日々進化しているバイクのタイヤだけに、革新的な新技術がテンコ盛り! ……と思いきや、じつは地道な積み重ねで作られているのです

タイヤのカタログやメーカーのホームページを見ると「シリカ」「デュアルコンパウンド」など、さまざまなテクノロジーの名称が踊っています。どんどん新技術が盛り込まれていると思うけれど、現代の最新タイヤならではの特徴ってあるんですか?

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これまでタイヤの中身や作り方を教えて貰って、チューブやチューブレス、バイアスやラジアルなど、タイヤの種類や進化を知ることができました。タイヤって本当に奥が深いし、面白い。消耗品、ゴムの塊って印象はもうなくなったかな。

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いや~、そんなにタイヤに興味を持ってもらえるとうれしいよ! バイクと路面を繋ぐ唯一のアイテム、さらにこれだけ種類がある理由も分かってもらえたみたいだね。

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でもまだまだ知りたい。さっそく質問なんですけど、現代の最新タイヤの特徴ってあるんですか? タイヤメーカーのホームページを見ると、いろいろな素材の名前とか「○○テクノロジーを投入」みたいな文言がたくさん書かれていますよね。

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おっ、鋭い質問だね! 現代タイヤで必須の最新素材や技術というと……う~ん、なんだろう?

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あれれっ!? いっぱいあるじゃないですか? 「シリカ」とか「デュアルコンパウンド」とか、書いてありますよね。ほかにもタイヤの表面に刻んだ溝のカタチとかも、新しくなっていますよね?

シリカのイメージ画像
シリカはタイヤの転がり抵抗を減らすために1990年代に初めて導入された。冷えた路面やウエット路面などあらゆる条件下で安定したグリップ性能を発揮する。
デュアルコンパウンドのイメージ画像
オンロードスポーツタイヤのDIABLO ROSSO™ Ⅳ。フロントタイヤ(全サイズ)および190/50 ZR 17までのリヤタイヤは2種類の異なるゴムのデュアルコンパウンドを採用し、それ以上のサイズのリヤタイヤは3種類のゴムを用いた5分割のトライコンパウンドを採用。高いグリップ力や乗り心地と耐摩耗性を高い次元で両立する。



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もちろん、日々研究しているからタイヤはどんどん進化している。たとえば冷えた路面でもしっかりグリップする「シリカ」も、ほかの素材との分子結合の仕方とか、どれだけの量を配合するとか、そういった細かい部分での進化は数多くあるよ。 ……だけど、バイク用タイヤとして凄い革新的な新素材とか構造って、じつはこの近年にはないんだ。シリカの配合自体は1990年代から始まっているし、ピレリならではのスチールベルト構造だって1980年代から手掛けているから、最新技術とは言いにくいかもね。

0度スチールベルトの写真
カーカスの上にタイヤの進行方向に対して0度で巻かれる「スチールベルト」。現代のバイク用ラジアルタイヤではメジャーな技術だが、ピレリは1980年代から手掛け、進化させ続けている。



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ええっ、そうなんですか!?

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現代タイヤのカタログには「○○テクノロジー」とかたくさん出てくるけれど、じつは既存の技術や素材に対する細かな仕様変更や製造技術の進化に「新しい名前」を付けている場合が多いんだ。だから本質的に大きく変わっているわけじゃないよね。

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う~ん、そう聞くとガッカリというか……、納得というか……。

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いやいや、待って! ちょっとボクの説明が悪かったかもしれないけど、現代タイヤならではの特徴はちゃんとあるんだよ! 例えばピレリは『電子制御との親和性』を重視して現代のタイヤを開発しているんだ。

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確かに近年のバイクはさまざまな電子制御がたくさん付いてますね。でもそれがどうタイヤと結びつくんだろう?

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「○○配合」とか「○○テクノロジー」みたいにキャッチーじゃないからイメージしにくいだろうし、とくにカタログで謳ってもいないから分かりにくいかもしれない。でも、これは大切なことなんだ。ちょっと思い出して欲しいんだけど、タイヤってどうやって進化してきたんだっけ?

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たしかスポークホイール用のチューブタイヤから、キャストホイールに合わせてチューブレスタイヤが登場した。そして最初はみんなバイアスタイヤだったのが、バイクのスピードアップやコーナリング性能の向上に対応するためにラジアルタイヤが開発されたんですよね。

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素晴らしい、その通り!  ようするに、バイクの進化に合わせて必要な構造や技術を投入したタイヤが生まれたんだ。 ということは、現代のタイヤは現代のバイクに合わせる必要があるよね? それでは現代バイクの特徴って何だろう?

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あっ、「電子制御」ですね!

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ご名答! ここ近年のスポーツバイクの進化を見ると、じつは最高出力や最高速度はそれほど上がっていない。ということは、バイアスからラジアルに変わったような大きなタイヤ構造の変化は必要ない。
その代わり、とくに大排気量のスポーツモデルは、あり余るパワーやトルクをきちんと使えるように、さまざまな電子制御が装備されるようになってきた。たとえばタイヤの空転を抑制するトラクションコントロールもそうだし、ABS(アンチロックブレーキシステム)も単にブレーキ時のタイヤのロックを防ぐだけじゃなくて、コーナリング中も最適な前後ブレーキの配分や制動力を調整してくれるコーナリングABSやレースABSに進化した。ほかにもクイックシフターとか電子制御サスペンションとか、挙げたらキリがない。

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スーパースポーツやアドベンチャーは電子制御フル装備。さらに最近では身近なバイクにも電子制御が搭載され始めていますね。

ドゥカティ・パニガーレV4のイメージ写真
ドゥカティのパニガーレV4S(2025年モデル)。シャシーやエクステリアもすべて刷新され、電子制御もいっそう充実している。タイヤは市販車としては初となるピレリのDIABLO™ SUPER CORSA ™ V4 SPを履く。フロントブレーキをかけると自動でリヤブレーキがかかり、さらにフロントをリリースしてもリヤの効力を維持するなど、次世代の制御を搭載。走りの進化に合わせてタイヤもどんどん進化していくのだ。
最新バイクの電子制御メーター
パニガーレV4Sはストリートおよびサーキット走行に適した5種類のライディングモードをはじめ、介入度合いを選択できるトラクションコントロールやスライドコントロール、ウイリーコントロールやエンジンブレーキコントロール、コーナリング中も的確なブレーキングを可能にするレースeABSなど多彩な電子制御を装備する。



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こういった電子制御は、さまざまなセンサーを用いたり各種の情報を元に車体の状況を検知して、ライダーのサポートを最適な状態で行うのが目的だよね。そこで重要になるのが、センサーの邪魔をしない「ノイズを出さないタイヤ」なんだ。

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ノイズを出さないタイヤ?? 転がる音がしないとか?

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ゴメンゴメン、ちょっと難しいよね。なんて言えば良いのかなぁ。タイヤってバイクと路面が接している唯一のパーツだから、そこから得られる情報はたくさんあるのだけれど、そのタイヤからの情報が不正確だったら電子制御が正確に働かず、100%の性能を発揮できないかもしれないよね。

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それじゃ、電子制御との親和性が低いタイヤだと、きちんと制御できないから危険なんですか?

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いやいや、そんなことはない。最新バイクの電子制御はとても有能だから、たとえばタイヤがマッチしていなくて情報にノイズ(雑味)が多かったとしても、セーフティマージンを作るために、パワーやトルクとかエンジンのレスポンスを95%とか90%に下げてバランスさせるような補正が働いていたり、制御を早めに介入している可能性があるんだ。 それってとても高い領域の話だから、ライダーは体感できないかもしれないし、安全性を確保する上で必要なことだけれど、そのバイクが持つ100%の性能を発揮できないのは、良いことではないよね。

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たしかに、なんとなく損した気分になりますよね。でも、きっと私は気づかないかもな~。

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そこなんだよね。電子制御との親和性ってレースとか究極的な状況はともかく、一般的なメリットとして説明しにくいんだ。しかも「シリカを配合したら冷間時のグリップが増加」みたいに、何かを入れたら親和性が向上してノイズが減るというものではないからね。

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実際はどうやっているんですか?

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これはもうひたすら積み上げと実験、データの突合せを繰り返していくしかないんだ。はっきり言って地味な作業だよね。そういう地味さにおいては、多分ピレリが世界一なんじゃないかな(笑)!

ピレリのテストコース
ピレリはさまざまなテストコースを持つ。画像は瞬時にウエット路面も作れるイタリアのヴィッツォーラのコース。



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地味ってどうゆうことですか?

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たとえばカーカスの繊維の太さをいろいろ試したりとか、スチールベルトのコーティングの仕方を少し変えて見たりとか。特別なことではなくて、既存の技術のなかで少しずつ仕様を変えて試すような感じかな。 たとえばとても美味しいラーメンがあるとするでしょ。その秘密は○○港の○○さんから仕入れたモノじゃなきゃダメで、それを見つけるのに何年かかりました、……みたいな感じかな。そこにトリュフを入れるみたいな特別なことをしているわけではない。

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たしかに地味で大変そう……。

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でもね、その地味さ以外にも、ピレリならではの電子制御との親和性を高めるタイヤ作りができる理由がある。それはピレリがオープンイノベーションの会社というトコロだね。

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オープンイノベーション?

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じつはヨーロッパの大きなメーカーは「技術を一切見せません」っていう完全にクローズドな会社が多いんだ。ところがピレリは開発をオープンにして外部と連携してやっていく社風がある。大学や電子機器メーカー、たとえばボッシュさんみたいな最新鋭の電子制御を作っているメーカーとデータを共有して共同開発していくんだよ。

製品開発テストの様子
ピレリの開発チームが最新の電子制御技術を搭載したテスト車両で走行データを収集。最先端の電子機器メーカーと協力し、性能を徹底検証している。



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それは、凄いですね!

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ピレリは実験部門が強いから、電子制御装備のバイクにタイヤを装着して、どんな挙動や影響が出るとかデータをやり取りする。たとえばABSが作動するときはこういう挙動を重視したほうが良いとか、ここにリスクが潜んでいる、みたいな部分も見えてくるんだ。

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なるほど~。

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性能を発揮するのって、安全性が確保されているのが大前提でしょ。これはレーシングマシンでも一般ユーザーのバイクでも同じで、とにかく安全性第一でタイヤを作っているからね。

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よく分かりました。 ……ってことは、電子制御を装備していない旧いバイクの場合は、最新タイヤじゃない方がマッチするんですか?

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いや、そんなことはないよ、安全性は新型タイヤのほうが確実に向上しているから。たとえば「使える距離」もグンと伸びているよ。これはタイヤが減らないって意味ではなくて、溝が減ってきても性能の落ち幅が少ないってこと。 だから同じカテゴリーでサイズが合うタイヤがあるなら、少し旧いバイクでも新型タイヤのほうがオススメ。運動性含めて確実にアップデートしているからね。

ドゥカティ・モンスター初期型のイメージ画像
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10年ほど前のバイクに最新タイヤを履くと、バイクが劇的に良くなる。そのくらいタイヤのフィーリングは日々進化しているのだ。中古のバイクを購入し、製造年月日が古いタイヤが装着されている場合は、まず最新タイヤを投入すると楽しさが増すはず。



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そうなんですね。

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その部分で言えば、「カテゴリーの細分化」こそ現代タイヤの特徴かもしれないね。

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細分化?

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たとえばロードスポーツ用タイヤだと、昔は「ハイグリップ」と「ツーリング」の二択くらいしかなかったけれど、現代は公道走行可能なハイグリップタイヤから、スーパースポーツ用やスポーツ用、さらにスポーツツーリングと、同じバイクに装着できるタイヤが豊富に揃っている。 これもさまざまな技術の組合せや実験の積み上げによって得たデータやノウハウがあるから、さまざまなシチュエーション、さまざまなライダーの使い方にマッチするというわけ。

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現代のバイクや現代のタイヤには、そんな多様性が求められているんですね~。でもだからこそどのタイヤを選んでいいか迷ってしまうなぁ。ただ、その時間が楽しかったりするんだけど……

ピレリの人気タイヤのラインナップ
例えばフロント:120/70ZR17、リヤ180/55ZR17でストリート重視で選んでもこれだけのタイヤから選べる。他にもサーキットユースを考慮するとSUPER CORSA シリーズも用意。自分に合ったタイヤ探しの旅は永遠に楽しめる(続く)のかもしれない…