2022年7月に、後継モデルであるDIABLO ROSSO™ IV CORSAが発売となったことで、再び注目を集めている前モデルのDIABLO ROSSO™ IV。根強い人気を誇るクワトロを、ジャーナリストの田宮徹さんに長期にわたりご使用いただき、徹底実用レポートをご寄稿頂きました!

以下文/写真:田宮徹さん

 ミドルクラス以上のスポーティなバイクをメインターゲットに、公道でのファンライド性能を追求したタイヤとして人気のディアブロ・ロッソシリーズは、2021年夏に第4世代のディアブロ・ロッソⅣ(クワトロ)に刷新。このタイヤを、スズキ・GSX-R1000R(2019年型)に装着して、ストリートやサーキットでライディングしてみました。

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前作のロッソⅢから、プロファイルやパターンなどすべてが見直されているロッソⅣ。これまでと同じく、イナズマのようなグルーブをタイヤの中央付近に配したFLASH™トレッドパターンを採用していますが、ルックスから得られる雰囲気はかなりリニューアルされた印象です。

とくにフロントタイヤは、ミッド~サイドエリアの溝比率がロッソⅢよりも減っていて、よりスポーツ方向にイメチェン。これまで、「ショートツーリングと年数回のサーキット走行なら、ロッソⅢでも十分」と確信しながらも、「スーパースポーツとマッチングさせるには、(スタイリングを考えたときに)溝が多めだよなあ……」という思いもあったので、これはスーパースポーツファンとしてはうれしい仕様変更です。もちろん、溝比率が減ったとはいえロッソ・コルサシリーズなどと比べたら溝は多いので、ウエット性能も高いはず。このあたりは、今後また報告できればと思います。

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DIABLO SUPERCORSA直系のピレリ特許技術である稲妻型のフラッシュパターン。効率的な排水や均一な摩耗のためゴム接地面積を緻密に設計し構成されている。

さて、ロッソⅣをGSX-R1000Rに装着後、まずは簡単に慣らしを終えてワインディングを走行。ちなみに、タイヤ空気圧は車両メーカー指定のフロント2.5kgf/㎠、リヤ2.9kgf/㎠です。その第一印象は、「ちょっとカタさを感じるけど、とてもナチュラルで扱いやすい!」というもの。今回、前作のロッソⅢと同一条件で試すことはできなかったのですが、ロッソⅢもピレリのロードスポーツ系ではややカタい印象があったので、このあたりは継承されているイメージです。

とはいえ、走ったワインディングはかなり路面がきれいなこともありましたが、ゴツゴツして乗り心地が悪いというマイナスのイメージはありません。また、このときは気温が30℃近いコンディションだったこともあり、走りはじめてからかなり早い段階で、十分な接地感が得られました。ライダーに対するインフォメーション量の多さがピレリ製タイヤの大きな特徴だと思っていますが、これはロッソⅣも同様。よりスポーツ走行に特化したタイヤのほうが絶対的なドライグリップ力は高いでしょうが、クワトロはどれくらい路面を掴んでいるのかというフィーリングが得やすいので、安心して走れます。

また安心感ということでは、素直なハンドリングも効果的。仕事柄いろんなバイクに乗りますが、最近のバイクはクセがなく扱いやすいハンドリングの車種が以前と比べて増えたと感じています。現行型のGSX-R1000Rもその中の1台。サーキットなら、パッと乗ってすぐ膝を擦れる……というような性格ですが、このタイヤは車両が持つニュートラルなハンドリングを殺すことがありません。一方で、適度なペースで流すワインディング走行では、コーナーを意識しただけでスッと車体がバンクする感覚。公道なのでトバすわけではありませんが、それでもこういう素直なフィーリングは運転に自信を与えてくれます。

ワインディングでしばらく楽しんだ後、今度はサーキットに持ち込んでみました。最初のコースは、低速コーナーが中心の筑波サーキット・コース1000。仕事で何度も走ったことがあります。この日も、ワインディングで初ライドしたときと同じく気温が30℃近い晴天。好条件ということもあり、空気圧は公道走行時と同じ2.5/2.9のままコースインしてみました。

すると、サーキットのバンク角でも十分なグリップ感。すぐに膝も擦れて、タイムを競うのでなければ、少なくとも初夏から初秋ならまるで問題ない感触です。以前、同じサーキットを別の車両に装着されたロッソⅢで走行したことがあるのですが、そのときと比べてフロントの回頭性に優れている印象。ただし、同じマシンに装着して同条件で比較したわけではないので、これはあくまでもイメージの中での比較です。

しばらく走行した後、ピットインして休憩し、空気圧をフロント0.3、リヤ0.6落として再びコースイン。温間と冷間の誤差を考慮すると、冷間でフロント2.3、リヤ2.4に近い設定だったと思います。しかしこの日は、路面温度も高めで最初からタイヤの状態を感じやすいコンディションだったこともあり、あまり大きな変化は感じられません。公道で最初に感じた「ちょっとカタいかな……」という要素も、影響しているのかもしれません。それでも、さらに前後とも0.3ずつ抜くと、タイヤが潰れる感覚はより明確に。冷間換算でフロントが2.0~2.1、リヤが2.2~2.3くらいです。

とはいえ、走行前にエアを抜き、走行後にまた入れるという手間を考えたら、「夏場なら指定空気圧のまま走っても別にいいんじゃないか……」というのが、正直な感想。もちろんエア圧を落としたほうが接地感は得られたのですが、その差は他のハイグリップタイヤほどではないように感じました。私はトランポ所有者なので、エア圧調整を簡単にでき、なおかつサーキット走行後にそのまま撤収できますが、自走だったら走行前後で二度もエア圧を調整しなければなりません。ずぼらな私は、少なくとも夏場はきっとそのまま走ってしまうでしょう。

ちなみに、フロントタイヤはロッソⅢのシングルコンパウンドからロッソⅣはデュアルコンパウンドに進化。またリヤタイヤは、ロッソⅢはすべてデュアルコンパウンドでしたが、ロッソⅣは高出力の大排気量車に使われることが多い190/55ZR17以上のサイズに5分割3コンパウンドが導入されています。ワインディング走行後は、リヤタイヤの5分割構造がうっすらと判別できる状態でしたが、サーキットでの走行後はセンターとミッドエリアの境界線がむしろ薄くなり、代わりにサイドエリアが他のセクションとは明らかに異なる摩耗となって、存在感を発揮するようになりました。またフロントは、リヤほどではないもののやはりサイドエリアの境界線がはっきりと見える状態です。

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5分割3コンパウンドのリヤタイヤ
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3分割2コンパウンドのフロントタイヤ

筑波サーキット・コース1000を1時間ほど走行した後、今度はツインリンクもてぎのフルコースを30分ほど走行。これにより、とくにリヤタイヤのミッドエリアには大きな負荷がかかった形跡が確認できますが、まだグルーブのエッジが大きく潰れたような状態には至っていません。

サーキット走行でタイヤを使用した場合、個々のペースやマシンの馬力&車重によってもライフに大きな差が生まれますが、とりあえずこの段階では、これまで履いてきた他のタイヤと比べてライフは長いのではないか……という減り方です。スポーツタイヤとしてはグルーブが多いぶん、サーキット走行ではそこに負荷がかかって偏摩耗のような状態になったり、早めにグルーブが潰れてロッソⅣの長所である排水性が低下したり……というのが心配事ですが、少なくとも1時間半のサーキット走行ではそんな心配はいらないようです。

と、ここまでサーキットでの感想も多く触れてきましたが、ロッソⅣはあくまでも“ストリートをスポーティに楽しめる”という部分に焦点を当てたタイヤ。サーキットでも、走行会レベルなら十分に満足できるポテンシャルを持っていますが、やはり公道での乗り味のほうが重要です。そこで次回は、ウインターシーズンのツーリング性能について紹介したいと思います。



<田宮徹さんプロフィール>
二輪関連の雑誌やWEBなどで約25年間も執筆を続けているフリーランスライター。バイクはジャンルを問わずなんでも楽しみ、サーキット走行やモトクロスコースでのファンライドも趣味のひとつ。クルマ+バイクの年間運転距離が5万km超の移動ジャンキーです。