昨年から、日本でもシリーズ戦が開催されるようになったFIM MiniGP。10歳から14歳までの、将来、世界への挑戦を目指すヤングライダーで競われるロードレースで、2023年は世界18カ国/エリアでシリーズ戦が開催されています。

レースは、すべてのライダーが同一条件で競い合うことを大前提として、マシンはイタリア製の160㏄・OHVALE(オバーレ)GP0 160で、タイヤはピレリ、オイルはモチュールを使用。マシンに関しては、公平性を期すために、レースごとに主催者側が用意して、ライダーは貸与されたマシンでレースを行うというルールとなっていす。

また、シリーズ戦で結果を残したライダーは、MotoGPの最終戦が行われるスペイン・バレンシアサーキットで最終戦のレースウイーク中に開催されるワールドシリーズへの出場権を獲得。世界中で勝ち抜いてきたライダーたちと雌雄を決する舞台が用意されるという、まさにその先に世界が見えているレースなのです。

昨年は、日本各地でFIM MiniGPジャパンシリーズの全5戦が行われ、池上聖竜選手がランキング1位、松山遥希選手が2位に入りワールドシリーズの出場権を獲得しましたが、松山選手は練習中のけがにより出場を辞退。1人で挑んだ池上選手が、レース1で優勝、レース2で7位に入り、総合ランキング3位という素晴らしい成績を収め、日本人ライダーの高い実力を世界に見せつけました。

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昨年のワールドリーズの第一戦で見事に優勝した池上聖竜選手。

そして迎えた今シーズン、昨年優勝の池上選手は15歳になったので卒業し、昨年2位の松山選手を含む14人がエントリー。その中のひとり、台湾のチョウ・チュンヤン選手は、自国でシリーズ戦が開催されていないため、ジャパンシリーズにフル参戦することにしたそうです。

主催者代表の中込さんと、アドバイザーの長島哲太さんに話をお聞きしました

3月26日日曜日、開幕戦を迎えた筑波サーキットコース1000は朝から雨が降り続き、フリー走行1回目から転倒者が続出し、マシンに不調をきたすライダーも。フリー走行2回目もコースコンディションは回復せず、インターバルを取って午後に公式予選と決勝を行う予定となりましたが、時間が経過しても天候は回復せず、安全を優先して予選・決勝とも中止となりました。

https://www.youtube.com/watch?v=ZgMURD6D614

当日、悪天候とマシントラブルの発生という厳しい状況の中、それでも果敢にタイム出しを行う若いライダーの姿に加え、彼らをサポートする親御さんと主催者スタッフという大勢の大人がかいがいしく働く姿が、そこここで見られました。

まさに世界を目指す若いライダーを、大人たちが真剣に後押ししている姿。世界という明確な目標をもってFIM MiniGPジャパンシリーズに臨んでいるのがよく分かりました。

そこで、ピットロードとピットの間を何度も何度も小走りで往復しながら、コースの確認、ライダー・マシンの状態を忙しくチェックしていた日本でのFIM MiniGPシリーズの主催者・P-UP Worldの代表である中込正典さんに、日本でシリーズ戦を主催することにした理由などをお聞きしました。

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FIM MiniGPジャパンシリーズを主宰するP-UP Worldの中込代表。悪条件下の第一戦では、代表自らコースやマシン、ライダーの状態の確認を行っていた。

「以前から若いライダーの育成をしたいと思っていまして、中学生、高校生ライダーに対して何かできないかと思っていたんです。日本ではレースを始める層がどんどん減ってきていて、この先増える可能性も低い。そんなときFIM MiniGPが始まり、道具を含めて揃えれば日本人も挑戦してくれるのではと思ったんです。FIM MiniGPシリーズに参加することで、周りの人たちも実力を認めてくれるような環境を作ることで次のステップへのきっかけになるのではと考えました」

当初はどこかが主催してくれないかと考えていたそうですが、関係者と話をしていくうちに『どうやったらできるだろう』と自身で運営をすることを考え始め、2021年の10~11月にレース車両であるオバーレの輸入や、FIM、ドルナへの申請を開始。ところが、なかなかドルナからの回答が来なくて、やっと届いたのは2022年の1月26日。4月の開幕戦までわずか3か月という状況の中、エントラントの募集、マシンのテスト、開催サーキットの手配などを急ピッチで開始したそうです。

ジャパンシリーズが終了したのちに行われたワールドシリーズでは、そんな中込さんの苦労が報われる結末が待っていました。前述のように、池上選手が見事に優勝を飾ったのです。

「バレンシアの決勝を見て、日本人ライダーはいけると手ごたえを感じました。世界を目指すライダーを発掘するために、これからもサポートを続けていきます。MiniGPも、今年は昨年使用したマシンを参戦ライダーに販売して、レースがないときでも練習できる環境を整えましたので、昨年以上にタイムアップして、バレンシアのワールドシリーズでもいい結果を出してくれることを期待しています」

中込さんのもうひとつの望みは、このFIM MiniGPジャパンシリーズを多くの人に見てもらうこと。レースを知らない人でも、まだまだ小柄な若いライダーたちが必死に走っている姿を見れば絶対に感動してくれるはずだと言い、ジャパンシリーズの成長のためにも1000人以上の観客を集めたいのだそうです。

そのために、今シーズンはSNSでの発信も強化し、YouTubeにも積極的に動画をアップしていくとのこと。興味を持った方は、ぜひチャンネル登録をお願いします。

https://www.youtube.com/channel/UC1YZzfzC6pbpJeujUPxhE3w

自分の力で何とかすることを学んでほしい

そして、インターバルの間、何人かのライダーからの質問に答えていたのがジャパンシリーズのアドバイザーを務める長島哲太さん。元Moto2ライダーで、昨年の鈴鹿8時間耐久レースではホンダ・CBR1000RR-Rでポールタイムを叩き出し、HRCの優勝を強力にけん引したのはまだ記憶に新しいところです。

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アドバイザーを務める長島哲太さん。自らの世界挑戦の経験を生かして若いライダーたちにアドバイスをしている。

「去年1年見ていて、最初はライダー間のタイム差が多かったのが、どんどん縮ってきて、バトルも激しくなってきました。参戦しているライダーには、誰かに頼るのではじゃなく、自分の力で速く走ることを学んでほしいと思っています。GPウイークって本当に時間がないので、100%マシンセッティングが決まった状態でレースができることなんかないんです。その中でどうやって結果を出すか。体の使い方や走り方をマシンに合わせていかないといけません。ボクができることは、ジャパンシリーズに出場しているライダーの意識を変えることで、ボクに教えてもらうんじゃなくて、自分から聞きに来なきゃいけません。そうすれば、何を聞いたらいいかをまず考えなければいけませんからね。FIM MiniGPジャパンシリーズは、世界を目指すライダーを育てるチャンスだと思っています」

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走行のインターバルの間、何人ものライダーが長島さんに積極的に質問をしていた。

中込さんのライダー育成への熱い思い、そしてキャリア豊富な長島さんのアドバイスなど、FIM MiniGPジャパンシリーズには世界に挑むベースがしっかり用意されていると感じました。

第2戦は4月30日にテルル桶川スポーツランドで開催されます。興味を持った方はぜひ観戦をお願いします。詳細はFIM MiniGPジャパンシリーズの公式サイトをご参照ください。

取材協力:FIM MiniGPジャパンシリーズ

https://www.minigp.jp/