写真:Pirelli、伊藤英里
テキスト:伊藤英里

「『やっと勝てたな』と思いました」。
追い求め続けたMoto3クラスでの初優勝をマレーシアGPで果たし、
古里太陽は次のチャレンジへと向かう。
2026年シーズン、Moto2クラスにステップアップするのだ。
2025年の初優勝、そして2026年から参戦するMoto2クラスについて聞いた。

初優勝で感じたのは、「安堵」

2026年シーズン、古里太陽は新しい挑戦に向かいます。Moto2クラスにステップアップするのです。

最初に、古里のキャリアと2025年シーズンについて触れましょう。

2021年、イデミツ・アジア・タレントカップ(現イデミツMoto4アジアカップ)の参戦2年目で、全戦優勝を果たしてチャンピオンを獲得した古里は、翌2022年、ロードレース世界選手権Moto3クラスでのデビューを果たします。

イデミツ・アジア・タレントカップ後は、通常であれば、ジュニアGP世界選手権(現Moto3ジュニア世界選手権)やレッドブルMotoGPルーキーズカップに参戦するケースが多く見られます。イデミツ・アジア・タレントカップやジュニアGP世界選手権、レッドブルMotoGPルーキーズカップは、ピレリとドルナ・スポーツによって推進される若手ライダー育成のためのプラットフォーム、“Road to MotoGP”の一環です。

古里の場合、2021年、イデミツ・アジア・タレントカップに参戦する傍ら、レッドブルMotoGPルーキーズカップにも数戦、参戦していましたが、翌年からロードレース世界選手権Moto3クラスに参戦するホンダ・チームアジアのライダーに抜擢された形となりました。

「飛び級」の形で世界選手権へ参戦した古里。このため、特に初年度は初めて走るヨーロッパのサーキットやバイクの違いに苦戦しました。しかし、2年目のタイGPで2位表彰台を獲得します。以降も表彰台を獲得し、優勝争いを展開するレースを見せてきたものの、それを手にすることができずにいました。

そして、Moto3参戦4年目の2025年シーズン、ついにマレーシアGPで初優勝を飾ったのです。

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Moto3クラス参戦4年目、念願の初優勝を飾ったマレーシアGPでの走行シーン。

「安心しました。『やっと勝てたな』と思いました」と、古里はチェッカーを受けたときの気持ちを表現します。

もちろん、初優勝のうれしさはありました。けれどそれ以上に古里の心を占めていたのは、「安堵」だったそうです。

「気持ちが楽になりました。ライダーのタイプにもよるとは思いますけど、僕はすごく勝ちを意識してしまうライダーで、その結果、表彰台を逃してしまうこともあったんです。そういう意味では、勝ってよかったと思います」

優勝したい、という渇望は、古里のなかでとても大きく膨らんでいました。「優勝がすべて」とさえ思っていたそうです。ようやくマレーシアGPで優勝を果たしたことで、その思いから解放されたのでした。

古里は、その後のレースについて「もっと楽にレースができるようになった」と言います。実際に、マレーシアGP後、次のレースだったポルトガルGPでは、優勝も狙える位置を走って3位でゴールしました。このときのレース後、古里はまだレースの余韻が残る表情で、「今回は、3位でいいんだ、と思えました」と語っていました。

「これまでなら勝ちにいっていました。でも、ベストで走っても、今日は3位だったと思います。2位にはなれなかったし、1位はもっと無理がありました。それを判断できるようになったのは、よかったと思います」

「(マレーシアGPで)優勝していなかったら、勝ちにいっていたと思います。そうしたらミスをしやすくなって5位で終わったり、もしかしたら転倒していたかもしれません。だから、今回は(3位を獲得できて)よかったと思います」

「今まででいちばんうれしいです。本当に。優勝よりもうれしいですね!」

これは、古里が優勝をあきらめて3位になった、という意味ではありません。シーズンは22戦あります。チャンピオンシップを戦ううえで最も重要なことは、継続的に安定した成績を残すことです。そのときに全力を尽くしたとしても、現実的に獲得できるのが3位ならば、その結果を手に入れることが大事です。マレーシアGPの優勝により、古里のメンタリティは、チャンピオンを争うライダーのそれに変化したのでしょう。

優勝の経験を得た古里は、マレーシアGPから最終戦バレンシアGPにかけて、3戦連続の表彰台獲得を果たして、Moto3クラスでの最後のシーズンを締めくくりました。

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怒涛の3戦連続表彰台でMoto3キャリアを締めくくった。写真は2025シーズン最終戦バレンシアGP。

Moto2クラス、ルーキーシーズンの目標は

そして古里は、2026年シーズンからMoto2クラスに参戦します。チーム内昇格の形で、イデミツ・ホンダ・チームアジアからの参戦です。

古里のなかでは、Moto3クラスに残りたい、という気持ちもありました。もう一年戦えば、チャンピオンを獲得する可能性もあるだろう、と。けれど同時に、Moto2クラスにステップアップしてチャレンジしたい、という思いもあったのです。最終的に、古里はMoto2クラスに挑むことを決めました。

Moto3クラスは、4ストローク単気筒の250ccエンジンを搭載したマシンで争われます。古里はホンダNSF250RWで戦ってきました。また、マシンとライダーを合計した総重量の最低値が152kgとレギュレーションで定められています。

一方、Moto2クラスは、トライアンフのストリートトリプルRSのエンジンをレース用にチューニングした3気筒765ccの公式エンジンを、シャシーコンストラクターのシャシーに搭載したマシンで戦います。最低重量はMoto3クラスと同じくマシンとライダーの合計で、217kgとなっています。

このように、Moto2マシンでは、エンジンの排気量や車両重量も変わります。古里はMoto2クラスに参戦するにあたり、トレーニングなどを変えるのでしょうか。

といっても、インタビューの時点ではMoto2マシンにまだ乗っていない状態。古里も「実際に乗るまではわかりませんが、何かするとしたら少し体重を増やすくらいかもしれないですね」と語っていました。

「僕、(Moto3クラスに参戦して)体重を4~5kgくらい増やしているんですよ。Moto3クラスを戦うには、今の体重は完璧。(これまでは)食事を頑張って食べるくらいで、あまり気にしてなかったですけど……。Moto2クラスになると、(体重を)気にしないといけないかもしれないですね」

では、Moto2クラスを戦ううえで、ポイントはどこにあるのでしょうか。Moto3クラスは決勝レースでも混戦、接戦になることが多く、大抵は最終ラップまでバトルが続きます。片やMoto2クラスでは、決勝レースでは引き離すようなレース展開も可能です。ただ、予選などは非常にタイム差が小さく、0.1秒どころか0.01秒が順位を分けるシビアな争いが繰り広げられています。

「一人で速く走れるようにしたいですね」と、古里は言います。

誰かの後ろについてタイムを出すのではなく(もちろん、それも戦術の一つです)、単独でタイムを出せるようになりたい、ということです。

「最近はMoto3クラスの予選でも、単独で走っていました。Moto2クラスでもスリップ(ストリーム)を使うことがありますが、Moto2クラスの方がその影響を受けないと思うんです。そういう意味では、もしかしたら、僕は(Moto2クラスで)うまくいくかもしれないな、と思います」

「ロードレース世界選手権」としては5年目のシーズンとなり、サーキットも22年ぶりに開催のブラジルGPを除いて経験のある会場ばかりです。しかし、クラスが変わり、チームも変わります。チーム内昇格とはいえ、Moto3クラスで4年間を過ごして気心の知れたクルーチーフやメカニックとは袂を分かち、新たにMoto2クラスのチームとともに戦うことになるのです。

まさに、新しい挑戦。Moto2クラス1年目のターゲットについて、古里はこう語りました。

「一人で走って、着実に速くなれたらいいんじゃないかな、と思います。そして、シーズンの後半戦でいい走りができていたらいいですね。シーズン中盤から後半で、一人で走っても(ダイレクトで)Q2に進出できたり、Q1を突破してQ2にいけたりするような走りができたらいいなと思います」

Moto3クラスで得た糧とともに、古里はMoto2クラスという次のステップに進みます。

プロフィール

古里 太陽(ふるさと たいよう)

2005年7月12日生まれ。
2021年にイデミツ・アジア・タレントカップ全戦優勝でチャンピオン獲得。2022年よりロードレース世界選手権Moto3クラスに、ホンダ・チームアジアから参戦を果たす。2023年にはタイGPで2位、初表彰台を獲得。2025年マレーシアGPでクラス初優勝を飾った。2026年よりMoto2クラスにステップアップする。

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