写真:iomttraces.com、伊藤英里
テキスト:伊藤英里
2025マン島TTレース
5月26日~6月7日/TTマウンテンコース(1周 約60km)
1907年に始まる、世界最古の二輪レース
2025年のマン島TTレースが、5月26日から6月7日にかけて行われました。メッツラーは、2027年までこの公道レースのオフィシャル・タイヤパートナーを務めています。
マン島TTレースが行われるマン島は、大ブリテン島とアイルランド島の間に位置しており、中心都市のダグラスは、日本最北端の地である宗谷岬(北緯45度31分)よりも北(およそ北緯54度)にあります。このような位置から、マン島TTレースが開催される5月下旬~6月上旬は、22時頃にようやく陽が沈みます。
マン島TTレースは、現在も開催されている中では世界最古の二輪レースで、公道を舞台に争われます。初年度は1907年ですから、その歴史は、今から118年前にまでさかのぼります。また、マン島TTレースはロードレース世界選手権(MotoGP)の初年度、1949年の第1回グランプリでもありました。ちなみに、1949年当時は、マン島TTレースに始まって最終戦のモンツァまで全6戦の開催でした。1976年を最後に、マン島TTレースはロードレース世界選手権のカレンダーから外れています。
現在のマン島TTレースが開催されるTTマウンテンコースは、1911年からのものです。1周は約60kmで、ピットやグランドスタンドのあるスタート、フィニッシュ地点から市街地、マウンテンエリアまで、コースは多岐にわたっています。クラスにもよりますが、ライダーたちはこのコースを1周16分から18分で走ります。周回数は、2025年に関しては2周から4周で行われました。
2025年のマン島TTレースは、天候などによってスケジュールディレイが頻繁に起こりました。マン島特有の変わりやすい気候によって、マン島TTレースにおいてはスケジュールがディレイになることは珍しくはありません。しかし、今年はそんな中でもとりわけスケジュールの変更が多かったのです。
中でも象徴的だったのは、6月7日の最終日に開催される予定だった最高峰クラスのシニアTTレースの中止です。前日の時点で10時45分にスタートと発表されていましたが、当日にディレイが続き、最終的に19時前に中止が発表されたのです。競技長であるギャリー・トンプソンは、ライダーたちからのヒアリングの結果「強風と、その風向きがここまでのTTレースウイークで吹いていたものとは異なるため」と説明しています。
レースが中止になる直前のエピソードとして、インスペクション・ラップという一部のライダーたちがコースを確認するラップを走ったのですが、ピットに戻ってきたディーン・ハリソンやデイビー・トッドといったトップライダーたちがずいぶん長いこと話し込んでいました。おそらく、コンディションなどの情報を共有していたのでしょう。中止は場外放送で発表され、その瞬間、アッセンブリーエリアでは拍手が起こりました。
マン島TTレースウイークの最後を飾る、最高峰クラスであるシニアTTレースが中止になったのは、2012年以来史上2回目のことでした。

そんな2025年マン島TTレースの勝者について、開催順に振り返ってみましょう。
- スーパーバイクTTレース(4周):
デイビー・トッド/BMW・M1000RR
タイム:1時間8分20秒628/平均時速:132.495mph(213.23km/h) - サイドカーTTレース1(2周):
ライアン・クロウ&キャラム・クロウ/ホンダ・LCR
タイム:37分39秒763/平均時速:120.214mph(約193.47km/h) - スーパースポーツTTレース1(3周):
マイケル・ダンロップ/ドゥカティ・パニガーレV2 955cc
タイム:53分15秒950/平均時速:127.5mph(約205.19km/h) - スーパーストックTTレース1(2周):
ディーン・ハリソン/ホンダ・CBR1000RR-R Fireblade
タイム:33分37秒235/平均時速:134.667mph(約216.73km/h) - スーパーツインTTレース1(2周):
マイケル・ダンロップ/Paton・S1-R
タイム:37分01秒096/平均時速:122.307mph(約196.83km/h) - スーパースポーツTTレース2(4周):
マイケル・ダンロップ/ドゥカティ・パニガーレV2 955cc
タイム:1時間11分29秒191/平均時速:126.67mph(約203.86km/h) - スーパーストックTTレース2(3周):
ディーン・ハリソン/ホンダ・CBR1000RR-R Fireblade
タイム:51分24秒933/平均時速:132.088 mph(約212.58km/h) - サイドカーTTレース2(2周):
ライアン・クロウ&キャラム・クロウ/ホンダ・LCR
タイム:37分42秒692/平均時速:120.059mph(約193.22km/h) - スーパーツインTTレース2(3周):
マイケル・ダンロップ/Paton・S1-R
タイム:56分04秒007/平均時速:121.131mph(約194.94km/h)
※総合ラップ・レコード:ピーター・ヒックマン:136.358mph(約219.45km/h)
マイケル・ダンロップがドゥカティで優勝。大排気量クラスはホンダとBMWが勝利を分け合う
2025年マン島TTレースでは、マイケル・ダンロップがスーパースポーツTTレース1で優勝を果たして30勝目に到達し、歴代最多優勝記録を更新しました。
ダンロップが30勝目を挙げたのは、ドゥカティのパニガーレV2(955㏄)によるものでした。中排気量クラスを得意としてきたダンロップですが、今季からこのクラスのマシンをヤマハからドゥカティに乗り換え、そして優勝を飾ったのです。ドゥカティにとっては、1995年以来のとなるマン島TTレースにおける優勝でした。
なお、スーパースポーツTTレースは、4ストローク4気筒400㏄から600㏄、4ストローク3気筒600㏄から675㏄、4ストローク2気筒600㏄から750ccのマシンによって争われる、いわゆる中排気量クラスです。ただし、これ以外に、FIMの「スーパースポーツ・ネクストジェネレーション」フェーズ2ホモロゲーションリストに記載のマシンがエントリーできるようになっています。
伝説的なマン島TTライダー、ジョイ・ダンロップの甥であるダンロップは、今年のマン島TTレースで33勝にまでその記録を伸ばしました。
このように、マン島TTレースの場合、特にトップライダーが複数のクラスに同時エントリーすることは珍しいことではありません。参戦するクラスが多ければ、1周60kmのコースを走る回数が増え、経験が蓄積されるメリットがあります。現代においては、このような複数クラスエントリーも、マン島TTレースの特徴のひとつでしょう。
また、大排気量クラスであるスーパーバイクTTレースでは、ホンダ・CBR1000RR-R FirebladeとBMW・M1000RRの一騎打ちとなりました。スーパーバイクTTレース1はBMWのデイビー・トッド、スーパーストックTTレース1とレース2はホンダのディーン・ハリソンが優勝し、勝利を分け合った形でした。









トラブル発生も……山中正之は2レース完走
日本人としてただ1人参戦する山中正之は、カワサキ・ER-6fで、スーパーツインTTレースに参戦しました。山中にとって、マン島TTレースとしては7回目の挑戦で、山中は伝説的なTTライダー、イアン・ロッカーのチームから参戦しています。
しかし、予選1の途中でミッションが入らなくなるトラブルが発生し、ミッションを乗せ換えることになります。カワサキ・ER-6fによる参戦は5回目でしたが、ミッションを交換したことで、これまで蓄積してきたイメージが全く使えなくなったのです。
マシントラブルに加えて天候によるスケジュールディレイ、変更が続いたことで、当初の予定ではレースを迎えるまでにコースを10周ほど走れていたはずが、6周ほどしかできていない状況でした。ただ、こうした状況で迎えたレース1を終えて、山中はこう語っていました。
「今回はバイクにビデオをつけていたので、その動画を見てイメージトレーニングをして、新しいギアについてはだいたいイメージができました。とはいえ、250くらいコーナーがあるので、全部覚えるのは難しいんですけどね(笑)」
山中は、レース1(2周)をタイム41分20秒867、平均時速109.5mph(約176.22km/h)、31位で終え、レース2(3周)をタイム1時間2分24秒672、平均時速108.817mph(約175.12km/h)、25位で終え、レース1で自己ベストラップ(平均時速)を更新しています。
レース前、ターゲットとして、山中はタイムや順位ではなく、それ以上に「今までの自分を超えること。タイムやライディングも含めて、これまでの自分を超えるパフォーマンスを発揮できるように、ということを目標に毎回考えています」と語っていました。
「自分の持っている力を出すことはできたと思っています。自分の全力を尽くせたから、多少は成長していると思いたいですね」
そして、40分から1時間もの長い間、わずかなミスさえも許されない2回のレースを終えたときの心境を、こう語っていました。
「ゴールライン通過したときは、ほっとしますね。『よかった……』という安堵を感じます。それから、手伝ってくれた人たちみんなに喜んでもらえてよかったという気持ちです。普通のレースとは……、違うかもしれないですね」

2025年のマン島TTレースは、このようにして幕を閉じたのでした。