写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里

WSBK第3戦エストリルラウンド
5月20日~22日/ポルトガル エストリル・サーキット

スーパーバイク世界選手権(WSBK)第3戦エストリルラウンドが、ポルトガルのエストリル・サーキットで行われました。

エストリル・サーキットは今季のカレンダーの中でも最もテクニカルでタイヤに厳しいサーキットの一つです。レイアウトは変化に富み、左コーナー4、右コーナー9で、タイヤの左右エッジに対する負荷も異なります。

右コーナーは高速コーナーとなるため、タイヤの右側、特にリヤの右側の温度が高くなります。一方、左コーナーではシケインなどの低速コーナーとなり、タイヤの左側の温度はかなり低くなるのです。

最高速度に達する長いストレートのあとには、ハードブレーキングを必要とする1コーナーが待っています。そして最終コーナーでは深いバンク角のまま高速でのコーナリングとなり、ライダーはフィニッシュライン目がけて一刻も早くスロットルを開けようとします。また、2006年に再舗装された路面は滑りやすく、気温が高くなるとさらにその傾向は高まります。このため、グリップの高いソフトコンパウンドのタイヤを使用する必要があるのです。

ピレリはこのエストリルラウンドに数種類のソフトレンジのタイヤを持ち込みました。フロントにはスタンダードのソフトタイヤSC1に加え、開発タイヤのSC1 A0674を投入。そしてリヤは、スーパーソフトのSCXとソフトのSC0、そしてスーパーポールとスーパーポール・レースのオプションとなるSCQです。

また、スーパースポーツ世界選手権(WSS)にはフロントにスタンダードのSC1、SC2、そしてリヤにはSCX、SC0、SC1が用意されました。

WSBK:バウティスタとレイが優勝を分け合う

土曜日のスーパーポール(予選)では、SCQタイヤによって多くのライダーが自己ベストを更新し、中でもジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)は、昨年レイ自身が記録したオールタイムラップ・レコードを更新してポールポジションを獲得しました。

レース1は気温19度、路面温度32度のドライコンディション。多くのライダーはフロントに開発タイヤのSC1(A0674)、リヤにSCXを選択しました。ポールポジションのレイがフロントにSC1(A0674)、リヤにSC0を選んだのに対し、2番手のトプラク・ラズガットリオグル(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)とアルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)はフロントにスタンダードのSC1、リヤにSCXを選び、フロントロウのライダーの間でもタイヤ選択が分かれました。

序盤はトップに立ったラズガットリオグルとレイがトップ争い、アンドレア・ロカテッリ(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)とバウティスタが3番手争いを展開します。ラズガットリオグルは6周目にマシンの挙動を乱してレイにかわされますが、この二人の激しいトップ争いはしばらく続きました。

ラズガットリオグルとレイが何度もトップを入れ替える接戦を繰り広げる間に、3番手にポジションを上げたバウティスタが二人に迫っていきます。2秒以上あった差は、残り7周には0.5秒を切るまでになりました。

残り6周、レイが1コーナーのブレーキングではらみ、バウティスタがレイをパス。さらにバウティスタは残り2周でトップのラズガットリオグルの背後に迫ります。ラズガットリオグルはトップを堅守していましたが、最終コーナーを立ち上がり、ストレートに入るとバウティスタが駆るドゥカティ パニガーレV4 Rが一気に加速。フィニッシュラインの直前でラズガットリオグルを抜き去り、バウティスタがレース1を制しました。2位はラズガットリオグル、3位はレイが獲得。

野左根航汰(GYTR・GRTヤマハ・ワールドSBKチーム)は14位でフィニッシュしています。

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序盤はロカテッリ(#55)と3番手を争っていたバウティスタ(#19)が終盤に追い上げ。フィニッシュライン直前に優勝を奪った

日曜日に行われたスーパーポール・レースは、ウエットコンディションとなったウォームアップ・セッションのあと、路面が徐々にドライへと変化するコンディションとなります。このレースでは、スリックタイヤを選ぶライダーと、インターミディエイトタイヤを選ぶライダーに分かれました。

フロントロウのレイ、ラズガットリオグル、バウティスタはレース1と同じ組合せのタイヤを選択し、レイが優勝を飾りました。2位はラズガットリオグル、3位はバウティスタでした。野左根は11位でレースを終えています。

午後のレース2は気温18度、路面温度29度のドライコンディションで行われましたが、霧がかかる中でのレースとなりました。このレースでは、レイやアレックス・ロウズ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)などのライダーがリヤタイヤをレース1で選択したSC0からSCXに変更し、これによって全ライダーがSCXを選択。一方、フロントはほとんどのライダーがレース1と同じタイヤを選びました。

序盤はトップのレイ、2番手のラズガットリオグル、3番手のロウズ、4番手のバウティスタがトップ集団としてレースをけん引します。その後、レース中盤の10周目にバウティスタがロウズをかわし、さらに11周目にラズガットリオグルとレイをもパスするとトップに浮上しました。トップに立ったバウティスタと2番手のレイは激しいトップ争いを展開する一方、3番手のラズガットリオグルは二人から遅れ始めます。

トップ争いは最終ラップにまで持ち越されました。6コーナーのブレーキングでレイがバウティスタに仕掛けるも、立ち上がりでバウティスタがレイを抑えます。しかしレイは再び9コーナーでバウティスタのインに飛び込み、トップを奪うとそのままチェッカー。レイがエストリルラウンドで2勝を挙げました。2位はバウティスタ、3位はラズガットリオグルでした。野左根は13位でフィニッシュしています。

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レイ(#65)は今季5勝目。2021年王者ラズガットリオグル(#1)は未勝利が続く

WSS:エガーターが5連勝を飾る

レース1は気温19度、路面温度36度のドライコンディション。全ライダーがフロントにSC1、リヤはほとんどのライダーがSCXを選択しました。

序盤はジャン・オンジュ(カワサキ・プチェッティ・レーシング)がトップに立ち、2番手にドミニケ・エガーター(テンケイト・レーシング・ヤマハ)、3番手にグレン・ヴァン・ストラーレン(EABレーシングチーム)が続き、トップ集団を形成します。

8周目、エガーターがトップ、ストラーレンが2番手に浮上しましたが、9周目の9コーナーでストラーレンが転倒。再スタートを切ったものの、大きく後退しました。トップのエガーターは独走態勢を築き、そのままフィニッシュして優勝を飾りました。2位は11周目にポジションを上げたロレンソ・バルダッサーリ(エヴァンブロス.ワールドSSPヤマハチーム)、3位は最終ラップ1コーナーのブレーキングでオンジュをかわしたニコロ・ブレガ(Aruba.itレーシング・ワールドSSPチーム)が獲得しました。

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中盤以降はトップを独走したエガーター(#77)。ダブルエントリーする電動バイクレースFIMエネルMotoEワールドカップでも好レースを見せている

レース2は全ライダーがスリックタイヤを選択し、フロントはSC1を使用する一方、リヤタイヤはスーパーソフトのSCXとソフトのSC0で選択が分かれました。

レースは気温18度、路面温度24度のドライコンディションで始まりましたが、スタートして間もなく雨が落ちてきたことを知らせるレッドクロスのフラッグが振られます。こうしたコンディションの中、オンジュやバルダッサーリがトップを入れ替えつつ周回を重ねました。

しかし、序盤に6番手付近に後退していたエガーターが接戦の中で次第にポジションを回復。残り5周でトップに立つと、優勝を飾りました。エガーターは開幕戦アラゴンラウンドのレース2から5連勝を挙げています。2位は終盤にポジションを上げたカイル・スミス(VFTレーシング)、そして接戦の3位争いはバルダッサーリが制しました。

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しばらく混戦が続いたレース2だが、終盤にトップに立ったエガーターはそこからギャップを広げていった

WSS300:岡谷雄太が今季2度目の表彰台を獲得

土曜日に行われたスーパーポールでは、岡谷雄太(MTMカワサキ)が今季初のポールポジションを獲得しました。レース1をポールポジションからスタートした岡谷は、混戦の中で激しいポジション争いを展開します。

しかし、次第にマルク・ガルシア(ヤマハMSレーシング)とサミュエル・ディ・ソラ(リーダーチーム・フレンボ)が抜け出し、岡谷は一時、後退したものの、単独3番手に再浮上します。優勝争いはフィニッシュラインまでの接戦となり、チェッカー直前に前に出たガルシアが優勝しました。ディ・ソラは0.041秒差で2位。岡谷は3位フィニッシュを果たし、今季2度目の表彰台を獲得しています。

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岡谷が今季初のポールポジションを獲得し、レース1で3位フィニッシュ。表彰台に上がった

レース2の序盤はガルシアがレースをけん引し、岡谷が2番手争いを繰り広げます。4周目には2番手争いから抜け出したイニゴ・イグレシアス(SMWレーシング)がガルシアとトップ争いを展開。さらにトップ争いに2番手を争っていた集団が追いつき大集団となりました。岡谷はその集団の上位につけます。

混戦のトップ争いは続き、最終ラップの1コーナーでビクター・スティーマン(MTMカワサキ)がトップに浮上。しかし、タイヤの空気圧違反によりペナルティを受けて33番手のポジションからスタートしたディ・ソラが大きくポジションを上げて、6コーナーでスティーマンをパス。ディ・ソラが優勝を飾りました。2位はイグレシアス、3位はミルコ・ジェンナイ(チームBrコルセ)が獲得しています。岡谷は終盤に表彰台争いからやや後退し、8位でした。

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11列目スタートとなったディ・ソラ(#46)だったが、大躍進で勝利した

第4戦イタリアラウンドは6月10日から12日にかけて、イタリアのミサノ・ワールド・サーキット-マルコ・シモンチェリで行われます。