写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里

WSBK第3戦オランダラウンド
4月19日~21日/TT・サーキット・アッセン

スーパーバイク世界選手権(WSBK)第3戦オランダラウンドが、4月19日から21日にかけて、オランダのTT・サーキット・アッセンで行われました。オランダラウンドの週末は天候がころころと変わるダッチ・ウェザーに見舞われ、難しいコンディションとなりました。

代役参戦のスピネッリがインターミディエイトタイヤで勝利を引き寄せる

ダッチ・ウェザーとなったオランダラウンドで、ひとつのポイントになったのがタイヤ選択でした。それが顕著だったのは土曜日のレース1です。土曜日午前中のスーパーポール(予選)はウエットコンディションでしたが、レース1が行われた14時ごろには天候が回復していました。一部がドライコンディションで、レース中に路面が乾いていくことも予想される状況で、チーム、ライダーにとって、タイヤ選択に頭を悩ませるコンディションでした。

ほぼ全ライダーがスリックタイヤを選ぶ中、唯一、前後にインターミディエイトタイヤを選んだのが、ニコラス・スピネッリ(バーニー・スパーク・レーシングチーム)でした。スピネッリはバーニー・スパーク・レーシングチームのレギュラーライダー、ダニロ・ペトルッチがモトクロスのトレーニング中に負った負傷により欠場し、その代役として参戦したライダーです。

今季は電動バイクレースであるFIM Enel MotoE World Championshipにフル参戦して、開幕戦レース1で優勝を飾っています。2023年にはスーパースポーツ世界選手権(WSSP)で1度の表彰台を獲得しており、高いポテンシャルを持ちます。

そんなスピネッリですが、SBKのレースは今大会が初めてでした。SBKの初レースが、難コンディションとなったわけです。タイヤ選択に悩んだスピネッリは、それを正直にチームに伝えたと言います。

「ボクは(SBKの)経験がないから、チームに『どのタイヤがいいのか分かない』と伝えたよ。そうしたら、チームがインターミディエイトタイヤだと決めてくれたんだ。ボクはそれに『分かった』と伝えた(WorldSBK.comのインタビューより)」

結果的に、この“ギャンブル”は功を奏しました。レース序盤はまだスリックタイヤで走れるような路面コンディションではなかったのです。すぐにトップに立ったスピネッリはスリックタイヤ勢を引き離し、25秒のアドバンテージを築きました。

路面が乾き始めると、王者アルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)やトプラク・ラズガットリオグル(ROKiT BMWモトラッド・ワールドSBKチーム)が激しい勢いでスピネッリに迫り、その差は4秒を切るまでになりました。しかし14周目、15コーナー付近でオイルが飛散したために赤旗が提示され、レース全体の3分の2を終了していたことから、そのまま終了となりました。

スピネッリがSBK初参戦にして、初優勝を飾ったのです。確かに、赤旗が出なければ、レースはどうなっていたのか分かりません。しかし、タイヤ選択がスピネッリをこの位置に押し上げたひとつの要因であることは事実です。

スピネッリも「レース中盤から終盤に入ると築いたギャップがどんどん小さくなっていって、4秒差になって『終わった』と思ったけど、赤旗が出たのを見た。すごく、すごくラッキーだった」と、WorldSBK.comのインタビューで語っています。

「これもレースだ。優勝はすごくうれしいよ」

world_sbk_2024_03_podium.jpg
優勝したスピネッリ(中央)、2位のラズガットリオグル(左)、3位のバウティスタ(右)

レース2で優勝のラズガットリオグル、9番手スタートも「問題ない」

レース2で優勝したラズガットリオグルもまた、タイヤ選択がレースに影響したライダーでした。ただそれは、スピネッリとは反対の意味でした。ラズガットリオグルは、スーパーポール・レースでのタイヤ選択を間違えた、と言うのです。

ラズガットリオグルがスーパーポール・レースでリヤタイヤに選んだのは、スーパーポール(予選)とスーパーポール・レース用エクストラ・ソフトのSCQでした。このレースではラズガットリオグルを含む全ライダーがリヤにSCQをチョイスしたのですが、ラズガットリオグルは3番手からスタートして9位でレースを終えたのです。

「スーパーポール・レースではミスをしてしまった。周りと同じように、SCQタイヤを選択したんだけど、いつもは違うタイヤを考えている。でも、これもレースだよ。違うことにトライすることもある。うまくいかなかったけどね」

スーパーポール・レースの結果により、ラズガットリオグルはレース2を9番手からスタートすることになりました。結果的に、これはラズガットリオグルを止める要因にはなりませんでした。レース2も、レース中に雨粒が落ちる難しいコンディションでしたが、ラズガットリオグルは天候が回復するとともにペースを上げ、バウティスタを抑えて優勝したのです。

これは、ラズガットリオグルにとっても、BMWにとっても、アッセンでの初優勝でした。

「ほんとの速さがあれば、9番手スタートというのは問題じゃないんだ」と、ラズガットリオグルはWorldSBK.comのインタビューに答えています。

「問題だったのは、1コーナーのあと、アレックス(・ロウズ)がクラッシュしかけたものだから、僕はスロットルを閉じなきゃいけなかった。それで、ライダーを少しずつ抜いていった」

「(レース1とスーパーポール・レースで優勝した)カタルーニャのようなフィーリングはあったんだ。でも、全体的に満足しているよ。特にレース2では、すごくいい仕事をしたと思う」

今季、ヤマハからBMWに移籍したラズガットリオグルは、早くも3勝を挙げました。コメントからは、すでにヤマハからBMWへのマシン乗り換えの影響を感じさせない、自信が窺えます。

toprak-razgatlioglu-bmw.jpg
路面状況により、レース中盤は混戦のトップ争いになった。ラズガットリオグル(#54)は9番手からスタートして、3周目にはトップ集団に加わっている
alvaro-bautista-ducati.jpg
ラズガットリオグル(中央)は今季3勝目。2位のバウティスタ(左)は、今大会でランキングトップに浮上した。3位はレミー・ガードナー(右)で、SBK初表彰台を獲得

第3戦を終え、王者バウティスタがチャンピオンシップのランキングトップに浮上しました。ラズガットリオグルはランキング4番手ですが、今後、順位を上げていくことは間違いないでしょう。

WSBK第4戦エミリア・ロマーニャラウンドは、6月14日から16日、イタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで行われます。