の日本人ライダー、野左根航汰(GYTR・GRTヤマハ・ワールドSBKチーム)は18位でレースを終えました。
日曜日のスーパーポール・レースでは、3列目7番グリッドのイケル・レクオーナ(チームHRC)を含む7人のライダーがリヤタイヤにSCQを選択し、残りのライダーはSCXをチョイスしました。このレースではバウティスタが優勝し、2位はレイ、3位はラズガットリオグル、野左根は18位でした。
レース2では全ライダーがリヤにSCXを選択。フロントのチョイスは分かれ、ポールポジションのバウティスタと3番グリッドのラズガットリオグルはSC1(スタンダード)、2番グリッドのレイはSC1(開発タイヤ)を選択します。
レース2は気温20度、路面温度36度のドライコンディション。序盤にレイとバウティスタがトップ争いを展開しますが、3周目の1コーナーでバウティスタ、そしてマイケル・ルーベン・リナルディ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)にかわされた際、接触を回避するためレイは4番手に後退しました。トップのバウティスタはその後、独走態勢を築きます。一方のレイはラズガットリオグルをかわして追い上げ、リナルディをもパスしました。バウティスタは独走でレース2を制し、2位はレイ、3位は残り3周でリナルディをかわしたラズガットリオグルが獲得しました。野左根は残り5周で転倒しリタイアでした。
WSS:ヤマハライダーが優勝争いを展開
WSSは今季、レギュレーションが変更され、これまで600ccクラスのバイクで争われていたところ、加えてネクストジェネレーションマシンとしてドゥカティ パニガーレV2、トライアンフ ストリートトリプルRS、MVアグスタF3 800RRがエントリー。その他、MVアグスタ F3 スーパーベローチェ、スズキGSX-R750などがホモロゲーションを取得しています。
レース1は気温17度、路面温度30度のドライコンディション。ほとんどのライダーがフロントにSC1を選択。一方、リヤはSCXとSC0でチョイスが分かれました。
序盤はジャン・オンジュ(カワサキ・プチェッティ・レーシング)、ドミニケ・エガーター(テンケイト・レーシング・ヤマハ)、ロレンソ・バルダッサーリ(エヴァンブロス.ワールドSSPヤマハチーム)がトップ争いを展開します。その後、バルダッサーリとエガーターにかわされたオンジュが二人から離され始めました。残り2周から最終ラップにかけ、ともにヤマハYZF-R6を走らせるエガーターとバルダッサーリは激しいオーバーテイクを繰り返します。バルダッサーリは最終ラップの14コーナーでトップを走るエガーターをかわすと、16コーナーで大きく体勢を崩しましたが、ぎりぎりで転倒を回避し優勝を果たしました。2位は2021年チャンピオンのエガーター、3位はオンジュが獲得しています。
レース2は気温17度、路面温度30度のドライコンディション。ほとんどのライダーがフロントにSC1、リヤにSCXを選択してレースに挑みました。このレースでもバルダッサーリ、エガーター、オンジュの3人がレースをリード。残り4周、エガーターがバルダッサーリをパスしてトップを奪い、レース1と同じ二人によるトップ争いとなりました。
最終ラップの16コーナーでは、バルダッサーリがエガーターのインに飛び込みましたが、エガーターがクロスラインで抜き返しました。レース2はエガーターが優勝を飾り、2位はバルダッサーリ、オンジュは最終ラップでスローダウンし、ニコロ・ブレガ(Aruba.itレーシング・スーパースポーツ・チーム)がドゥカティのパニガーレV2で3位を獲得しています。
WSS300:岡谷、レース1で表彰台に迫る5位
土曜日のレース1は序盤にトップに立ったマルク・ガルシア(ヤマハMSレーシング)が一人抜け出し、続いたアルバロ・ディアス(アルコ・モーター・ユニバーシティ・チーム)も単独2番手の走行となりました。接戦となったのは3番手争いです。WSS300参戦4年目の日本人ライダー、岡谷雄太(MTMカワサキ)を含む9人のライダーによって激しく争われました。
最終ラップで岡谷は5番手につけ、16コーナー、続く17コーナーで前を走る二人のライダーの背後に迫りました。しかしわずかに及ばず、5位でチェッカー。優勝は独走態勢を築いたガルシア、2位はディアス、3位争いを制したのはレノックス・レーマン(フロイデンベルグKTM-パリゴ・レーシング)でした。
日曜日のレース2は、混戦のトップ争いが展開されました。
残り4周、ディアスがトップに立つと、後方を引き離しにかかります。一方、2番手以下は変わらず混戦の様相を呈していました。岡谷は6番手付近を走行していましたが、最終ラップに他車に接触されて転倒を喫し、リタイアでした。優勝は中盤からトップを独走したディアス、2位の接戦はガルシアが制し、3位はレーマンが獲得しました。
第2戦オランダラウンドは4月22日から24日にかけて、オランダのTT・サーキット・アッセンで行われます。