写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里

WSBK第10戦アルゼンチンラウンド
10月21日~23日/アルゼンチン サン・ファン・ビリクム・サーキット

ソフトに焦点を当ててタイヤを用意

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アルゼンチンラウンドの開催地、サン・ファン・ビリクム・サーキットは2018年に開設されたサーキットです。容易に300km/h以上のスピードに達する高速サーキットで、メインストレートは1km以上、7コーナーと8コーナー間のストレートはそれ以上の長さがあります。このサーキットはアンデス山脈のふもと、標高650mに位置しており、日中の気温差が激しく、また、周辺の砂漠地帯から風によって砂が堆積し、非常に路面が汚れているのも特徴です。ただ、日ごとに路面状況は改善していきます。

タイヤにとっては厳しい特徴やレイアウトではないため、ピレリはライダーがよく知るソフト・ソリューションに焦点を当てることにしました。フロントタイヤはスタンダードソフトのSC1、そしてシーズン中にライダーにもっとも使用された開発ソフトのSC1(A0674)。リヤタイヤはどちらもスタンダードで、スーパーソフトのSCXとソフトのSC0、スーパーポール(予選)とスーパーポール・レース用のエクストラソフト、SCQが用意されました。

スーパースポーツ世界選手権(WSS)はいずれもスタンダードタイヤで、フロントタイヤにソフトのSC1、ミディアムのSC2、リヤにスーパーソフトのSCXとソフトのSC0が投入されています。

10人のライダーが2021年のオールタイム・ラップレコードを更新

土曜日のスーパーポールでは、トプラク・ラズガットリオグル(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)がポールポジションを獲得し、2番手がジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)、3番手がアルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)でした。スーパーポールでは全ライダーがリヤタイヤにSCQを選択しています。

また、トップから10番手までのライダーが、2021年に記録されたオールタイム・ラップレコード1分37秒239を更新するタイムを記録しました。ポールポジションを獲得したラズガットリオグルは、1分36秒216をマークしています。

WSBKレース1:ラズガットリオグル、転倒で15位に沈む

レース1は気温20度、路面温度49度のドライコンディションで行われました。フロントタイヤには22人中17人のライダーがSC1(A0674)をチョイス。リヤタイヤには、バウティスタを含む14人がSCX、ラズガットリオグルやレイ、アクセル・バッサーニ(モトコルサ・レーシング)などの8人がSC0を選びました。

1周目、ポールポジションからスタートしたラズガットリオグルが、バウティスタをかわそうとしたそのとき、まさかの転倒。ラズガットリオグルはレースに復帰したものの、最後尾にまでポジションを落とすことになりました。

トップ集団はアクセル・バッサーニ、レイ、イケル・レクオーナ(チームHRC)、バウティスタが形成。4番手を走っていたバウティスタはレース中盤までにレクオーナ、レイ、そしてバッサーニをパスすると、トップに立ちました。

その後、バウティスタは後方を引き離して独走態勢を築き、優勝を飾りました。バッサーニとレイは2番手争いを繰り広げ、レイが残り3周でバッサーニをかわして2位でゴール。バッサーニが3位となりました。

4位にはレクオーナ、5位にはマイケル・ルーベン・リナルディ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)が入っています。1周目に転倒したラズガットリオグルは15位。WSBKに唯一の日本人ライダーとして参戦する野左根航汰(GYTR・GRTヤマハ・ワールドSBKチーム)は18位でした。

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バウティスタとレイが表彰台を獲得した一方、ラズガットリオグルは転倒が響き15位となった

WSBKスーパーポール・レース:ランキングトップ3のバトルをラズガットリオグルが制す

スーパーポール・レースは気温22度、路面温度45度のドライコンディション。多くのライダーがフロントタイヤにSC1(A0674)、リヤタイヤにSCXを選びました。フロントロウの3人の中では、ラズガットリオグルとレイがフロントにSC1、リヤにSCXの組合せ。バウティスタは、リヤは同じくSCXながらフロントにSC1(A0674)を選んでいます。

レースはラズガットリオグルが先頭に立ち、2番手にレイ、3番手にバウティスタという、タイトル争いを展開する3人がトップ3につけます。レイは3周目の6コーナーでラズガットリオグルをかわすとトップに浮上しました。

しかし6周目、レイが1コーナーでオーバーラン。このミスによって3番手に後退しました。トップに立ったのはラズガットリオグル、続く2番手はバウティスタ。ラズガットリオグルとバウティスタは残り3周から激しいトップ争いを展開します。その接戦は最終ラップまで続き、追い上げてきたレイを含む三つ巴のバトルとなりました。レースを制したのはラズガットリオグル。バウティスタが2位でゴールし、レイは3位を獲得しています。4位はリナルディ、5位はロウズが獲得しました。野左根は16位フィニッシュでした。

WSBKレース2:バウティスタ、タイトル獲得に突き進む勝利

レース2は気温28度、路面温度は53度まで上昇しました。タイヤ選択はほぼすべてのライダーが、フロントにSC1(A0674)、リヤにSCXという組合せをチョイスしています。

2周目、レイが10コーナーではらんで後退し、トップ争いから離れてしまいます。レースをリードしたのはバウティスタとラズガットリオグル。2人は後方との差を広げ、さらにトップのバウティスタはラズガットリオグルを引き離していきました。

一方、3番手は終盤に入ってレイとアレックス・ロウズ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)というチームメイト同士の争いとなりました。残り3周、レイがロウズをかわして3番手に浮上します。

バウティスタはトップを譲ることなく優勝を飾りました。2位はラズガットリオグル、3位はレイが獲得しました。4位がロウズ、5位がリナルディ。野左根は16位でゴールしています。

アルゼンチンラウンドではチャンピオンシップのランキングトップ、バウティスタが2勝を挙げ、ランキング2番手のラズガットリオグルに対し82ポイント、ランキング3番手のレイに対し98ポイントと差を広げています。

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ラズガットリオグル(#1)の追従を許さず、バウティスタ(#19)はアルゼンチンで2勝目を挙げた

WSS:エガーター、勝ち星を積み重ね今季15勝目

レース1は気温17度、路面温度47度のドライコンディションで行われました。ほとんどのライダーがフロントにSC1、リヤにSCXを選んでいます。

序盤はフェデリコ・カリカスロ(アルテア・レーシング)がレースをリード。しかし5周目にラファエレ・デ・ロサ(オレラック・レーシング・ヴェルドナトゥラ・ワールドSSP)がカリカスロをパスしてトップに立ちます。レース中盤以降は、トップのデ・ロサ、2番手のカリカスロ、そして3番手につけるドミニケ・エガーター(テンケイト・レーシング・ヤマハ)が4番手以下との差を広げていきました。

エガーターは一時トップ2から遅れていましたが、終盤に一気に接近。残り3周でカリカスロがブレーキングでミスをしたところで2番手に浮上し、最終ラップでデ・ロサをパス。トップでチェッカーを受けました。2位はデ・ロサ、3位はカリカスロが獲得しています。

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勝ちパターンの終盤の追い上げで優勝を飾ったエガーター

レース2は気温26度、路面温度52度のドライコンディション。レース1同様に、フロントSC1、リヤSCXという組合せを多くのライダーが選びました。

このレースでも序盤から中盤にかけてデ・ロサがトップを走行していましたが、11周目、デ・ロサが転倒。ロレンソ・バルダッサーリ(エヴァンブロス.ワールドSSPヤマハチーム)がトップに浮上しました。

しかしレース終盤、バルダッサーリの後ろにエガーターとカリカスロが迫り、特にエガーターとバルダッサーリは最終ラップに激しいトップ争いを展開します。最終的に、15コーナーでバルダッサーリをかわしたエガーターが今季15勝目を挙げました。2位はカリカスロ。バルダッサーリはエガーターにかわされた際にはらみ、3位フィニッシュとなりました。チャンピオンシップのランキングトップにつけるエガーターはランキング2番手のバルダッサーリとの差を72ポイントに広げています。

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最終ラップはタイトルを争うエガーターとバルダッサーリによるバトルに。制したのはエガーター

第11戦インドネシアラウンドは11月11日から13日にかけて、インドネシアのプルタミナ・マンダリカ・インターナショナル・ストリート・サーキットで行われます。レースの結果次第で、WSBK、WSSともにチャンピオン決定の可能性がある一戦となります。