新たに投入されるスーパーポールとスーパーポール・レースのためのタイヤ

 ピレリは、量産車をレース用にチューニングしたバイクで争われるスーパーバイク世界選手権(WSBK)に2004年からワンメイクタイヤサプライヤーとしてタイヤを供給し続けている。そんなピレリは、WSBKの2022年シーズンに向けてどのようなタイヤ開発を行ってきたのか。二輪レースタイヤ部門ディレクター、ジョルジョ・バルビエール氏が語った。

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ピレリがWSBKに供給するタイヤ「ディアブロ」。左からスリックタイヤの「スーパーバイク」、ウエットコンディション用の「ウエット」、「レイン」

今季のタイヤについて変更点として挙げられるのが、スーパーポールとスーパーポール・レースのタイヤである。WSBKはスーパーポールと呼ばれる15分の予選があり、このスーパーポールで使用される予選用タイヤが用意されている。ただ、今季はスーパーポールと、10周で争われるスーパーポール・レースで使用されるタイヤが新たに投入されるという。

「FIMから予選タイヤをなくしてほしいと要望がありました。予選タイヤというのは、予選で1周または2周のタイムを出すためだけのタイヤです。スーパーポールがとても面白いショーになったと思いますし、ライダーにとっても効果的だったでしょう。ライダーたちは、例え1周か2周だとしても、とても素晴らしいグリップを得たいと思うものですからね」

「ただ、現在の自然環境的な観点からすると、たった1周だけのためのタイヤというのはとらえ方が難しくなります。また、ヨーロッパに限らず、チャンピオンシップによってはレース距離が短縮されています。つまり、短いレースに特化したタイヤという選択肢も考えられるわけです。わたしたちの目標はタイヤを作ることですが、同時に世界中のショートレースに参戦するライダーたちのために、次のシーズンには市場に投入できるようなタイヤを作ることでもありますからね」

「そこで、私たちはSCQというコンセプトのタイヤを導入することにしました。このタイヤは今季に開発される予定で、通常はスーパーポール、そしてスーパーポール・レースで使用されます。このタイヤは短時間でライダーを速く走らせるために作られたものですので、レース1やレース2(※サーキットにより異なるが、昨年は18周から23周で争われた)のような100kmほどのレースでの使用は禁止されます」

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「私たちの最初の目標は、昨年までスーパーポール・レースで使用されていた(リヤタイヤのスーパーソフト)SCXよりも速いタイヤを作ることです。SCXは2年前に導入されたものですが、昨年はレース1やレース2のような長いレースでもこのタイヤを使うことができるようになったのです。ですから、今季、SCXはほとんどのレースでSC0(ソフト)とSC1(ミディアム)に替わることになります。SC0とSC1は以前、長いレースで使われていたものです。つまり、(今季の)ターゲットとしては、現状のSCXをロングレース用のタイヤとし、SCQをスーパーポールとスーパーポール・レース用のタイヤとすることなのです」

目指すのは全てのライダーのパフォーマンス改善につながるタイヤ

 バルビエール氏はピレリにとってマーケットとつながるタイヤの開発が重要だと語る。前述のバルビエール氏の言葉にあったように、ピレリのWSBKのタイヤ開発の先にはマーケットがあるからだ。だからこそ、一人のライダー、あるメーカーに大きく貢献するようなタイヤではないことはもちろん、特定のサーキットに特化したタイヤ、つまりスペシャルタイヤという考えはない。あらゆるサーキット、気温、コンディション、メーカーに対応するタイヤを作ることを目指している。そして、様々な国、コンディションで開催され、様々なメーカー、多くのライダーが参戦するWSBKのタイヤサプライヤーという役割は、ピレリのそうしたタイヤ開発を可能にするのである。

「ある一つのメーカー、1種類のバイク、電子制御、エンジンだけが速いのではなく、全員がパフォーマンスを改善しなければなりません。ときには、あるバイクにだけ完ぺきに機能して、ほかのバイクにとってそうではないことも起こり得ます。そうなると、私たちはそのソリューションをアロケーションから外します。それは私たちのねらいではないからです。私たちの仕事はマーケットとリンクしています。もし私たちがマーケットに一つのメーカーにとってそれほどでもないタイヤを投入してしまったら、何の意味があるというのでしょうか。ですから、全てのライダーが少しでも改善できるようなタイヤのほうが好ましいのです。マーケットにそういうタイヤを投入できたなら、ユーザー全員がハッピーになれるでしょう」

「私たちは、例えば特定のサーキットに特化したタイヤを作るような道を歩んでいません。つまり、あるサーキット、あるコンディション、あるシーズンに特化したタイヤソリューションは私たちのねらいではないのです」

「様々なコンディションに適していて、走りやすくマネジメントしやすいタイヤを投入する必要があります。もし異なるサーキット、コンディション、天候による問題を克服できれば、それはマーケットにとっていいタイヤになるはずです」

こうしたレーシングタイヤの技術は、もちろん一般公道用のタイヤにもフィードバックされているという。

「レースで使用される予選用のタイヤでは、公道用タイヤに使用されるカーカスやケーシングが同じように使用されています。市場のタイヤとリンクさせるために、これらを維持しているのははっきりしています。私たちはタイヤを製造しなければなりませんが、それはすべてのライダーに向けたものだからです」

そうしたタイヤ開発は、WSBKにおいてどのようにして行われるのだろうか。WSBKではシーズンを通じて、スタンダードレンジのタイヤのほか、各レースウイークに開発タイヤがアロケーションされるのだという。一例を挙げれば、2021年シーズンの第3戦イタリアでは、フロントとリヤに新しい開発タイヤが投入されている。

「WSBKではレースに適したスタンダードレンジを持ち込みます。通常はフロントタイヤにSC1、SC2、リヤにはSC0とSC1で、それからフロントに1種類の開発ソリューション、リヤに1種類の開発ソリューションが加わることもあります。そして、この開発ソリューションについては、週末を通じてテストされることになります」

「これらのタイヤが明らかによければ、金曜日にはすでにテストする人がいるんです。ジョナサン・レイ(ジョニー)はこの点でとても素晴らしいんです。ジョニーは走ってみてポジティブな部分を見出せば、土曜日にはレース1をその開発ソリューションのタイヤで戦うのです。そして、ほかのライダーがそれを見て、『ジョニーが新しいタイヤで速かったぞ、よし、それを使おう』ということがよくあるんですよ」

「WSBKのいいところは、レースウイークで3度のレース(レース1、スーパーポール・レース、レース2)が開催されることですね。今季からは21本になりますが、昨年は各レースで一人のライダーにつき24本のタイヤを使うことができました。ライダーたちはその本数の中で望むタイヤを使用します(※各コンパウンドに使用可能上限の本数はある)。タイヤについて使用を強いられることはありませんし、もし土曜日に一つのソリューションに満足できなくても、日曜の朝や、日曜日の午後には変えることができるわけです」

「私たちにとっても、多くの結果を得ることができますし、レースウイーク後にはたくさんのコメントを得ることができます。持ち込んだ新しいタイヤがいいのかがはっきりするのです。あるソリューションがあるサーキットでよく機能すれば、ほかのサーキット、コンディション、気温などでどうなるのかが知りたいわけです。そして、このソリューションを次のレース、また次のレース、といった具合に持ち込んでいきます。それがスタンダードタイヤよりも優れていると確信しているからです」

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WSBKライダーは、昨年はライダーにつき24本(2022年は21本)のタイヤを使用可能。WSS、WSS300のタイヤを加えると、大量のタイヤがサーキットに持ち込まれる

変わるWSS、ピレリはどう対応する?

 そして、今季の話としてスーパースポーツ世界選手権(WSS)の技術規則の変更と、その影響も気になるところだ。WSBKに併催されるWSSは、昨年までは基本的に4気筒600cc、3気筒675cc、2気筒750ccエンジンを搭載する量産車をベースとしたバイクで争われ、具体的に昨年はカワサキ ニンジャZX-6RやヤマハYZF-R6、MVアグスタF3 675などが参戦していた。いわゆる600ccバイクのカテゴリーだったのだ。

しかし、市場の変化を受け、今季、技術規則が変更されることが発表されている。ドカティ パニガーレV2、MVアグスタF3 RR、トライアンフ ストリートトリプルRSなどがエントリーに加わる予定だ。これについてのバルビエール氏の回答は興味深いものであると同時に、ピレリのタイヤ開発の方針について再確認する形となった。

「タイヤとしては、私たちは今シーズン中は何も変更しないことに決めました。というのも、新しいメーカー、以前から参戦するメーカーといった一つのメーカーのニーズをフォローすることはしたくないからです。今WSSで使用されているタイヤはリムやパフォーマンスは、スタンダードな600ccバイクに合ったものです。これは基準となりますし、今季、全員にとって基準とならねばなりません。タイヤが問題ないことはすでにわかっています。つまり、タイヤの開発について、全マニュファクチャラーが同じレベルのタイヤを持っているということです。そしてシーズン終了後、バイクについてルールが整えば、私たちは再び開発をスタートするでしょう」

「ただ、1年間開発を止めることは私たちのやり方ではありませんから、(ピレリがタイヤを供給する)国内選手権でタイヤの開発をしていきます。ですから、私たちはいったんWSSから離れてタイヤの開発を続け、WSSにそのタイヤを持ち込むことになるのです」

あくまでもピレリが貫くのは、「全てのライダーが様々なコンディション下でパフォーマンスを発揮できるタイヤ」を開発する姿勢。それは、全てのライダー、ユーザーのタイヤに通じている。




<バルビエール氏プロフィール>
ジョルジョ・バルビエール氏/二輪レースタイヤ部門ディレクター 1983年にピレリに入社。F1のタイヤエンジニアを経て、二輪レース用17インチスリックタイヤの開発にテクニカルマネージャーとして携わる。その後、四輪車用タイヤのマーケティング・プロダクト・マネージャーや二輪車のR&Dレーシング・マネージャーの職を担い、2009年よりモトクロスやエンデューロ、ロードレースにかかわるピレリのレーシング部門を統括するモト・レーシング・ディレクターを務めている。

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Giorgio Barbier