ピレリはWSBK参戦20年! それが間口の広いタイヤを生み出す!

久しぶりにオーストラリアのフィリップアイランドを訪れました。ピレリのDIABLO™ SUPER CORSA V4のアジアローンチに参加するためで、2023年のWSBK開幕戦を観戦し、月曜日にWSBKが行われた同じコースでDIABLO™ SUPER CORSA V4の試乗会が行われるというスケジュールです。

到着したのは土曜日のWSBKレース1直前。小雨の降る晩夏のオーストラリアは肌寒く「フリーズ、コールド」というフレーズが飛び交うほど。金曜日まではさらに寒かったようです。開幕戦ということでWSBKチームは月曜日から走行を開始。水曜日を除く日曜日までスケジュールはみっちりです。

フィリップアイランドは観客席がなく観戦エリアはすべて芝生。コースを隔てる柵もとても簡易的な作りで、来ている方の年齢層は日本より高め。芝生の上をバイクが自由に走り回り、とにかくのんびりとした雰囲気に包まれています。

WSBKは最高峰のレースが3レースもあり、そのスケジュールは超過密です。他にもWSSPやオーストラリアSBKなども開催され、コースでは1日中レースが開催されていました。土曜日は生憎の天気でしたが、日曜日は晴天。青い空と青い海を望みながら観るレースは格別でした。開幕戦はドゥカティが圧勝。WSBKだけでなく、WSSP、オーストラリアSBKのすべてでドゥカティが強さを発揮しました。

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フィリップアイランドはのんびりした空気が流れます。自分のバイクに跨ったままレース観戦をする人もいます。そしてお気に入りポイントを探すようにフラフラと芝生の上をバイクが走っています。

ピレリは2023年、WSBK参戦20年目を迎えます。信じられないほどたくさんの市販スポーツバイクが、そしてレベルの異なるライダーたちがピレリタイヤを履き、その声をフィードバックしながらスポーツタイヤ開発を続けています。実はこんな開発フィロソフィーを持つタイヤは他にありません。同じカテゴリーでもエンジン形式や重量などが変わればタイヤに求めらるものは変わって行きます。WSBKはもちろんですがWSSでも、いまや2気筒、3気筒、4気筒など、気筒数ではなくスロットルボディにリストリクターなどを装着するなどして、パワーコントロールによるクラスレギュレーションに変更されています。600cc以下の4気筒だけのレギュレーション時代とはタイヤの作りが随分異なるそうです。

WSBKで使われるタイヤは色々なバイク&ライダーに合わせなければならず、したがって必然的に守備範囲が広い物になります。それがプロライダーはもちろん、我々一般ライダーにも分かりやすいフィーリングを生み出すのです。そんな開発をピレリは20年も続けており、それこそがピレリの強さに直結しているのです。

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開幕戦では、WSBKだけでなくWSSPやオーストラリアSBKでもすべて勝利したドゥカティ。元々ドゥカティが得意なコースではありますが、ドライでもウエットでも強さを発揮していました。
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フィリップアイランドでは多くのレーシングマシンを見ましたが、圧倒的にレーシーだったドゥカティのパニガーレV4R。V4エンジンをフロントフレームに搭載する車体構成は、他のバイクと比べて圧倒的にスリム。これは最高速や旋回性に大きく影響しているはずです。

DIABLO™ SUPER CORSA V4 SC1は、超ハイスピードコースで抜群の自由度を発揮

フィリップアイランドはMotoGPも開催される超ハイスピードコース。ブレーキの負担がもっとも少ないコースとしても有名です。WSBKの余韻が残るDIABLO™ SUPER CORSA V4試乗会当日、月曜日の天気は残念ながら曇り。ピットにはサーキットユースに完全対応するため複数のコンパウンドが用意されるDIABLO™ SUPER CORSA V4 SC1を履いたBMW・S1000RRが並んでいました。

僕はフィリップアイランドを走るのは、2017年以来、2度目となります。正直、コースレイアウトは曖昧……。でも、DIABLO™ SUPER CORSA V4 SC1を履いたS1000RRは、1周目から驚くほど思い通りのラインを通ることができるのです。

1本目の走行はコースを思い出すことに集中しましたが、S1000RRは信じられないほど軽い操作で応えてくれます。DIABLO™ SUPER CORSA V4 SC1がS1000RRのスポーツ性を引き上げてくれている印象で、スピードを乗せて行ってもハンドリングに重さが出てきません。

1コーナーは6速の270km/hくらいから一瞬だけブレーキをして4速までシフトダウン。その後も超ハイスピードコーナーが続き、いちばんスピードが乗るケイシー・ストーナーコーナーで膝を擦りながら一瞬メーターを見たら220km/hでした。ここからバイクを起こしてさらにスロットルを全開に……。身体と目を少しずつコースとバイクに順応させ、2本目、3本目は少しずつペースを上げていきました。

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DIABLO™ SUPER CORSAが第四世代のV4に進化。サーキットに完全対応したSC、一般道からサーキットまで楽しめるSPともに大幅にリニューアルされました。
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今回はDIABLO™ SUPER CORSA V4 SC1を履いたBMW・S1000RRに試乗。S1000RRは、ギヤ比がショートでリッタースポーツの割にはシフト操作が忙しいのですが、ライダーを疲れさせない軽さに随分と助けられた気がします。

高い安心感とコントロール性に頼って走ることができます

ペースを上げるとバンク中の安心感と自由度の高さが際立つため、コントロールしている実感も高まってきます。またフロントタイヤに注目すると、その仕事量の多さはとても印象的でした。僕はプロライダーではないので、フロントにそれほど大きな荷重を与える走りはできませんが、ブレーキをかなり強めに残したままでもハンドリングは素直。向きを変えるタイミングが素早く、すぐに加速の準備に備えることができるのです。

だからこそ立ち上がりではしっかりとバイクを起こして理想的な態勢を作ることができます。2速で下りのカーブを曲がった後にある最終コーナーのアプローチは、難しいシチュエーション。3速、4速とバンクさせつつシフトアップしながら挑むのですが、そんな時もトラクションコントロールを介入させながら綺麗にスピードを乗せていくのです。

前後タイヤのバランスは高く、V3の時よりも剛性感にも優れる印象。完全にグリップに頼り切って大きな荷重を与えてコーナーに挑むと、それはまさに恍惚の境地と言える瞬間でした。しかもそれが何度も訪れるのだから、スポーツライディング冥利に尽きます。

ただし、今回は空気圧が少し高めで温感でフロントが250kPa、リヤが230kPaという設定でした。フィーリング的にも少し下げてみたかったのですが、雲行きが怪しくなり断念。続きは日本の走り慣れたサーキットで試してみたいと思います。

DIABLO™ SUPER CORSA V4 SCは、タイトル通り『200psと戦うための最強ツール』に違いないのですが、200psのスーパースポーツと仲良くなるためのツールでもあります。今回の試乗会では、自分が上手くなったかのようなシーンをたくさん見ることができました。日本上陸は7月頃、多くのスポーツライディング好きにこのWSBKテクノロジーを体感していただきたいと思います。

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二輪の製品管理責任者のシルビオ・フラーラさんと。「いま、WSSPは2、3、4気筒が走るため、600cc/4気筒だけが走っていた時代からは、タイヤの作り方が変わってきていますね」。右は、今回のアジアローンチに参加した面々との記念撮影。
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DIABLO™ SUPER CORSA V3 SC3と新しくなったDIABLO™ SUPER CORSA V4 SC3を比較したチャート。すべての領域でV4が上回っているのが分かります。
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S1000RRにDIABLO™ SUPER CORSA V3 SC3とV4 SC3を履いてタイムを計測。約2.5kmのコースで0.8秒も短縮し、スロットル全開率なども向上していました。

DIABLO™ SUPER CORSA V4 SPも大幅に進化!

レース完全対応のDIABLO™ SUPER CORSA V4 SCよりも温度依存性が低く、ウォームアップ性が早く、耐久性にも優れるストリートからサーキットまで楽しめるDIABLO™ SUPER CORSA V4 SPも用意されていました。前後にデュアルコンパウンドを採用し、ショルダー部分はSC3コンパウンドとなっています。スーパーコルサらしさは残しつつ、プロファイルやトレッドパターンをV3から刷新し、内部構造も別物です。

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プロファイルはSCと同じですが、熱安定性や優れた操縦性、グリップを確保するため、SPはベースコンパウンド構造を採用しているのが特徴です。

DIABLO SUPERCORSA V4 SC

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フロント

110/70R17 54V SC1/SC3
120/70R17 58V SC1/SC2/SC3

リヤ

120/70R17 58V SC1
140/70R17 66V SC1/SC3
150/60R17 66V SC3
180/60R17 75V SC1/SC2/SC3
190/55R17 75V SC2
200/55R17 78V SC1/SC2/SC3
200/60R17 80V SC1/SC3

DIABLO SUPERCORSA V4 SP

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フロント

110/70ZR17 54W
120/70ZR17(58W)

リヤ

140/70ZR17 66W
150/60ZR17 66W
180/55ZR17(73W)
180/60ZR17(75W)
190/50ZR17(73W)
190/55ZR17(75W)
200/55ZR17(78W)
200/60ZR17(80W)


小川勤(おがわ・つとむ)
1974年東京生まれ。1996年にえい出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在はフリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。