写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里

WSBK第11戦エストリル
10月10日~12日/ポルトガル エストリル・サーキット

フロントタイヤにミディアム開発仕様E0672を初投入

エストリル・サーキットで開催されたポルトガルラウンドに、ピレリはフロントタイヤとして初めてE0672を投入しました。これは、スタンダードのミディアムであるSC1の進化版で、コンパウンドは同じであるものの、まったく新しい構造を採用しています。ブレーキング時およびコーナー進入時の、より高い安定性を目的として開発されました。

リヤにはスーパーソフトの開発仕様E0126と、エクストラソフトの開発仕様E0479をアロケーションしました。エクストラソフトのE0479は、フリープラクティス、スーパーポール(予選)、スーパーポール・レースで使用可能なタイヤです。

レース1で優勝したトプラク・ラズガットリオグル(ROKiT BMWモトラッド・ワールドSBKチーム)、レース2で優勝したニッコロ・ブレガ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)はともに、各レースでフロントにE0672、リヤにE0126という組み合わせを選びました。

大詰めのチャンピオン争い、ラズガットリオグルがエストリルで2勝を挙げる

エストリルラウンドは、ラズガットリオグルがチャンピオン獲得の可能性をもって迎えることになりました。エストリルラウンド前の時点で、チャンピオンシップのランキングトップであるラズガットリオグルは、ランキング2番手のブレガに対し、36ポイントの差を築いていました。このラウンドを終えてラズガットリオグルがブレガに対し62ポイント以上の差を築くことができれば、ラズガットリオグルのチャンピオンが決まります。

とはいえ、今季これまで、ラズガットリオグルとブレガは優勝を争い、分け合ってきました。多くのレースでは、どちらかが優勝すればどちらかは2位を獲得し、それゆえにブレガはラズガットリオグルにポイントの大きなリードを許さなかったのです。ブレガの安定性と強さを考慮すれば、エストリルにおけるラズガットリオグルのチャンピオン獲得の条件は、そう簡単なものではありませんでした。

レース1では、ラズガットリオグルが優勝を飾りました。ラズガットリオグルはレース序盤に後退したものの、前を走るブレガ、アルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)をかわしてトップに浮上。一時はブレガがラズガットリオグルとの差を詰めたものの、ラズガットリオグルがトップをキープして優勝を飾ったのです。

「とてもうれしい。今日は本当に全力で走ったよ。特にレース序盤はね。すべてがいい感触だったけど、中盤になるとニッコロが追い上げてきたんだ。彼が0.7秒差まで来たけれど、そこで止まった。サインボードで1.2秒と見たとき、彼がグリップに苦しんでいると分かったんだ。最後の2〜3周はとてもリラックスして、ミスをしないように走った。最終的に勝ててうれしい。チャンピオンシップにとってもいいポイントを獲得できた。でも、明日は厳しいレースになりそうだ」(WorldSBK.comのインタビューより)

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レース1で優勝したラズガットリオグル(中央)、2位のブレガ(左)、3位を獲得したアルバロ・バウティスタ(右)
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「明日は厳しいレースになりそう」と語ったラズガットリオグル。その予想の通りのレース2となった

ブレガがレース2で意地の勝利

日曜日、スーパーポール・レースでは再びラズガットリオグルが勝利します。しかし、レース2ではブレガが序盤からトップを走り、優勝を飾りました。ランキング2番手のブレガにとっては、ラズガットリオグルの前でゴールして少しでもポイント差を詰めることが必要でした。

「レース2はとてもいいレースだったよ。午前中のスーパーポール・レースからマシンを大きく改善できたんだ。今回の勝利はとても重要だからうれしい。チャンピオンシップは厳しいように見えるけれど、ボクたちは絶対に諦めない。トプラクはシーズンを通して強かったけれど、ボクたちだってすごくいいシーズンを過ごしている。(最終戦の)ヘレスでは200%の力を出すよ。今のボクにできることは、自分のベストを尽くしてトプラクにプレッシャーをかけることだけだ」(WorldSBK.comのインタビューより)

ラズガットリオグルはレース2のスタートで出遅れ、1周目は5番手に後退しました。2周目には2番手に浮上したものの、レース序盤にブレガに追いつこうとしてタイヤを使いきったことが響きました。このためブレガに追いつくには至らず、2位でゴールしています。

「残り6~7周でペースが落ち始めたんだ。最初にフロントタイヤが落ち始めて、それは何とかマネジメントできたんだけど、リヤタイヤも垂れてしまい、マシンのコントロールがすごく難しくなった。チャタリングもひどくなって、タイヤが限界だった。そこで『もう勝つのは無理だ、2位で十分。チャンピオンシップのためにポイントを取ろう』と決めたんだ」(WorldSBK.comのインタビューより)

レース1とスーパーポール・レースでラズガットリオグルが優勝し、レース2でブレガが勝利したことで、チャンピオンシップにおけるラズガットリオグルとブレガの差は、3ポイント開いて39ポイントとなりました。

残りは最終戦ヘレスラウンド。ここで、2025年シーズンのチャンピオンが決まります。今季限りでWSBKを離れ、来季はMotoGPに転向するラズガットリオグルが有終の美を飾るのか、ブレガが大逆転で初のWSBKタイトルを獲得するのか、注目です。

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レース2ではブレガが優勝(中央)、2位がラズガットリオグル(左)、3位はバウティスタ(右)だった。バウティスタはこの結果により、ランキング3番手に浮上した

また、併催のスーパースポーツ世界選手権(WSSP)は、今大会でステファノ・マンツィ(パタ・ヤマハ・テンケイト・レーシング)がレース2で優勝を飾ってチャンピオンに輝きました。

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ステファノ・マンツィがWSSPのチャンピオンに輝いた

2025年シーズン最終戦となる第12戦ヘレスラウンドは、10月17日から19日にかけて、スペインのヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトで開催されます。