Photo:DUCATI
7月12日に開催されたチェコGPのMotoGPクラス・スプリントレースで、ドゥカティ・ファクトリー(ドゥカティ・レノボ・チーム)のマルク・マルケス選手とフランチェスコ・バニャイア選手がレース中に意図的にペースダウンして、後続の選手を先に行かせるシーンがありました。
それまでトップを独走していたマルケス選手は、前に行かせたペドロ・アコスタ(KTM)の後ろにぴったり張り付いて、走行風が直接フロントタイヤに当たるのを避けて内圧を上昇させて(走行風が直接当たるとタイヤが冷えて内圧が低くなる)、残り1周半のところでアコスタを抜き去り、そのままトップでチェッカーを受けました。


一方、ポールポジションからのスタートだったバニャイアは、7位でフィニッシュ。
対照的な結果に終わった両選手でしたが、レース後、2人とも内圧違反のお咎めはありませんでした。

MotoGPの内圧規定とは?
TVなどを見ていてこのシーンをご覧になった方の中には、MotoGPクラスのタイヤの内圧規定について詳しく知っている方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
走行中、ブレーキングやコーナリングでタイヤに摩擦熱が伝わるとタイヤ内の温度と内圧が高くなります。逆に、内圧が低いとタイヤの扁平率が上がって(つまりタイヤの接地面積が増えて)グリップ力が高まるといいます。
そして、スプリントレースでは最低30%の周回数、決勝レースでは最低50%以上の周回数は、最低内圧を上回った状態で走行する必要があり、これに違反するとペナルティを受けてしまうことも規定されています。 現在のMotoGPではタイヤの最低内圧=空気圧はフロントが1.9bar、リヤが1.7barが最低値となっていて、すべてのMotoGPマシンにはタイヤ空気圧監視システム(TPMS)が搭載されています。
このシステムは、タイヤの空気圧と内部温度をリアルタイムで計測してデータを送信し、走行中もライダーのダッシュボードやチームのモニターに表示されます。
チェコGPのスプリントレースでは、マルケスも、そしてバニャイアも、ダッシュボードに表示された内圧のデータを見て、自主的にペースダウンしたということです。
レース後の報道などを見ると、内圧違反と表示されたのはドゥカティが搭載するモニター機器のエラーだったようですが、ひとつ間違えるとレース結果に重大な変化を与えてしまうタイヤの内圧規定。来年から、ミシュランに代わってMotoGPにタイヤ供給をすることになったピレリの日本法人2輪事業部代表の児玉さんにお話を聞いてみました。
内圧規定の根幹は『安全性の担保』です
「まずは現在のタイヤ供給メーカーの賢明なる努力によって大きな事故もなく、大会が運営されていることに敬意を表します。
我々としてはレースのレギュレーションに対して意見を言う立場にないですが、なぜ最低内圧の規定があるのか? という点についてタイヤメーカー側の意見を推察しますと、『安全性の担保』に尽きると思います。
今やタイヤの内圧管理はレースマネジメントにおける重要なセッティング項目となってきておりますが、タイヤメーカーの本来の優先順位第1位は『安全に走行できること』です。極端な低圧走行ではタイヤが性能を発揮しないどころか、最悪の場合タイヤが破壊してしまうリスクがあります。そうは言ってもラップタイムは常に向上させていかなければならないというタイヤメーカーとしての命題がありますから、悩ましいところではあります。
無論、競技ですから、あらゆる手段を用いてもライバルを出し抜くという考え方もあると思います。ゆえに破壊が起きる手前にリミットを置く必要があるのは必然です。
内圧管理に管理モニターが導入される、レース結果に影響を及ぼす要素になり得るなど、話題になっている背景には空力パーツの進化もあると思います。これらの進化がタイヤに与える負荷をより厳しいものにしています。
いずれにしてもライダーの視点、メカニックの視点、レース運営者の視点、興行主の視点がそれぞれ違うように、パーツサプライヤー(この場合はタイヤメーカー)の視点も異なるものがあり、そういうものを包含してこの複雑な競技は世界中で人気を博しているのだと思います。日本ではイマイチ盛り上がりに欠けるようですが、MotoGPレースは本当に面白いので、みなさんもいろんな視点でレースを楽しんでみてください!」 ライダー、チームにとってはレースは勝つことが大命題。そのためには、さまざまなレギュレーションをギリギリに守りながら、マシンセッティングを行っています。
TVを観ていると、誰が抜いたとか、誰が抜かれたとかに興味がいってしまいますが、その裏側では安全を担保しながら各チームによる丁々発止の駆け引きも行われているのです。
児玉さんが言うように、ヨーロッパやアジアに比べると日本でのMotoGP人気はそれほど高くはない気がします。でも、今年からMotoGPにステップアップして、まずまずの結果を出し将来を嘱望されている小椋藍選手(トラックハウス・MotoGPチーム)も3年目となる再来年からアプリリア・ファクトリー入りも噂されるほど。
また、いまのF1の大人気を仕掛けた「リバティメディア」によるMotoGPの買収が完了し、さらなるMotoGP人気に火をつけるさまざまな施策が行われ、ショー的要素が格段に高まることが予想されています。 そんな状況の中、9月26日~28日までモビリティリゾート・もてぎで日本GPが開催されます。みなさんもぜひもてぎに足を運んで、トラックでの争いの裏側にある虚々実々の戦いをその目で確認してください。
そして、一般公道でもタイヤの内圧管理=エア管理はとても重要なこと。破壊されるまでいかなくとも、本来の性能が発揮できない、ライフが短くなるなど、適正なエア管理をしなければトラブルを招きかねません。
楽しく安全にバイクライフを送るためにも、MotoGPマシンに倣ってしっかりエア管理を行いましょう。