ピレリはドイツ、ブラジル、インドネシアなど各地に生産拠点を持っています。中でもアジア地域の2輪向けプレミアムセグメントのラジアルタイヤを生産する中国工場を稼働させた時のエピソードを紹介します。

それまで、プレミアムラジアルの生産はドイツのブロイベルグ工場が担当していました。アジアマーケットでのオートバイ需要伸張や世界の四大メーカーがある日本、そして成熟したオートバイマーケットがあるオーストラリアなど、需要地に近い場所で生産し、的確なタイミングで製品を届けることを趣旨として、すでに4輪用タイヤの生産で可動していた中国山東省にあるYANZHOU(ヤンゾウ)工場に2輪の生産ラインを設ける決定をしました。4輪タイヤ生産のために現地サプライヤーからスチールベルト、シリカ、ゴムなど原料を仕入れるスケールメリットもあったからです。

生産国が違えば原料も見直さないと同じ性能にならない

そして生産にあたり選ばれたのは最新モデルではなくすでに発売から数年を迎えた定番モデルでした。2輪ライン用として工場に搬入された生産機材は、ドイツ工場がうらやむような最新のものばかり。ならば後は原料をタイヤのレシピ通りに用意し生産機械にそれを投入すれば製品が次々とできあがる・・・・・と思われがちですが、タイヤ生産はそう簡単にいかないのです

ドイツで仕入れたゴム、シリカ、そしてスチールベルトの原料と同等のものを用意しても、最終的にできあがったものがドイツで生産した(設計通りの性能を持つという意味です。)タイヤと同じフィーリング、性能であることの確認にしっかりと時間を掛けました。シミュレーションでの確認はもちろん、ピレリのモーターサイクルタイヤのテスト部隊があるシチリアを中心に徹底した実走確認テストが行われたのです。

あらためて気の遠くなるほどのテストを繰り返す

テスト用に生産されたプリプロダクションタイヤが届いた1月下旬、そこから中国工場の生産開始までの約一月の間に433種もの走行安定評価などの評価テストを行ったのです。それには290に及ぶドライセッションでのテスト、105回の高速安定性評価テスト、イタリア南部にある超高速試験路があるナルドにおいて5回の評価テスト、北半球、南半球にあるテストコースで夏冬それぞれの温度で33回のウエット路評価試験も行われました。

テスト用に作られた前後合わせて400本以上のタイヤでそれを確認。また、2名のテストライダーが一つのテストを2セットのタイヤで行い、フィーリングや性能に均質かを徹底的に確認したのです。そのテストに費やした総走行距離は10万キロを越え、得られた評価結果は6日以内に報告され、生産時に必要となる補正データとして反映されました。
つまり、生産拠点がどこか、ではなく、どのタイヤもピレリ製であり、期待された性能を担保すること。それが何よりも大切だ、というのです。生産技術による調整はもちろん、製品を確認するテストライダー達の官能評価が大きく関わっていた、これこそがまさにピレリが誇るピレリらしさそのものなのです。