「全体としてアップダウンの激しいシーズンだった」と、岡谷雄太はスーパースポーツ300世界選手権参戦4年目のシーズンを振り返る。シーズン後半は、転倒により2戦を欠場。しかし一方で、1勝を含む4度の表彰台獲得という結果を残し、手ごたえを感じたシーズンでもあった。岡谷雄太が2022年シーズンに得たもの、そしてスーパースポーツ世界選手権へとステップアップする2023年シーズンの展望とは。

4年間のすべてが詰まっていたカタルーニャでの優勝

2022年シーズン、スーパースポーツ300世界選手権(WSS300)参戦4年目を迎えた岡谷雄太は、2021年シーズンに比べて一段強さを増していた。2022年シーズンの岡谷の成績を振り返ると、カタルーニャラウンドレース1での優勝を含め、2位が1度、3位が2度。フランスラウンドではスーパーポール(予選)で転倒し、脳震盪によってレースを欠場。ポルトガルラウンドでは、フリー走行2での転倒により左鎖骨と肩甲骨を骨折し、欠場となったことでランキング自体は7位にとどまったが、混戦が多いWSS300にあって、常に優勝や表彰台をねらえる上位グループの位置で走っていた。

2022年シーズン開幕前、岡谷にインタビューしたとき、「(2021年は)勝ちにこだわりすぎていた」と語っていた。2022年シーズン終了後に行ったこのインタビューでそれについて聞くと、2022年シーズンはその反省を踏まえ、「毎戦勝つのは厳しいので、もちろん勝ちにはいくけど、どこがベストなラインかを見極めるようにしました」と言う。

「たとえば、ミサノ(エミリア・ロマーニャラウンド レース2)の2位は、僕の中では優勝に匹敵するくらいのレースができました。優勝できるかどうかはレース中のタイミングだけで、あれは、優勝にも値する2位だったと思っています。(2022年シーズンは)そのいいレース内容を踏まえて次もまたいいレースをしよう、とよかったものを積み重ねていく取り組み方をしました。表彰台獲得を続けないとタイトル獲得は難しいので、それはすごく意識していましたね」

2022年シーズンのWSS300は、岡谷の中でレース中の仕掛けるタイミングに苦心したところもあった。

「WSS300のレース歴が長いライダーが多かったので、無茶をしないライダーが上位にいて、誰かが混戦から抜け出るとそれに誰かがついていくといった、リスクを冒さない、頭のいいライダーが集まっていました。特に土曜日のレース1は仕上がっていないライダーが多い中、すでに仕上がっているライダーが抜け出る展開が多かったですね。僕はペースがあっても仕掛けるタイミングがずれてしまうことが多かったです。もう少し地力を上げることができれば楽だったのかなとも思いますが、チーム体制なども含めて、毎戦自分の100パーセントで走っていましたから、ある程度は仕方ない部分もあったと思います」

「2022年シーズンはレベルがすごく高かったんです。レコードタイムを出しても、それを超えられる。全体のペースも速かったし、予選でのタイムの出し方がうまいライダーもたくさんいました」

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岡谷はそんな2022年シーズンについて「その中の上位にはいられたので、シーズンを通して75点くらいです」と自らを評価する。手ごたえを感じたシーズンであったことは確かだった。ただ、「シーズンを通してコンスタントに結果を出す、というのが目標だったけどそれができなかったから、ギリギリ合格」と言う。

「ギリギリ合格」と言うのは、2022年シーズンだけの評価ではない。「その先」に進むための、自分に出した合格点でもあった。

「優勝できたレース(カタルーニャラウンドレース1)が、WSS300のライダーをコントロールしての優勝でした。それができないと、ステップアップしても意味がないと思っていたんです」

カタルーニャラウンドのレース1は、終盤まで混戦が続く中、最終ラップの最終コーナーで鮮やかにトップを奪い、優勝を飾ったレースだった。

「2年前の勝ち方とはまったく違うレースだったんです。最後の動きは同じだけど、それまでの展開は全然違う。2年前はラッキー要素もあったけど、今年はそうじゃない。ちゃんと組み立てて、考えて、最後も思い通りに組み立てられました。そこは成長している部分だと思います。ここまで4年間WSS300で戦ってきた、そのすべてが詰まっていたレースでした。1戦でもそういうレースができたので、WSS300の参戦に自分の中でも一区切りがつきました」

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カタルーニャ レース1で、岡谷(#61)はWSS300での2勝目を挙げた

ちなみにWSBKカタルーニャラウンドは、MotoGP日本GPと同じ週末に開催されていた。岡谷がスペインのバルセロナで、土曜日のレース1で優勝を飾った翌日、栃木県のモビリティリゾートもてぎでは、Moto2クラスで小椋藍が優勝を果たしている。日本人ライダーがスペインと日本で表彰台の頂点に立った週末でもあった。岡谷にその話を振ると、打ち明けるように話し出した。

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「藍とはよく連絡をとるし、昔からライバル。藍の調子がいいのはわかっていたので、優勝か表彰台の可能性があると思っていて、そうなったら、こっちのレースがかすんじゃうな、と思ったんです」

「だからせめて、向こうのレース前に先に君が代を流してやろう、と思っていたんですよ」そう言って、にやりと笑う。

「それでMoto3クラスの(佐々木)歩夢や藍ががんばってくれればなと。お互いいい刺激になっていましたから」

小椋とは日本でもトレーニングとして、コース上で火花を散らしたりもする仲。チャンピオンシップを超えて、海を超えて、お互いにエールを交換し合っていたのだろう。

持ち続けた決意と念願のWSS参戦

4シーズンのWSS300参戦を経て、岡谷は2023年シーズン、WSSへとステップアップを果たす。「WSSに参戦したい」。2、3年前から岡谷自身の心は決まっていた。だが、単身で世界に挑む岡谷にとって、必要なカードをそろえる時間が必要だったのだ。

岡谷にとって大事なピースの一つとなったのは、鈴鹿8耐参戦だった。WSS300をカワサキで戦っていた岡谷は、カワサキ・プラザ・レーシング・チームから2022年鈴鹿8耐初参戦。SSTクラスで優勝を果たす。この優勝は、レースの結果としてだけではなく、岡谷にとって大きな意味があった。

「WSS300のライダーは、WSSのバイクに乗れるのか、というところからまず見られます。乗れるライダーもいれば、そうじゃないライダーもいるからです。8耐に出れば大きいバイクに乗れるという証明になるし、SSTクラス優勝もできました。優勝したときは、してやったり、でしたよ(笑)。鈴鹿8耐SSTクラス優勝という手土産を持ってチームと交渉したら、より話を聞いてくれました」

それが例え好機であろうと、そうと気付かなければ、またはうまくつかめなければ幸運の女神の前髪はするりと手を抜けてしまう。しかし、岡谷はチャンスを逃すことはなかった。それは、岡谷が常に「この先」を考えているから、ということにほかならない。

「昇格については自分で考えて、様々な人脈、関係性、メーカーのサポートなどを含めて検討し、僕の中では一番強いカードをそろえたつもりです。それを持って行かないと、WSSには上がれなかった。使い切りました」

「2022年シーズンはWSSに上がれなくて、(2021年シーズン終了後は)あまり気持ちのいいオフシーズンではありませんでした。でも、チャンスを狙って戦った結果、本当にチャンスが巡ってきたんです。WSS300でカワサキに乗っていたから、鈴鹿8耐でもカワサキ・プラザ・レーシング・チームからオファーをもらうことができました。WSS300に参戦していて本当によかったと思いますし、カワサキに乗っていてよかったと思います」

一つ一つ必要なものを集め、コース上では力を尽くして戦い、結果を求める。そのすべてが“今”の結果のためであるとともに、未来へとつなげる岡谷の奮闘であり、それが2023年シーズンのWSS参戦という形で実を結んだ。

来季はイタリアのローマに拠点を置く、プロディーナ・レーシング・チームからの参戦となる。WSSでは参戦2年目のチームとなるが、WSS300ではカワサキのトップチームの一つだ。2023年シーズンの展望を聞くと、その答えは、常に状況を把握しようとする岡谷らしいものだった。

「2023年はコンスタントにトップ10には入りたいなと思います。チームのポテンシャルがまだ見えていないし、チームとマッチングするかもまだわからないので、優勝や表彰台獲得、とは言えない状況です。もちろん、どこかで優勝は狙いにいきたいですけどね。現実的な話をすると、トップ5までいけたら天晴れだと思います」

すべての時間と得たものを紡ぎ、念願の一つであったWSS参戦を果たす岡谷。岡谷はこれからも、己が進むべき道を前へ前へと拓き続けていく。

岡谷雄太 一問一答インタビュー

ここからは、岡谷にレースに関連しないものも含めた質問を、一問一答形式で聞いた。答えを聞いていると、レースに関わらず、レーシングライダーが過ごす時間のほとんどはレースに向かっていると思わされる。とはいえ、レーシングライダーとしての部分とはまた違った岡谷雄太も感じられるのでは?

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Q. オフの時間は何をして過ごしますか?

A. 元々、プラモデルを作るのが好きです。お父さんがガンダム世代。影響されて、ガンダム好きなんです。バイクのプラモデルを1回作ったこともあります。今は時間がないけど、老後(!)はそれで過ごしたい。買いだめしておこうかなと。 それから、Nintendo Switchを買って、それを趣味にしようかなと思ってます。飛行機に乗っているときに暇なので、飛行機の時間が苦にならないように。ワールドカップに影響されて、サッカーのゲームを買いました。元々サッカーのゲーム、好きなんです。あとは、マリオカートとか、ベタなゲームとかそろえようかなと思ってますね。

Q. 好きな音楽は何ですか?

A. 以前は英語の勉強を兼ねて、洋楽をよく聞いていました。最近は邦楽。昔から好きなのは、Mrs. GREEN APPLE。あとはみんなが知っているようなJ-POPを聞きますね。 レースで集中するために聞く音楽もあります。カタルーニャ前くらいに見つけたのがAdoの「私は最強」。ちょうど、レース前の自分にリンクするんです。そういう曲を探しちゃいますよね。 僕は、レース前はテンションが高すぎないようにコントロールします。着替える時間も30分くらいあって、テンションが高ぶりすぎちゃうときがよくないから、ちょうどいい曲を探してますね。 ルーティンはなくて、そのときに合わせて曲は変わります。どのスポーツも好きなので、サッカーを見てテンションを上げることもありますよ。 WSS300は強気でいかないとやられちゃうんです。気持ちを高めるためにやってました。

Q. 最近はまっている、漫画や小説はありますか?

A. 漫画はあまり読まないんです。時間があると、最近はYouTubeやTikTokを見たりします。 F1は元々好きで見ていますね。F1ドライバーでは(シャルル・)ルクレールが好きです。モナコ人でイケメンで、フェラーリのドライバーでしょ。差がありすぎて、私生活に興味がある(笑)。 最近F1を見ているのは、角田裕毅君が出ているからなんです。日本で地方選手権に出ているとき、トレーニングチームが一緒だったんです。だから元々F3もハイライトなどで見ていたんですよ。勝ってるのを見て「すごいな」と思っていたら、F2で3勝くらいして。F1も見るようになりました。 それから、英語の勉強としても見ていますね。 最近は話せる単語を増やしたいから、F1ドライバーを参考にしています。

Q. 好きな食べ物は?

A. うなぎです。名古屋に行ったときに食べて、すごくおいしかったので、好きな食べ物はうなぎって答えようと思ってました(笑)。 スペイン料理も好きです。パタタスブラバスというのがあって、フライドポテトに辛いソースとガーリックソースをつけて食べる料理です。それから、パンにトマトを塗った、パンコントマテ。ベタなんですけど。

Q. 普通二輪免許はお持ちですよね。街乗りしてみたい市販バイクは?

A. カワサキのNinja ZX-10RRに乗ってみたいです。

Q. ライダーとして、レースのここが一番面白い、というところを教えてください。

A. 最後の最後まで、誰が勝つかわからないところ。特にWSBK(スーパーバイク世界選手権)系はバトルが激しいので、そこが好きですね。

Q. 見る側として、レースのここが最高におもしろい、と思うところを教えてください。

A. ぶっちぎられちゃうレースだと嫌いで、接戦ですね。(バレンティーノ・)ロッシみたいなレースが好きで、バトルがすごく好きです。

Q. すごい接戦のとき、本当にコンマ数ミリの領域でマシンをコントロールしてバトルしていると思います。そのとき、ライダーにはどんな景色を見えているんでしょう?

A. そのときの操作系はまったく記憶がなくて、考えずにやっていると思います。どうやって相手を仕留めよう、とか、そこに頭を回すのが好き。後ろに迫るライダーをどう抑え込もうとか、差してきたライダーを、来た瞬間のスピード感と向いている方向で、対応を考えます。 僕は接戦のときは詰将棋だと思っているんです。どう詰むか、組み立てるのがすごく好きですね。 いろいろなパターンを用意しておいて、接戦のときはこの人がどの位置からどこに行って、勝っているのかというのをよく見ています。これはWSS300とかMoto3の場合ですね。 600ccや1000ccのレースの場合は、わざと相手に自分を見せてここでいくよ、とプレッシャーをかけておいて、違うところで仕掛けるとか。そういう相手の裏をかくのが好きですね。

Q. レーシングライダー岡谷雄太を、自分でどんなライダーだと思いますか?

A. 速いライダーというより、強いライダー。

Q. 今後、さらに成長するにあたって、どんなライダーになりたいですか?

A. 僕は、速さをもっと追求したいです。強さを生かして、トプラク(・ラズガットリオグル)とか、(ジョナサン・)レイとか、強さしかないライダーに、自分がどれだけ通用するのか、挑みたいです。

Q. このライダーに勝ちたいな、というライダーは?

A. WSBKだと、トプラクやレイと戦ったら面白いだろうなと思います。あれだけやったら毎回楽しいだろうなと思いながら見ています。

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プロフィール

岡谷雄太/1999年7月12日生まれ。東京都出身
2018年に全日本ロードレース選手権J-GP3にフル参戦し、3勝を挙げてランキング2位を獲得。2019年からはWSS300に戦いの場を移した。2020年はカタルーニャラウンドレース2でWSS300において日本人ライダーとして初優勝を飾る快挙を成し遂げる。2021年はランキング5位。2022年は1勝を含む4度の表彰台を獲得してランキング7位。2023年はプロディーナ・レーシング・チームより、カワサキ ニンジャZX-6RでWSSに参戦する。

スーパースポーツ世界選手権300(WSS300)
市販車をベースとし、レース用にチューニングしたバイクで争われるチャンピオンシップの最高峰、スーパーバイク世界選手権(WSBK)に併催されるカテゴリー。300ccクラスのバイクで争われる。

スーパースポーツ世界選手権(WSS)
WSS300と同じく、WBKに併催されるカテゴリー。以前は600ccクラスのバイクで争われていたが、2022年シーズンからレギュレーションが変更され、従来のヤマハYZF-R6やカワサキ ニンジャZX-6Rとともに、“スーパースポーツ・ネクスト・ジェネレーションマシン”としてドゥカティ パニガーレV2、MVアグスタF3 800RR、トライアンフ ストリートトリプルRSが参戦した。