写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里
WSBK第12戦オーストラリアラウンド
11月18日~20日/オーストラリア フィリップアイランド・サーキット
2022年シーズンのWSBKはこのオーストラリアラウンドで最終戦を迎えました。最終戦の開催地、フィリップアイランド・サーキットはメルボルン南のフィリップ島に位置し、1956年に誕生しました。連続する高速でワイドレンジなコーナーと、それらを分断する2つのヘアピンコーナーによって構成される魅力的なレイアウトが特徴で、ヘアピンコーナーはオーバーテイク・ポイントとなっています。
唯一のストレートとなるメインストレートは下り坂となっており、トップスピードはWSBK開催サーキットの中でもトップクラスです。こうしたレイアウトにより機械的、熱的なストレスが発生するため、特にタイヤの左側に対し、コンスタントに強くストレスがかかります。このためピレリは、WSBKとWSSともに専用のリヤタイヤソリューションを開発しました。
WSBK、WSSともにリヤタイヤにニュータイヤを投入
WSBKのフロントタイヤについては、スタンダードのソフトSC1と開発ソリューションのソフトSC1(A0674)、同じく開発ソリューションのソフトSC1(A0843)を用意。リヤタイヤについては、スタンダードのソフトSC0をスーパーポール(予選)とスーパーポール・レース用としました。新開発ソリューションのミディアムSC1(A1126)はフロントのSC1(A0843)同様、スタンダードよりもしっかりした構造を持ち、高い気温用に設計されています。同じく開発ソリューションのミディアムSC1(B0152)は、SC1(A1126)と同じコンパウンドが使用されていますが、さらに進化した構造となっています。
WSSでは、フロントタイヤにスタンダードソフトのSC1とスタンダードミディアムのSC2が用意されました。対してリヤタイヤは、WSBKのように2つの新しい開発ソリューションであるミディアムコンパウンドから選ぶことができます。SC1(A1128)はスタンダードSC1と同じコンパウンドが使用されていますが、よりしっかりした構造を持ち、SC1(B0625)もやはりスタンダードSC1と同じコンパウンドでありながら、SC1(A1128)とは異なる構造になっています。
土曜日は不安定な天候となり、フリー走行3では雨でウエットコンディションとなりましたが、その後のスーパーポールは路面が乾き、ライダーたちはスリックタイヤでのタイムアタックとなりました。
ポールポジションを獲得したのはアルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)。2番手はジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)、3番手はアレックス・ロウズ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)が獲得しました。トプラク・ラズガットリオグル(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)は4番手となりました。スーパーポールでは、フロントタイヤはSC1(A0674)、SC1(A0843)に選択が分かれ、リヤタイヤはすべてのライダーがSC0を選びました。
WSBKレース1:レイがウエットからドライへと変化する難しい路面状況のレースを制す
スーパーポールで乾いた路面は、その後再び雨が降ったことでウエットコンディションとなりました。しかしWSBKのレース1直前に雨が上がり、天候は回復傾向で、気温は18度、路面温度は22度。難しいタイヤ選択となりましたが、ほとんどすべてのライダーが前後にレインタイヤを選びました。
このレースはフラッグtoフラッグとなり、レース中にピットインをしてタイヤ交換をするタイミングが重要になりました。7周目にロウズがトップに立ち、レイ、ラズガットリオグル、バウティスタとともにトップ集団を形成します。しかし、路面状況は刻々とドライに変化していました。
10周目には2番手のレイと3番手のラズガットリオグルがピットインして、レインタイヤからスリックタイヤに交換。11周目にバウティスタ、12周目にロウズがピットインします。
トップ集団の中でいち早くピットインしたレイは、ピットアウト後10番手に後退したところからスリックタイヤで追い上げていき、15周目にトップに立ちました。その翌周にはラズガットリオグルが2番手に浮上するも、レイはすでにラズガットリオグルに対し、5秒以上のアドバンテージを築いていました。
レイはそのままトップを維持して優勝を飾りました。2位はラズガットリオグル、3位はロウズが獲得しています。今大会、イケル・レクオーナの代役としてチームHRCから参戦した長島哲太は10位、野左根航汰(GYTR・GRTヤマハ・ワールドSBKチーム)はリタイアでした。
前戦インドネシアでチャンピオンを獲得したバウティスタは5位でフィニッシュ。レース1の結果、ドゥカティがマニュファクチャラーズタイトル、Aruba.it レーシング-ドゥカティがチームタイトルを獲得し、ドゥカティがライダー、マニュファクチャラー、チームの3冠を成し遂げました。
WSBKスーパーポール・レース:スリックタイヤの賭けが奏功し、バウティスタが大逆転勝利
翌日のスーパーポール・レースもまた、気温15度、路面温度26度で、路面は一部に濡れた部分が残る難しいコンディションとなりました。ほとんどのライダーがレインタイヤまたはインターミディエイトタイヤを選択する中、ポールポジションスタートのバウティスタと、ハフィス・シャーリン(MIEレーシング・ホンダ・チーム)のみがスリックタイヤでスタートします。バウティスタはフロントにSC1、リヤにSC1(A1126)を組合せました。
スタートではラズガットリオグルがトップに立ちましたが、2周目にロウズがトップを奪い、ロウズ、2番手のラズガットリオグル、3番手のレイがトップ集団となって接戦を展開。5周目にレイがレースリーダーとなるも、7周目にラズガットリオグルがレイをパスし、再びトップに浮上します。
しかし残り2周、ラズガットリオグルとレイのトップ争いにバウティスタが加わり、トップを奪いました。スリックタイヤを履くバウティスタは、序盤に16番手付近まで後退するも、路面状況がドライへと変化するにつれ猛烈な勢いで追い上げてきたのです。バウティスタはトップでチェッカーを受け、優勝を飾りました。2位はラズガットリオグル、3位はレイが獲得しました。野左根は17位、長島は19位でした。
WSBKレース2:赤旗終了のレースはバウティスタが優勝
日曜午後に行われたレース2は気温15度、路面温度27度。スタートの30分前に小雨が降りましたが、スタート時には路面状況はドライコンディションとなりました。タイヤは、全員がスリックタイヤを選択。フロントタイヤは半数以上のライダーがSC1(A0674)を選び、リヤタイヤはほとんどのライダーがSC1(A1126)をチョイスしました。
レース序盤はレイがトップを走行していましたが、6周目、バウティスタがレイをパスしてトップに浮上します。バウティスタ、レイ、ラズガットリオグル、ロウズがトップ集団となって周回を重ねていきました。その後、ラズガットリオグルとロウズはトップ争いから後退。優勝争いはバウティスタとレイ、2人のライダーとなります。
しかし残り5周、1コーナーでのアクシデントによって赤旗が提示され、レース終了となりました。優勝はバウティスタで、チャンピオンのバウティスタが2022年シーズンのラストレースを勝利で終えました。2位はレイ、3位はロウズが獲得し、4位がラズガットリオグルでした。長島は9位、野左根は16位でした。
WSS:王者エガーターが17勝目を飾る
スーパースポーツ世界選手権(WSS)のレース1は気温18度、路面温度21度のウエットコンディションとなり、全ライダーが前後にレインタイヤを選びました。
トップ争いはヤリ・モンテラ(カワサキ・プチェッティ・レーシング)とフェデリコ・カリカスロ(アルテア・レーシング)による接戦となり、レース終盤に何度かトップを入れ替え、残り2周でカリカスロがトップに立ちました。
しかし、最終ラップの4コーナーでカリカスロは転倒。モンテラがWSS初優勝を飾りました。2位はニコロ・ブレガ(Aruba.itレーシング・ワールドSSPチーム)、3位はジャン・オンジュ(カワサキ・プチェッティ・レーシング)が獲得しています。ドミニケ・エガーター(テンケイト・レーシング・ヤマハ)は5位でゴール。カリカスロは転倒後にレースに復帰し、7位でフィニッシュしました。
レース2は気温16度、路面温度31度のドライコンディションとなりました。タイヤ選択は、ほぼすべてのライダーがフロントタイヤにSC1、リヤタイヤにSC1(A1128)を選んでいます。
レースはエガーターとランキング2位のバルダッサーリがトップ争いを展開。2人がバトルを繰り広げる間に後方のライダーが追いついて、トップ集団は混戦模様となります。この集団の中でポジションを争っていた1人のモンテラは、チームメイトとの接触が「無責任なライディング」とされてロングラップ・ペナルティを科され、後退。同じく表彰台争いを展開していたステファノ・マンジ(ダイナボルト・トライアンフ)はカリカスロと接触して転倒し、トップ争いはエガーター、バルダッサーリ、カリカスロの3人にしぼられました。
しかし9周目にトップに立ったエガーターが2番手以下を引き離していきます。エガーターは優勝を飾り、今季17勝目を挙げてシーズンを締めくくりました。2位はカリカスロ、3位はバルダッサーリが獲得しています。