写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里

WSBK第4戦
6月14日~16日/ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ

スーパーバイク世界選手権(WSBK)第4戦エミリア・ロマーニャラウンドが、6月14日から16日にかけて、イタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで行われました。

ラズガットリオグル、有言実行の3勝

トプラク・ラズガットリオグル(ROKiT BMWモトラッド・ワールドSBKチーム)のエミリア・ロマーニャラウンドの3レースにおける優勝は、「狙って」達成されたものでした。金曜日の走行を終えた時点で、ラズガットリオグルはこう語っていたからです。

「僕の今週末のターゲットは、3勝することだ」

今季、BMWに移籍したラズガットリオグルは、第2戦カタルーニャラウンド レース1の優勝を皮切りに、第3戦オランダラウンドでも優勝を飾って、オランダラウンド終了時点で合計3勝を挙げていました。BMW・M1000RRへの適応やチームとの仕事が順調に進んでいることが窺えます。

とはいえ、エミリア・ロマーニャラウンドの舞台となるのは、イタリアのミサノ・サーキット。母国ラウンドであり、イタリアのファンからの熱い視線を受けるドゥカティ勢、イタリア勢が手ごわいライバルになることは分かっていたはずです。それでも、ラズガットリオグルは、「3勝」を目標に掲げたのです。それは、ラズガットリオグルの自信の表れにも見えました。

そして実際に、ラズガットリオグルはレース1、スーパーポール・レース、レース2のすべてで優勝を飾るのです。どのレースも序盤は先行するライダーがいましたが、レース前半でそのライダーをとらえ、そこから差を広げていくという、ラズガットリオグルの現在の強さと速さを見せつけたレースとなりました。

日曜日のレース後、ラズガットリオグルは囲み取材でこう語っています。

「レース2のペースは昨日よりも速かった。僕はレース2でまた(レース1と同様にフロントに)SC2(ハードタイヤ)を使ったんだけど、今日はバイクを改善して、特に昨日よりフロントのフィーリングがよくなったんだ。リヤがフロントをあまりプッシュしなくなった。ライディングが楽になって、さらに楽しく走れたよ」

また、ラズガットリオグルは「チームはとても頑張ってくれた」とも言いました。今季移籍したROKiT BMWモトラッド・ワールドSBKチームへの信頼が、すでにラズガットリオグルのなかにあるようでした。

「昨日(レース1)、ボクたちは勝った。でも、そこで止まらなかったんだ。みんな、夜も頑張ってくれて、今朝までにバイクが改善されていた。すごく満足しているよ。まだ最終コーナーまでのいくつかのコーナーで問題がある。チャタリングがかなりひどいんだ。でも、ボクはレースをしながら、どうしたらバイクがうまく機能するのか、その方法を見つけようとしている」

「(エミリア・ロマーニャラウンドは)どのライダーにとっても大変なレースだった。全体的にとてもハッピーだよ。3勝できた。BMWで3勝するのが、ボクの目標だったんだ」

これが、BMWにとってWSBKで初めて達成したトリプル・ウインとなりました。ラズガットリオグルは、エミリア・ロマーニャラウンドの結果により、チャンピオンシップのランキングトップに浮上しています。エミリア・ロマーニャラウンドで見られた落ち着き払ったラズガットリオグの様子には、貫禄が漂っていました。それは、ラズガットリオグルがここからチームとともにチャンピオンシップを駆け抜けていくだろうと感じさせるものでした。

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レース2で表彰台に立ったラズガットリオグル(中央)、2位のニッコロ・ブレガ(左)、3位のアルバロ・バウティスタ(右)。レース1と同じ顔ぶれが表彰台に並んだ
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ラズガットリオグルはエミリア・ロマーニャの3勝により、チャンピオンシップのランキングトップに立った

苦戦が続くレイ。「バイクのフィーリングに対する自信は低い」

今季、カワサキからヤマハに移籍したジョナサン・レイ(パタ・プロメテオン・ヤマハ)は、苦戦が続いています。2024年シーズンは未勝利、表彰台を獲得できていないばかりか、表彰台に近い位置でゴールすらできていないのです。

エミリア・ロマーニャラウンドについては、土曜日のレース1で激しくクラッシュ。212km/hでの転倒によって、左手首に打撲を負い、日曜日の時点でも「誰かの手を握るだけでも本当に痛かった」と言います。日曜日のスーパーポール・レース、レース2には出走したものの、スーパーポール・レースは8位、レース2は10位という結果に終わりました。

スーパーポール(予選)のポジションが悪く、レース1で転倒を喫したことが、確かに要因ではあるでしょう。ただ、最も大きな苦戦の理由は、レイとチームとの関係性にあるようです。日曜日のレース後、レイは囲み取材に応じました。感情の起伏を全面に出すライダーではありませんが、それでも、漂う雰囲気で、語る言葉で、何かがかみ合っていないのだろうことは察せられました。

「今、ボクのバイクのフィーリングに対する自信はとても低い。だから、ゼロからやり直すだけなんだ。フィードバックをして、あまり感情的になりすぎないようにする。とはいっても、結果としては不十分だよ。(レース2では)優勝したライダーから27秒差もあるんだからね。先は長い。ヤマハのトップ(アンドレア・ロカテッリ)からもかなり差がある」

「もちろん、ボクたちは改善する。改善を期待している。大きな前進が必要だけど、その前にバイクのフィーリング、チームとのフィーリングをよくしなくちゃいけない」

「タイヤがフレッシュなときの速さがないんだ。そのフィーリングが必要だ。チームもボクを助けてくれないみたいだ……。とても苦しんでいる。トライが足りていないわけじゃないよ。彼らはいろいろやってくれてはいる。でも、ボクが本当に求めているものは何なのか、彼らははっきり指摘できない。ボクもいらいらするし、彼らもいらいらする」

レイは、メンタル的にかなり厳しい状況であると明かしました。2015年から2020年にかけてWSBKを6連覇したライダーが、「精神的に、ひどく蝕まれているような感じなんだ」と言うのです。

「ボクは常に、ポジティブであることをよしとしている。逆境に直面しても、ポジティブであろうと努めているんだ。でも、ボクたちは苦しんでいる。ボクはいつもトンネルの先には光があると言っているけど、光を見るのがとても難しいんだ。まあ、スポーツもそうだけど、真実ってそういうものだよね」

「自分を疑わないようにするのも難しい。ヤマハは本当にいい仕事をしてくれてはいるよ。でもね、ボクはチームに要求し続けなくちゃいけない。そして、彼らはボクが言ったことに対応する必要がある。そう感じているんだ」

次戦第5戦はそんなレイの母国ラウンドである、イギリスラウンドです。7月12日から14日に、ドニントンパークで行われます。レイの再起、あるいは、復活の光は見られるのでしょうか。