スーパースポーツモデルに乗るライダーにとって、とくにサーキット走行も楽しんでいるライダーには、新たに登場したDIABLO ROSSO™ Ⅳ CORSAはとても気になるタイヤのはず。
強烈なドライグリップに魅かれてSUPER CORSAを履いていたライダーの中には、ワインディングを楽しんだ帰り道で突然のゲリラ雷雨に遭って、濡れた路面のカーブでタイヤが滑ってヒヤリとした経験をお持ちの方もいるかもしれません。
その点、今度のDIABLO ROSSO™ Ⅳ CORSAはウエットグリップも十分な性能を持っていますので、スパコルのままでいいのか、それともDIABLO ROSSO™ Ⅳ CORSAに履き替えるか頭を悩ませている方がたくさんいるはずです。
この悩ましい問題のひとつの回答を、「STUDIO FLATOUT」でライディングレクチャーなどを行っている国際ライダーの溝口真弘さんがレポートしてくださいました。
Ⅳ CORSAはストリートの最先端タイヤを味わわせてくれる
こんにちは溝口です。先日のPirelli FUN TRACK DAY@袖ヶ浦フォレストレースウェイで、新しいDIABLO ROSSO™ Ⅳ CORSA(以下クワトロCORSA)をDUCATI・PANIGALE V4Sに装着してテストしましたので、そのテストレポートをお伝えします。
比較したタイヤは、PANIGALE V4S の標準装着タイヤのDIABLO SUPER CORSA SP V3。テスト用のクワトロCORSAの内圧は冷間でF2.1/R2.0、ウォーマーなしでスタートしました。
SUPER CORSAは、攻め込めんでいくとその名の通りレーシング寄りのタイヤで、スキルのあるライダーがアグレッシブにメリハリをつけてタイトに攻め込めば、とても速く走れてしまう尖ったタイヤです。
しかし、とっつきにくさや変なクセはなく、スキルがそれほど高くないライダーでも、圧倒的なグリップと軽快なハンドリングを生むプロファイルのおかげで、攻め込めなくても何となく速く走れてしまいます。
一方、クワトロCORSAを履いたPANIGALE V4S に乗った第一印象は、生粋のTHE SUPER SUPORTのPANIGALE V4S がまるでスポーティな高速クルーザーに変身したように感じ、SUPER CORSAのときのようにタイトな走りをしたくならない感じでした。
しかし、グリップレベルは高くコーナリングスピードの受け皿は広いです。
SUPER CORSAはサーキット目線でより積極性を求められ、CORSAとはいえクワトロCORSAはストリート目線でオン・ザ・レール的なロードスポーツタイヤ。SUPER CORSAのようにタイトに攻めたくなる雰囲気を上手く消していて、きちんとキャラクターの棲み分けがされています。
SUPER CORSAは、高加重をかけたり、フロントとリヤの役割分担のメリハリを巧みに使うことでタイトな走りができ、車体をそのような走りにふったセッティングに突き詰めたくもなります。
そこが旨みで魅力だと思いますが、サーキットでならチャレンジの範囲にあり、可能性の受け皿でもありますが、ワインディングではそこまで突き詰めた走りをすることは、セーフティマージンを削ったリスクの拡大でしかありません。
クワトロCORSAは前後のタイヤで同時に曲がっていくレール感覚が強く、高い安心感があるのが印象的です。その上でグリップレベルは相当高いので、上級者がサーキットを走ってもコーナリングスピードをかなり上げられます。でも、SUPER CORSAより穏やかな特性なので、アグレッシブでタイトな走りをタイヤからは要求してきません。
ただ、クワトロCORSAがタイトな走りを要求してこないとはいえ、曲がらないわけでは決してありません。
イメージ的に、SUPER CORSAがブレーキング/旋回/立ち上がりとメリハリをつけて加重をかけることで、より積極的にコンパクトに曲がるところを、コーナーを大きなアールで弧を描いて曲がっていくイメージです。ある意味、あるべきニュートラルでスタンダードなフィーリングです。
そのため、複合コーナーをひとつのコーナーとしてクリアするのは得意分野だと思います。侵入でコーナーを見切り、上手くラインに乗せられればなおさらですが、スピードレンジを問わずライン変更の自由度が高く扱いやすいです。
上手く扱うには、SUPER CORSAに比べてラインをワイド気味にして、メリハリを若干抑えて扱うのがいいと思います。フワッとユルく走らせても速いタイヤです。
入り口は優しいROSSO、攻め込めば高次元なCORSAに
もう少し別の表現をすれば、SUPER CORSAは動きの中にブレイクダンス的なクッ! グッ! パッ! とタメやキレのようなスキルを使いますが、クワトロCORSAは日舞というか、ゆったりした舞いのように指先まで気を張りつつも優雅にいなすようなイメージです。
SUPER CORSAが「よくできました」と手首のスナップで正面から頭をポンポンと叩くのに対して、クワトロCORSAは後ろから腕で優しく抱きしめる感じ。
SUPER CORSAは多数の独立した専門家が集まっていて、それぞれ特化した引き出しでの対応が可能なのに対して、ROSSO Ⅳ CORSAは幅広くマルチにキュレーションしてくれているという感じです。このニュアンス、分かります…?(笑)
クワトロCORSAのブレーキングは頑張ってギュ~ではなく、早目にスゥ〜ッと。スロットルも向きが変わってからドンッではなく、早目にグワァーとトラクションをかけてやる、まさにストリートのワインディングロードに向いた特性です。
サーキットでその特性を活かすには、大きくワイドにとったラインの中に各操作を入れ込むことです。そしてそれらをやりやすい優しい特性です。
具体的には、緩くブレーキングしながら寝かし込み、寝かせた状態をなるべく長く保ちつつスロットルを開けることで、キレイな弧を描いたワイドなラインをつないでいってコーナリングスピードを上げられます。前後両輪の接地感を等しく感じる時間を長くとる、少し小排気量車的な乗り方に近いです。
そうすることで、タイムを削るタイトな走りよりも、コーナリング自体をより楽しめると思います。
ピレリのメーカーとしてのタイヤに対する方向性はSUPER CORSAと同一線上にありつつ、寝かせながら各操作を行うことに対してSUPER CORSAほど神経質に高いスキルを必要としないクワトロCORSAの優しい特性は、ワインディングをながしつつ、サーキットも高いレベルで楽しむことが出来る守備範囲の広いマルチなタイヤに仕上がっています。
スポーティなSSを扱いやすく、入口は優しいROSSOで、求めれば高次元なCORSAとして応えてくれる。クワトロCORSAはストリートタイヤの最先端を味わわせてくれます。
<プロフィール>
溝口真弘(みぞぐちまさひろ)
1974年静岡県浜松市出身。20歳のときにヤマハ・TZ125で鈴鹿選手権GP125に出場。97年までGP125、SP250、GP250に参戦し、97年には鈴鹿4時間耐久レースで優勝。98年から全日本選手権GP250クラスにフル参戦し、2000年にはYZF-R7で鈴鹿8時間耐久レースに出場。
2016年から、フリーランスで2輪/4輪の撮影や映像制作、イベント企画運営に携わり、2022年MOTO CORSEのオフィシャル・ライディングアドバイザーに就任。
主宰する「STUDIO FLATOUT」では、さまざまなライダーのライディングスキルアップのための各種トレーニングメニューを用意してライディングレッスンやアドバイスを行っている。
お問い合わせ : studio.flatout@gmail.com