写真:Pirelli
テキスト:伊藤英里
WSBK第9戦ポルトガルラウンド
10月7日~9日/ポルトガル アウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェ
SCXを、予選、スーパーポール・レース用タイヤに位置づけ
第9戦ポルトガルラウンドの舞台となったのは、ポルトガルのアウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェ。魅力的であるとともに、昔ながらのセクションもあれば、アップダウンが続くレイアウトを持ち、ハードブレーキングを必要とするブラインドコーナーもあるなど、ライダー、バイク、タイヤにとって厳しいサーキットです。特に、タイヤには縦横に大きな負荷がかかります。
路面はF1が初開催された2020年に再舗装されましたが、グリップレベルが高いわけではありません。このため、SCXよりもSC0がレースディスタンスでパフォーマンスを発揮していた過去のデータに基づき、ピレリは2021年同様に、SCXを予選のスーパーポール、スーパーポール・レース用タイヤとしました。
フロントタイヤにはスタンダードのソフトタイヤSC1、開発ソリューションのソフトタイヤSC1(B0570)とSC1(A0674)を用意。リヤタイヤには、スタンダードソフトのSC0に加え、スタンダードタイヤとは構造とコンパウンドが異なる開発ソリューションのSC0(B0624)、そして上述のスーパーソフトSCXを投入しています。
スーパースポーツ世界選手権(WSS)には、フロントタイヤにソフトのSC1、ミディアムのSC2、リヤタイヤにソフトのSC0、ミディアムのSC1を用意しました。WSSはすべてスタンダードタイヤです。
スーパーポール:レイがリヤタイヤにSCXでレコード更新
スーパーポールではジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)が1分39秒610を記録し、オールタイムラップ・レコードを更新してポールポジションを獲得。レイはリヤタイヤにSCXを使用していました。2021年、SCXよりも柔らかいコンパウンドのSCQでトプラク・ラズガットリオグル(パタ・ヤマハwith BrixxワールドSBK)が記録したレコードタイムを、レイはSCXで破りました。
WSBKレース1:ラズガットリオグルが今季9勝目を飾る
レース1は気温27度、路面温度43度のドライコンディション。WSS300レース1で発生した転倒アクシデントによりスタートは1時間以上遅れ、周回数は14周に短縮されて行われました。タイヤ選択は、フロントタイヤは17人のライダーがSC1(A0674)、9人のライダーがSC1を選び、リヤタイヤは17人がSC0、9人がSC0(B0624)をチョイス。2列目までのライダーでは、レイだけがリヤにSC0(B0624)を使用しました。
ポールポジションのレイはスタートでトップに立ちますが、6周目にラズガットリオグルにかわされます。11周目には3番手に浮上していたバウティスタ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)と接戦を繰り広げたのちパスされ、レイは3番手に後退。トップがラズガットリオグル、2番手がバウティスタ、3番手がレイとなりました。
ラズガットリオグルはトップを守って優勝を飾りました。バウティスタはラズガットリオグルとの差を詰めたものの追いつくには至らず、2位。3位はレイでした。4位争いはアクセル・バッサーニ(モトコルサ・レーシング)とアレックス・ロウズ(カワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK)によって激しく争われ、バッサーニが4位、ロウズが0.091秒差の5位でゴール。WSBK唯一の日本人ライダー、野左根航汰(GYTR・GRTヤマハ・ワールドSBKチーム)は20位でした。
WSBKスーパーポール・レース:ラズガットリオグルがポルトガルで2勝目
スーパーポール・レースは気温24度、路面温度34度のドライコンディションで行われました。フロントタイヤは選択が分かれ、一方、リヤタイヤは9人のライダーがSCXを、それ以外のライダーはSC0をチョイスしています。2列目までのライダーは、全員がリヤタイヤにSC0を選びました。
レースは2番グリッドからスタートしたラズガットリオグルがトップに立ちます。ラズガットリオグルの後ろには、2番手のバウティスタ、3番手のレイが僅差で続く状況。バウティスタは何度かメインストレートから1コーナーでラズガットリオグルに並びかけますが、ラズガットリオグルをかわすには至りません。ラズガットリオグルはトップを守り切り、優勝を飾りました。0.123秒差の2位はバウティスタ。3位はレイが獲得しています。野左根は20位でした。
WSBKレース2:バウティスタ、優勝でランキングトップを堅守
レース2は気温25度、路面温度42度のドライコンディションとなりました。フロントタイヤには多くのライダーがSC1(A0674)を選び、リヤタイヤは23人がSC0、3人がSC0(B0624)を選択。1列目に並んだラズガットリオグル、バウティスタ、レイは全員がフロントにSC1(A0674)、リヤにSC0をチョイスしています。
このレースでは3番手からスタートしたレイがスタート直後にトップに浮上し、レースをリード。しかし7周目に1コーナーでラズガットリオグル、9周目にはバウティスタがトップに立ちます。ラズガットリオグルがバウティスタを追う一方、レイは引き離されていきました。
バウティスタとラズガットリオグルは14周目から15周目に接戦のトップ争いを展開しますが、トップを守ったバウティスタがラズガットリオグルに対し、アドバンテージを築きます。
バウティスタはトップでゴールし、優勝を飾りました。2位はラズガットリオグル、3位はレイが獲得しています。4位はマイケル・ルーベン・リナルディ(Aruba.it レーシング-ドゥカティ)、5位はロウズでした。野左根は21位でレースを終えています。
WSS:トライアンフが初優勝
気温27度、路面温度41度のドライコンディションで、12周に短縮されたレース1は、全ライダーがフロントにSC1、リヤにSC0を選択しました。レースでは8人のライダーがトップ集団を形成し、激しいトップ争いが繰り広げられる中、残り6周でポイントリーダーのドミニケ・エガーター(テンケイト・レーシング・ヤマハ)がレースリーダーとなりました。
ここから後方を引き離していくのがエガーターの勝ちパターン。しかし今回は、終盤まで混戦のトップ争いが展開されます。レースを制したのは残り3周でトップに立ったステファノ・マンジ(ダイナボルト・トライアンフ)。マンジは今季初優勝を飾り、トライアンフにとってもWSS初優勝となりました。0.011秒差の2位はロレンソ・バルダッサーリ(エヴァンブロス.ワールドSSPヤマハチーム)、3位はフェデリコ・カリカスロ(アルテア・レーシング)が獲得。エガーターは4位でフィニッシュし、表彰台を逃しました。
レース2は、気温25度、路面温度40度のドライコンディションでスタートしました。このレースでも全ライダーがフロントにSC1、リヤにSC0を選んでいます。序盤の激しいトップ争いを経てレース中盤にカリカスロがトップに立ちますが、その背後にはエガーターなどがぴたりとつける状況。最終ラップ、エガーターがカリカスロをパス。このパスによってエガーターは優勝を飾りました。2位はラファエレ・デ・ロサ(オレラック・レーシング・ヴェルドナトゥラ・ワールドSSP)、3位はジャン・オンジュ(カワサキ・プチェッティ・レーシング)。カリカスロは4位でした。
WSS300:ディアスが2022年チャンピオンを獲得
W300はこのポルトガルラウンドが2022年シーズンの最終戦。しかしレース1の序盤、チャンピオン争いに可能性を残していたビクター・スティーマン(MTMカワサキ)、そしてホセ・ルイス・ペレス・ゴンザレス(アコレード・Smrz・レーシング)が激しい転倒を喫し、このアクシデントによってレースは一時、赤旗中断となりました。転倒したスティーマンはヘリコプターで病院に運ばれています。
WSBK、WSSレース1後に再開されたレースは8周で行われ、5周目にトップに立ったディルク・ガイガー(Fusport-RT・モータースポーツ・by SKM-カワサキ)が優勝を飾りました。2位はユーゴ・デ・コンセリス(プロディーナ・レーシング・ワールドSSP300)、3位はウンベルト・マイヤー(AD78・チーム・ブラジルby MSレーシング)が獲得しています。
チャンピオンシップランキングトップのアルバロ・ディアス(アルコ・モーター・ユニバーシティ・チーム)は7位。レース1の結果、ディアスが2022年のチャンピオンを獲得しました。岡谷雄太(MTMカワサキ)はフリー走行2で転倒を喫し、負傷によりレース1を欠場しています。
レース2では、チャンピオンを獲得したディアスを含む大集団がトップ争いを展開。混戦は終盤まで続きましたが、残り2周でミルコ・ジェンナイ(チームBrコルセ)がトップに立つと、今季初優勝を飾りました。2位はディアス、3位はマッテオ・ヴァヌッチ(AGモータースポーツ・イタリア・ヤマハ)が獲得しています。最終戦を欠場した岡谷は、WSS300参戦4年目のシーズンをランキング7位で終えました。
第10戦アルゼンチンラウンドは10月21日から23日にかけて、アルゼンチンのサン・ファン・ビリクム・サーキットで行われます。