過酷なマディコンディションの中で繰り広げられた開幕戦
寒の戻りで雪がちらつく中、全日本エンデューロ選手権(JEC)開幕戦が広島県テージャスランチで開催されました。昨年は梅雨時期の酷い雨により前代未聞のマディコンディションで完走率55%と厳しいレースに。今年こそドライコンディションが望まれていましたが、その思いも虚しく前日から時間雨量3mmほどの強い雨が降り続きました。
午前にエンジョイクラスとNBクラス、午後にIA・IB・NAクラスを走らせることで、レベルに応じたルート設定と周遅れが発生しにくいタイムスケジュールが組まれました。総エントリー数は昨年から59台増の170台を記録し、パドックは大いに賑わいました。
3年連続王者・馬場亮太の安定感と若手の台頭

昨年のIAクラスはモトクロスの元トップライダーが名を連ねていましたが、今年は釘村忠が運営に専念し、渡辺学がフル参戦を見送ったことで、馬場亮太と田中教世の2名にトップ争いが絞られると思われました。
問題となったのはやはり当日の広島のコンディションでした。重くまとわりつく粘土質の赤土は、午前中に走行したクラスにより既に耕され、そこへタイミング悪く雨が上がってしまったことでコンディションは最悪の状態に。
泥の付着による重量増加を避けるため下見ラップを省き、1周目からタイムアタックに集中するIAクラス。馬場亮太は今大会最速ラップをマークして早速、 後続を引き離しました。しかし馬場を含む多くのIAライダーは、今回のオンタイムがかなり厳しい設定であることに気づいていませんでした。
「タイムや順位を確認する暇はなかったし、毎周戻ってこられないかもって思うほどでした」と馬場は振り返ります。「序盤で思い切りドハマリして、まわりのライダーも時間がないので助けてくれない。みんなに『あ、亮太終わったな』って思われていたはず」と苦笑いしながら、その周はルートもテスト並みにプッシュしてなんとかオンタイムに間に合わせたと語りました。
3周目には、テスト内でどうにも越えられない渋滞が発生。ここを保坂修一がクリーンにクリアしてスーパーラップをたたき出し、一躍トップへ浮上しましたが、途中でガソリン不足に気づき、補給のために遅着1分を余儀なくされました。さらに、このスーパーラップの周は渋滞のため無効判断となり、トップだったはずの保坂は順位を後退させてしまいました。厳しいコンディションの中、IAクラスは全27台中17台が完走。しかし、オンタイムを維持できたのはわずか8台のみという難しいレースの中、馬場は見事に安定感の光る走りでトップフィニッシュ。幸先のいいシーズンスタートを切りました。
経験と実力で安定した走りを見せた太田幸仁

今大会IAクラス4位に入った太田幸仁選手は、毎年マディコンディションとなる広島に対して冷静な対応を見せました。「例年通り広島はウエット。昨年もひどかったけど、今年はさらにひどくなってしまった」と話す太田選手ですが、その経験から「雨が降ったらこうなるだろう」という予想を立てて臨んでいました。
「難所があったわけではないけど、みんなが引っかかるところが多くて、それを抜けられない場合は渋滞になる」。太田選手は幸いにも渋滞に巻き込まれるタイミングを回避できたとのこと。
太田選手は強直性脊椎炎という持病を抱えながらの戦いでもあり、レース序盤は体がうまく動かず「序盤は体の動き出しが悪いんです。でも悪いコンディションのおかげで、他のライダーとのギャップもさほどなかったのかな。みんなも苦戦していたのかもしれない」と振り返ります。中盤から終盤にかけては「自分なりに攻めて、悪くないタイムで安定して走れた。最後まで崩れることなく自分のベストラップを出していこうと思っていた」と安定した走りを見せました。
マディに挑むタイヤ選択とフィーリング - 馬場亮太コメント
使用タイヤ
- 前:シックスデイズエクストリーム 90/90-21 M/C 54M M+S
- 後:シックスデイズエクストリーム 140/80-18 M/C 70M M+S MEDIUM

「今年からメッツラーに変わって、正直なところ今のところはあまり悪いところが見つかりません。今回使用したのはシックスデイズエクストリームで、フロントは無印のスタンダードモデル、リヤはミディアムコンパウンドにしました」
メッツラーはFIMエンデューロタイヤに数種類のコンパウンドを用意しているため、レース前にどれをチョイスするのか悩んだとのこと。
「昨年の広島は雨でかなりやられたことと、タイヤブランドが変わってからそれほどテストを重ねられていなかったこともあり、かなり慎重に選びました。静岡のコースオーランドで太田幸仁選手と会った時に相談して、リヤタイヤをソフトかミディアムのどちらにするか迷っていたんですが、今日はミディアムを選びました。結果的にそれが正解でしたね。ソフトだとコンパウンドが柔らかくてタイヤが粘ってくれるメリットがあります。ただ、ガレ場では良いのですが、特にアクセルを開ける選手だとブロックが負けてしまう傾向があるんです。NAクラスレベルやガレ場が多いコースならソフトが抜群に良いようですが、IB以上のレベルではミディアムのほうが良いと太田選手からアドバイスをもらっていました。
不思議なのは、メッツラーって硬いタイヤとして知られているんですけど、乗り出すとその硬さはあまり感じないんです。ちょっと熱が入るとすぐに柔らかくなる感じがします。ISDE(インターナショナルシックスデイズエンデューロ)の名前を冠しているとおり、タイヤ交換もめちゃくちゃ柔らかくてやりやすい(編注:ISDEでは毎日レース後に定められた時間内であればタイヤ交換ができる)。組む前は硬いのに、作業を始めると不思議とスッと入ってくる。でも組んだ後はしっかりしている。タイヤ交換のためにそういう設計になっているのかもしれません」
今回の広島のマディコンディションでも、メッツラーのタイヤは良いパフォーマンスを発揮したといいます。
「1周目からフロントタイヤの接地感が良かったですね。前は最初の周がガレ場とかですごく硬く感じていたのが、今年は弾かれるフィーリングもなく走れました。レースが終わってみても、タイヤのタレが少なく、ブロックも生きていました。今年は意識してエンジンを高回転まで回したのですが、それでもタイヤの減りは少なかった。そこはかなり大きなメリットですね。ムースももっちりしていて、潰れず粘ってくれる感じ。エンデューロのあらゆるシチュエーション、ガレ場も木の根っこも対応できるオールラウンダーです。反発するというよりは、ちゃんと衝撃をいなしてくれる感じですね」
今シーズン、メッツラータイヤを装着した馬場亮太選手の4連覇への挑戦は、順調なスタートを切りました。
太田幸仁が語るタイヤ選択の極意
- 前:シックスデイズエクストリーム 90/90-21 M/C 54M M+S
- 後:シックスデイズエクストリーム 140/80-18 M/C 70M M+S MEDIUM
使用タイヤ

「広島に関しては基本的に雨だろうが晴れだろうが、タイヤを変えるつもりはなかった」と言う太田選手。シックスデイズエクストリームのミディアムを選択したのは、土壌の特性を考慮してのことでした。 「掘れていくし、石のゾーンもある。石がずっと続くならソフトも考えますが、土でしっかり食ってくれるようにミディアムを選択しています」というのがその理由。また、「NA、IBクラスくらいのレベルまでならソフトのほうがいいかもしれない」と話す一方で、「タイヤを潰して走れる技量を持っていればミディアムの方が刺さる。ブロックがしっかりしているのでミディアムを選んだほうがいい」とのこと。
「タイヤを潰せるかどうかは、ステップに乗ってしっかりと路面に体重を押し付けられるかが重要なポイント。シートで足をバタバタしている人は体重をかけられずにタイヤを潰せない」ため、ソフトタイヤが適しているというわけです。
また、メッツラータイヤのコンパウンド選択には環境要因も大きいと太田選手。「日本ではめちゃくちゃ熱くなる路面はそうない。例えばISDEチリで体験したことがあるんですが、40度を超えるような暑さになれば、スタンダード(一番硬いタイプ)でも日本でミディアムを使っているくらいの感覚で走れる。真冬ならソフトのほうが良かったりする」と語りました。