写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里
WSBK第12戦スペインラウンド
10月27日~29日/ヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエト
スーパーバイク世界選手権(WSBK)第12戦スペインラウンドが、10月27日から29日にかけて、スペインのヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトで行われました。2023年シーズンのWSBKは、このスペインラウンドが最終戦。チャンピオンが決まる1戦となりました。
バウティスタがレース1で優勝し、2連覇を達成
前戦ポルトガルラウンドを終え、チャンピオンシップランキングトップのアルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)はランキング2番手のトプラク・ラズガットリオグル(パタ・ヤマハwith・プロメテオン・ワールドSBK)に60ポイントの差をつけていました。バウティスタが圧倒的有利の状況だったのです。
チャンピオンが決まったのは、レース1でした。ポールポジションのバウティスタは、スタート直後にトップに立ちます。レース序盤は、2番手のラズガットリオグルがバウティスタに食らいついていましたが、その差はじわじわと開いていきました。バウティスタはトップでチェッカーを受け、優勝。ラズガットリオグルは2位でゴール。この結果、バウティスタが2023年シーズンのチャンピオンに輝きました。
2022年チャンピオンとして、ゼッケンナンバー“1”をつけて挑んだシーズン。バウティスタは翌日曜日のスーパーポール・レース、レース2でも優勝を飾り、12戦36レース中27勝を挙げ、表彰台獲得は31回。圧倒的強さで2連覇を成し遂げたのです。
バウティスタはレース1のあと、WorldSBK.comのインタビューのなかで、「とてもハッピーだよ。レース後、いろいろなことを考えて、僕たちが成し遂げたことについて実感が湧いてきた。すごくうれしいし、自分のチームやスタッフを誇りに思っているんだ。最高の形でタイトルを防衛したよ」と、チャンピオンを獲得した喜びを語っていました。
「『ポイントが必要なだけだし、落ち着いて』とたくさんの人が言ったけど、僕は『ポイントも結果も、チャンピオンシップのことも考えない』と考えていた。自分のことに集中し、バイクに集中し、走ることを楽しんでいたかったんだ」
「レース序盤からすごくいい感じだったよ。自分のペースを維持できた。もちろん、最終ラップではチャンピオンシップのことが頭をよぎったけどね(笑)。でもそれは普通のことでしょ。今はリラックスしているよ。なにしろ、たくさんの人からのプレッシャーがあったから(笑)」
ホームラウンドであるスペインで獲得したチャンピオンは、バウティスタにとっても格別だったようです。
また、Aruba.it レーシング-ドゥカティがレース2でチームタイトルを獲得し、ドゥカティが2年連続でライダー、マニュファクチャラー、チームの3冠を達成しました。
ラズガットリオグルがヤマハでのラストレースで見せた意地
2023年シーズン、バウティスタの最大のライバルとなったのは、ラズガットリオグルでした。確かに、バウティスタの後塵を拝することが多く、優勝も7度にとどまりました。しかし、圧倒的速さでランキングトップをひた走ってきたバウティスタのタイトル獲得が最終戦までもつれた一因には、ラズガットリオグルの存在があったと見ていいでしょう。
バウティスタと何度も接戦を展開してきたラズガットリオグル。レース2は、今季の2人の戦いを象徴するかのようなレースでした。すでにチャンピオンはバウティスタに決まっていましたが、そのレースにはラズガットリオグルの意地がこもっていたのです。
トップを走っていたジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)が5周目に転倒を喫すると、ラズガットリオグルがレースをリード。レース中盤、トップを走るラズガットリオグルにバウティスタが追い付き、最終ラップまでラズガットリオグルとバウティスタによる激しいトップ争いが展開されました。
ラズガットリオグルをパスしようと仕掛けるバウティスタ。硬い守りでそれを許さず、あるいはかわされてもトップを奪い返すラズガットリオグル。激闘は約10周にわたって続きました。最終ラップの最終コーナー、進入でバウティスタがラズガットリオグルの前に出るも、ラズガットリオグルがインサイドをキープし、先頭で立ち上がりました。1番手でチェッカーを受けたのはラズガットリオグルで、2番手はバウティスタでした。
しかし、レース後、ラズガットリオグルが最終コーナーでトラックリミットを超えていた(コース外のグリーンのエリアに触れた)として1ポジションダウンのペナルティを受けたため、結果としてはバウティスタが優勝、ラズガットリオグルが2位となりました。ただ、ラズガットリオグルが最後までバウティスタと争ったレースと最終コーナーで見せた攻防は、ランキング2位らしく素晴らしいものでした。
パルクフェルメのWorldSBK.comのインタビューで、ラズガットリオグルは「優勝しようと頑張った。ヤマハでのラストレースだったから、いい思い出にしようと思ったんだ」と語りました。ラズガットリオグルは2023年シーズンをもってヤマハを離れ、2024年はBMWのファクトリーチームに移籍するのです。
「(タイヤが)スライディングしたのは感じていたけど、グリーンにタッチしたとは思っていなかったよ。でも、ルールはルールだと分かっている。とにかく、すごく戦っていい仕事をした。今回はいちばん最初にチェッカーを受けた。それで十分だ」
レイ、9年間を戦ったカワサキに別れ
ジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)もまた、今季をもって現チームを離れるライダーのひとりです。レイは2015年からカワサキ・レーシングチーム・ワールドSBKに所属し、2020年まで6年連続でチャンピオンを獲得してきましたが、2024年シーズンはヤマハのファクトリーチームに移籍することが決まっています。
レイはレース2で1周目からトップに立ち、好ペースを刻んで後方を引き離していました。おそらく、カワサキ最後のレースを優勝で終えたい、という気持ちがあったのでしょう。しかし、5周目の2コーナーで転倒。再びレースに加わり17位でカワサキでの最後のレースを終えています。
「正直言って、全体的に不思議な気持ちだ」と、レイはWorldSBK.comのインタビューでコメントしています。
「パフォーマンスや結果からくるものではなくて……」そう言って、レイはしばらく言葉を切りました。
「なんとも言えない気持ちなんだ。僕は素晴らしいチームを離れる。今日は“グリーン”のなかにいる、最後の日だった。もちろん、(レースは)最後まで走り切りたかった。僕のチームはもっといい結果にふさわしかったんだ」
「ある意味で、これは山あり谷ありだった今年の僕たちの状況の象徴だ。素晴らしいときもあれば、厳しい時間もあった。でも、KRTで過ごした時間は、決して暗いものではなかったよ。めまぐるしい旅だった。決して忘れることはないだろう」
2023年シーズンは、ドゥカティとバウティスタによって2連覇が達成されて幕を下ろしました。