写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里

WSBK第2戦オランダラウンド 4月22日~24日/オランダ TTサーキット・アッセン

スーパーバイク世界選手権(WSBK)第2戦オランダラウンドが、オランダのTTサーキット・アッセンで行われました。

TTサーキット・アッセンは1925年から始まった公道レース「ダッチTT」に端を発しています。何度ものコース改修を経て、クローズドサーキットとして、現在では全長4,542m、右コーナー12、左コーナー6のレイアウトとなりました。連綿と続く歴史から「Cathedral of Speed(ロードレースの大聖堂)」とも呼ばれています。

そんなTTサーキット・アッセンはチャンピオンシップの中でも攻略が難しく、また、高速サーキットとしても知られています。一定のスピードで旋回するロングコーナー、ブレーキングと立ち上がりの加速を必要とする低速のU字コーナーに高速シケイン、そしてバイクをバンクさせたまま力強い加速するロングコーナーで構成されており、タイヤにとっては熱によるストレスは少ないものの、精密性と切り返し時の安定性が求められます。

ワンメイク・タイヤサプライヤーであるピレリはオランダラウンドに向け、フロントとリヤに、それぞれ3種類のタイヤを用意しました。フロントタイヤはスタンダードのSC1、そして2種類の開発ソリューションです。開発ソリューションのひとつはA0674と呼ばれるソフトコンパウンドのタイヤで、2021年のヘレスとポルティマオ、そして前戦のアラゴンで使用されました。スタンダードのSC1に比べ、コーナリング中とコーナー進入でのサポート力を向上させ、フロントエンドのフィーリングを高めるために開発された新構造に特徴があります。

もうひとつの開発ソリューション、A0843はこのアッセンで初投入となりました。A0674と同じ構造を持ちながら、新しいトレッドコンパウンドにより、アッセンのようなタイヤに厳しいサーキットにおける摩擦抵抗と耐摩耗性を向上させました。

リヤタイヤについてはソフトのSC0、スーパーソフトのSCXとともに、エクストラソフトのSCQの開発ソリューションA1359が持ち込まれました。SCQ(A1359)はウインターテストでテストされたのち、開幕戦アラゴンで使用され、前年の予選タイムを更新しています。

スーパースポーツ世界選手権(WSS)にはフロントに2種類、リヤに3種類のタイヤが用意されました。フロントは新スタンダードのソフトタイヤSC1、スタンダードミディアムのSC2です。リヤはスーパーソフトのSCX、ソフトのSC0、ミディアムのSC1というラインアップです。

WSBK:レース2でレイとラズガットリオグルがそろって転倒リタイア。バウティスタが優勝を飾る

土曜日のスーパーポール(予選)では、リヤタイヤのエクストラソフトSCQ(A1359)によって、トプラク・ラズガットリオグル(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)が1分32秒934を記録しました。このタイムは以前のポールタイムのレコードを0.571秒更新するものでした。

レース1は気温18度、路面温度29度のドライコンディション。ライダーたちは約半数がフロントタイヤに開発ソリューションのSC1(A0843)をチョイスし、リヤタイヤについてはほとんどのライダーがSCXを選択しました。

好スタートを切ってトップで1コーナーに飛び込んだのはラズガットリオグルでしたが、4周目のメインストレートで2番手に浮上していたジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)がラズガットリオグルをパスし、トップに浮上します。

レイとラズガットリオグルは僅差を保ち、さらにその2人にアルバロ・バウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)が迫ります。残り10周、3人はトップを争う集団となりました。残り6周にはレイとバウティスタにかわされたラズガットリオグルが3番手に後退。最終ラップにはトップを走るレイに2番手のバウティスタが接近しましたが、わずか0.103秒差でレイが優勝を飾りました。2位はバウティスタ、3位はラズガットリオグルが獲得しています。また、野左根航汰(GYTR・GRTヤマハ・ワールドSBKチーム)はレース中にトラックリミット違反によってロングラップ・ペナルティを科され、17位でした。

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開幕戦に続きオランダでも引き続き火花を散らすレイ(#65)、バウティスタ(#19)、ラズガットリオグル(#1)
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レース1で優勝したレイ(中央)、2位のバウティスタ(左)、3位のラズガットリオグル(右)

日曜日のスーパーポール・レースでは、フロントタイヤの選択が分かれた一方、リヤタイヤは全ライダーがSCXを選択しました。レースはグリッド上でバイクにトラブルが発生したライダーによりスタートディレイとなり、周回数は9周で行われました。優勝はレイ、2位はラズガットリオグル、3位はバウティスタが獲得しています。レイはこの優勝によって、カワサキでSBK初の快挙である100勝目を達成しました。

レース2は気温14度、路面温度26度のドライコンディション。多くのライダーがフロントタイヤにSC1(A0843)、リヤタイヤには全ライダーがSCXを選択しました。このレースでもラズガットリオグルが1周目にトップを奪い、2番手にバウティスタが続きます。ポールポジションスタートのレイはスタートで後退しましたが、トップ争いを繰り広げるラズガットリオグルとバウティスタに次第に接近し、4周目にはバウティスタをかわして2番手に浮上しました。しかし6周目、1コーナーでラズガットリオグルがラインを外し、そのインサイドに飛び込んだレイが転倒。ラズガットリオグルとともに2人は転倒リタイアとなりました。

代わってトップに立ったバウティスタは独走態勢を築き、そのまま優勝を飾りました。2位は終盤に2番手に浮上したアンドレア・ロカテッリ(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)、3位はイケル・レクオーナ(チームHRC)で、WSBKで初表彰台を獲得しています。野左根はスーパーポール・レースで14位、レース2では1周目に転倒を喫し、リタイアでレースを終えました。

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スーパーポール・レースで優勝したレイ。カワサキでの100勝目を達成した
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レース2で優勝したバウティスタ(中央)、2位のロカテッリ(左)、3位のレクオーナ(右)

WSS:前年王者のエガーターが2連勝

レース1は気温18度、路面温度30度のドライコンディション。フロントタイヤは全ライダーがSC1を選択し、リヤタイヤは多くのライダーがSCXを選びました。レースは終盤にドミニケ・エガーター(テンケイト・レーシング・ヤマハ)とグレン・ヴァン・ストラーレン(EABレーシングチーム)がトップ争いを展開します。しかし残り5周でエガーターがトップに立ったところで、7コーナーでの転倒により赤旗が提示され、レース成立となりました。優勝はエガーター、2位はストラーレン。3位はニコロ・ブレガ(Aruba.itレーシング・スーパースポーツ・チーム)でした。

レース2は気温15度、路面温度26度のドライコンディション。このレースでもフロントタイヤに全ライダーがSC1を選び、一方、リヤタイヤはほとんどのライダーがSC0を選択しました。レースは中盤にエガーター、ロレンソ・バルダッサーリ(エヴァンブロス.ワールドSSPヤマハチーム)、ジャン・オンジュ(カワサキ・プチェッティ・レーシング)、ブレガが集団となって激しいトップ争いを繰り広げます。しかし、トップに立ったエガーターが後方を引き離し始めると、そのままトップでチェッカーを受け、オランダで2連勝を飾りました。2位はバルダッサーリ、3位はオンジュでした。

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中盤まで繰り広げられていた接戦は、エガーターがトップに立って次第にギャップができていった

WSS300:岡谷雄太がレース2で混戦を制し、3位表彰台を獲得

レース1は1周目からサミュエル・ディ・ソラ(リーダーチーム・フレンボ)とビクター・スティーマン(MTMカワサキ)が後方との差を広げ、トップはその2人によって争われました。一方、3番手争いは集団による混戦となり、5列目13番グリッドスタートの岡谷雄太(MTMカワサキ)もこの中で接戦を繰り広げます。トップ争いも最終ラップまで激しく争われ、スティーマンが0.038秒という僅差で優勝を飾りました。2位となったのはディ・ソラ、3位はミルコ・ジェンナイ(チームBrコルセ)でした。岡谷は最終ラップの終盤にジェンナイにかわされ、惜しくも0.124秒差の4位でした。

レース2はウォームアップ・ラップで転倒が発生し、このアクシデントにより赤旗が提示されてスタートディレイとなりました。その後、当初の予定より15分遅れでスタート。岡谷を含むトップ争いは大集団となり、岡谷もトップに立っては後方のライダーにかわされる、そんな接戦を繰り広げながら周回を重ねていきます。

最終ラップを迎えたとき、岡谷は8番手付近を走行していました。しかし混戦の中で巧みにポジションを上げると、接戦を制して3位でフィニッシュ。今季初の表彰台獲得を果たしました。優勝はユーゴ・デ・コンセリス(プロディーナ・レーシング・ワールドSSP300)、2位はアルバロ・ディアス(アルコ・モーター・ユニバーシティ・チーム)が獲得しています。

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岡谷が今季初表彰台となる3位を獲得した(右)。優勝はコンセリス(中央)、2位はディアス(左)

第3戦エストリルラウンドは5月20日から22日にかけて、ポルトガルのエストリル・サーキットで行われます。