写真:Pirelli、伊藤英里
テキスト:伊藤英里

イデミツ・アジア・タレントカップ第1戦タイ大会
2月28日~3月2日/タイ チャン・インターナショナル・サーキット

2025年シーズンのイデミツ・アジア・タレントカップの初戦となるタイ大会が、MotoGP開幕戦タイGPに併催で行われました。イデミツ・アジア・タレントカップは、アジアからオセアニア地域の若手ライダー育成を目的に、2014年にスタートした選手権です。マシンはホンダ・NSF250Rのワンメイク、タイヤは2024年からピレリがサプライヤーを務めています。

イデミツ・アジア・タレントカップはロードレース世界選手権MotoGPへの足掛かりとなる選手権です。例えば、タイGPで鮮烈なMotoGPデビューを飾った小椋藍も、この選手権から世界への階段を駆け上っていきました。小椋は、イデミツ・アジア・タレントカップ出身ライダーとして初の世界チャンピオン(Moto2クラス)です。また、2024年イデミツ・アジア・タレントカップのチャンピオン、三谷然は、今季、次のMotoGPの登竜門となるFIMジュニアGP世界選手権に参戦します。イデミツ・アジア・タレントカップは、ロードレース世界選手権Moto3クラスに至る第一のチャンスをつかむことができる選手権なのです。

イデミツ・アジア・タレントカップは、ドルナスポーツ(MotoGPの商業権を保有)がサポートする、若手ライダーを対象とした選手権やプログラム「Road To MotoGP」の一環です。「Road To MotoGP」は将来的に各国間のライダーの格差が出ないよう、全世界レベルで未来のMotoGPライダーを育成するというもので、ピレリはこれらの一環である、MiniGP、各エリアのタレントカップ、Moto2とMoto3、またスーパーバイク世界選手権(WSBK)の各選手権にタイヤを供給し、タイヤのイコールコンディション化を図っています。なお、2025年3月6日、MotoGPクラスにおけるタイヤサプライヤーも、2027年から2031年までの5年間、ピレリが務めることが発表されました

2025年シーズン、イデミツ・アジア・タレントカップには4名の日本人ライダーがフル参戦エントリーしています。参戦3年目の#16荻原羚大、参戦2年目の#14池上聖竜、参戦1年目の#2松山遥希#21飯高新吾です。

レース1:2024年ランキング3位の荻原が、貫録の優勝

土曜日夕方に行われたレース1は、1周目の9コーナーで多重クラッシュが発生し、赤旗中断となりました。その後、レースは15周から10周に周回数を減算して再スタートとなります。

再スタートしたレースでは、2番手スタートの荻原が序盤からトップに立ち、ポールポジションスタートから2番手に後退した池上が追いかける展開となりました。前週に行われたテストからタイ大会の週末の流れを踏まえ、荻原は自分のタイムにアドバンテージがあると考えており、トップに立って、後方を引き離すつもりでした。しかし、池上が荻原を逃がしません。

2人のトップ争いは最終ラップにまでもつれ込みました。抜きつ抜かれつを繰り返し、8コーナーで池上が荻原に再び仕掛けますが、荻原は冷静に対処します。荻原は、オーバースピードで曲がり切れずワイドになった池上に先行して立ち上がり、トップを守って優勝を飾りました。

レース後、荻原に話を聞きに行くと、とてもうれしそうな笑顔が浮かんでいました。

「自分の強みを生かしたレースだったと思います。トップでいいラップタイムを刻めたので、明日に向けても自信がつくレースでした」と、顔をほころばせていました。

対照的だったのが2位の池上です。「タイはもともと苦手なんです。テストもよくなかった。予選だけが悪くなかったのですが、決勝は荻原選手についていく形になって、仕掛けることはできたけど、負けてしまいました。悔しいです」と、見るからに悔しそうな表情で声を落としました。

確かに、2位という結果は悪くはありません。ただ、イデミツ・アジア・タレントカップからその先のFIMジュニアGP世界選手権や、レッドブルMotoGPルーキーズカップにステップアップできるのは、ほんのひと握りのライダーだけです。イデミツ・アジア・タレントカップに参戦するライダーは、そのほんのひと握りになるために、毎レースでトップを目指しています。その厳しさが伝わる、池上の表情でした。

松山はイデミツ・アジア・タレントカップの初戦・初レースを、4位でゴールしました。これが松山にとって、海外のレースという意味でも初めてのレースでしたが、「スタートが悪くて前の集団に追いつけませんでした。今回の課題は、スタートでした」と、冷静に語っています。

2024年の日本大会でワイルドカード参戦をした経験を持つ飯高は、12位フィニッシュでした。最終ラップは9番手付近を走っていましたが、最終コーナーで発生した多重クラッシュに巻き込まれる形となり、ポジションを落としてのゴールとなりました。

「テストからあまりいい流れがなく、予選でもうまくタイムをまとめきれなくて9番手で終わってしまいました。レース1になっても、アベレージをうまく上げることができませんでした。12位はまったく予想していなかったポジションです。自分のなかでも腑に落ちない。もっと行けただろうな、という気持ちがあるレース1でした」

レース2:荻原がダブル・ウイン。日本人ライダーが表彰台独占

日曜日午前中に行われたレース2は、後半まで混戦のトップ争いとなりました。しかし、周回数を重ねるごとに集団がしぼられていき、4名のライダーがトップ争いを展開。その後、そのうちのひとりだったバドリー・アヤトゥラが転倒したことで、トップ争いは荻原、池上、松山の3名にしぼられました。

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レース前半は混戦。大きなトップ集団に
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残り3周で荻原(#16)が抜け出しにかかった

最終ラップ、トップ争いを繰り広げたのは、レース1同様に荻原と池上でしたが、荻原は池上を抑え込みました。荻原がレース2でも優勝を飾り、2位は池上、3位はイデミツ・アジア・タレントカップ初表彰台獲得となった松山でした。

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僅差でトップを守った荻原(#16)。池上(#14)との差はわずかだったが、トップを譲らない強さがあった
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レース2で優勝した荻原(中央)、2位の池上(左)、3位の松山(右)

2レースを制した荻原は、レース後、「ラスト3周でスパートをかけたのですが、最終ラップで追いつかれてしまったので、そこは少しうまくいかなかったです。でも、バトルになっても勝つことができたので、よかったです」と、強さを見せたレースについて語っていました。

「決勝だけを見たら結果はよかったのですが、予選ではアタック1周目で転倒したりもしました。フリープラクティス(練習走行)からの流れをもっとよくしていけたら、決勝ももっと楽に自分のペースを作っていけると思うので、今後はウイークの流れをよくしていきたいです」

2レースともに2位だった池上は、「焦りがあった」とレースを振り返ります。

「終盤に羚大選手から離れてしまったので焦ったのですが、最後、追いついて勝負はできました。でも、結局昨日(レース1)と同じ展開になって、(最終コーナーで)アウトにいって負けてしまいました。次戦は今日の反省を踏まえてダブル・ウインできるように頑張ります」

初戦のレース2で早くも表彰台を獲得した松山は、集団で走りながら「この中でどうやって勝つか」とずっと考えていたと言います。ルーキーながら、冷静です。レース後にコメントを求めた時も、淡々とレースについて語っていました。

「最後は3人で抜け出した形になって、ついていけたのはよかったと思いますが、最終ラップで仕掛けられず、(優勝争いを)見ただけで終わったのが悔しいですね。後ろを走っていても自分の技術が足りていない、と思うところがけっこうありました。次戦に向けてトレーニングなどをして、その差を埋めていきたいと思います」

飯高は9位でチェッカーを受けました。中盤まではトップ集団に加わったものの、終盤についていけず、離されてのゴールとなりました。

「トップ集団についていこうとしてミスが増えてしまいました。途中まではいいレースができていたけど、終盤は自分のベストを尽くせたな、と思えるレースではなかったです」

イデミツ・アジア・タレントカップ第2戦カタール大会は、4月11日から13日にかけて、カタールのルサイル・インターナショナル・サーキットで行われます。

2025年 イデミツ・アジア・タレントカップに参戦する日本人ライダー

#16 荻原羚大(おぎわら・りょうた)
 2008年9月7日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦3年目(2024年ランキング2位)。2024年、スポット参戦した全日本ロードレース選手権もてぎ大会では、ピレリタイヤでJ-GP3のコースレコードをマークした。

―――参戦3年目のイデミツ・アジア・タレントカップへの意気込みを教えてください。
「今季、チャンピオンを獲らないとあとがないのは自分でも分かっています。もちろんチャンピオンは確実に獲らないといけないと思っています。ただ、そのなかでも、1戦1戦、内容を濃くしていけるように頑張りたいです」

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荻原羚大

#14 池上聖竜(いけがみ・せいりゅう)
 2008年10月20日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦2年目。2022年FIM MiniGP Japan Seriesチャンピオン。2022年FIM MiniGP World Series Final総合ランキング3位。2024年にはヨーロピアン・タレントカップにも参戦した。

―――今後、世界にステップアップしていくために必要なものは?
「ヨーロッパの選手は、もっとスピードが速いんです。今のままだと、たぶん、(世界選手権の)Moto3に上がったとしてもついていけない。今は、タイムを詰める練習をしたいと思っています」

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池上聖竜

#2 松山遥希(まつやま・はるき)
 2009年7月17日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦1年目。2022年FIM MiniGP Japan Seriesランキング2位。2023年FIM MiniGP Japan Seriesランキング3位。2024年は筑波ロードレース選手権J-GP3に参戦。

―――初参戦のイデミツ・アジア・タレントカップへの意気込みを教えてください。
「1年目なので、次戦はルーキーらしい粗っぽさを出していきたいです。積極的に前に立って、最終的にトップでゴールして、いい結果で日本に帰りたいと思います」

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松山遥希

#21 飯高新吾(いいだか・しんご)
 2009年12月22日生まれ。イデミツ・アジア・タレントカップ参戦1年目。2023年、2024年全日本併催のMFJ CUP JP250に参戦。2024年はJ-GP3にもダブルエントリー。イデミツ・アジア・タレントカップ日本大会にワイルドカード参戦し、レース2では5位を獲得。

―――初参戦のイデミツ・アジア・タレントカップへの意気込みを教えてください。
「開幕戦は思った始まりとは少し違ってしまいました。でも、目標はランキング3位以内です。1レース1レース、優勝争い、表彰台争いをしていきたいです」

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飯高新吾