写真協力:FIM MiniGP Japan

将来のMotoGPライダーを目指す10歳から14歳までの若いライダーによる「FIM MiniGP World Series」。昨年から開催されていて、世界各地で行われるレースはすべて同じレギュレーションで実施され、平等なプラットフォーム(マシンはイタリア製のOHVALE<オヴァーレ>、タイヤはピレリ、オイルはモチュール)で将来のMotoGP参戦を目指すライダーたちに向けて技術と挑戦の機会の両面を強化するために行われているレースです。

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使用されるマシンは、イタリア製のOHVALE(オヴァーレ)の160㏄。すべての参戦ライダーがこのマシンで戦うのだが、マシンはレース当日に割り当てられるため、ミッションにクセがあるなどマシン自体の個体差もレースを左右した。
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WSBKをサポートするなど、レースにも積極的に関与するタイヤメーカーとして声がかかり、ピレリがタイヤを供給することになった。タイヤはこのレースのために専用設計されたピレリのディアブロスーパーバイク。スリックとレインの2種類が用意される。
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2022FIM MiniGP Japan Seriesには19人の選手が参戦した。

そのMiniGPは、今年から日本でもシリーズ戦が開始されて全5戦・10レースが行われ、9月4日に筑波サーキットコース1000で今シーズンのランキングが決定。初代シリーズチャンピオンに輝いた池上聖竜選手と、ランキング2位になった松山遥希選手が、11月1~3日(決勝レースは3日)にスペイン・バレンシアで開催(MotoGP最終戦と併催)される「World Final」レースへの出場を決めました。

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池上聖竜選手(右)が4レースを制して149ポイントでランキングトップ。同じく4レースを制した松山遥希選手が144ポイントでランキング2位に入り、World Finalレースへの出場権をゲットした。

全5戦の詳しいレースレポートは、FIM MiniGP Japanの公式ページhttps://www.minigp.jp/をご覧いただくことにして、ここではタイヤを供給するピレリの二輪部門の日本の責任者として、すべてのレースに立ち会った児玉さんに初開催となった今年のMiniGPを振り返ってもらいました。

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ピレリジャパンの二輪部門の責任者として、全レースに立ち会った児玉さん。選手たちがどんどん成長してゆく姿にとても驚いたと言う。

児玉さんが感じたのは、マシンもタイヤもイコールで、与えられたものでいかに戦うかというレースのコンセプトが非常にいいということ。そして、イコールと言ってはいても、マシンにはやはり性能や調子のばらつきがあり、タイヤもできるだけイコールになるように精査したけれどライダーの体重差もある。毎レース、慣れ親しんだ自分自身のバイクで戦うのではなく、その日に与えられたバイクで結果を残すという、とても難しい状況で走らなければいけない若いライダーたちは、レースを重ねるごとにどんどん精神的に成長していったのが手に取るように分かったそうです。

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ズラリと並んだオヴァーレ。ワイメイクとはいえ、マシン自体のクセも勝負を左右したようだ。

「クルマの免許を持っていない年齢の子供たちですから、普段、レースに参戦するときは親などが付き添っています。そして、ストレートがほかのライダーより遅いようなら、親に遅いと文句を言って何とかしてもらう。自分は身ひとつでサーキットに行って、あとは全部ほかの人が整えてくれる、もしくは親が先回りしてなんでもやってしまう。まるでMotoGPライダーですね。そんな、人に頼る環境が身に沁みついている若いライダーが多いんです。でも、MiniGPは誰にも頼れない。文句を言っても、誰も答えてくれない。だから、自然と積極的になり、自らライディングアドバイザー兼レースディレクターの長嶋哲太選手(今年の鈴鹿8時間耐久レースでポールポジションを獲得し、ホンダを勝利に導いたのは記憶に新しい)に聞きに行く。なんでも自分でやり、自分で考えて行動するようになっていったんです」

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マシン、タイヤがワンメイクとはいえ、テクニックや体重差などもあり、毎レース激しいバトルが繰り広げられた。

考えて走ることで精神面に加え技術も大幅に向上していった

たとえば、体重が重い選手は、自分は体重が重いのでコーナーにはハイスピードで入ったほうがタイヤが潰れてグリップするんですねとか、ボクは軽いからストレートで勝負しますとか、自分の体重などの環境に合わせて戦うという考え方になっていったのだそうです。

タイヤ自体もスリックとはいえ、第1レースの途中から滑り始め、第2レースはスライドコントロールしながら走らなければいけないくらいの性能(あえてそうしているそうです)なので、タイヤの摩耗に合わせた乗り方を常に考えなければいけない。その結果、マシンコントロールが上手になっていくというわけです。

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タイヤのグリップも第1レース途中から滑り出してしまうため、早く走るためにはスライドコントロールの技術も身につけなければいけなかった。

また、長嶋選手は、不平・不満を言う選手たちには、自らの世界戦での経験から、時に厳しく指導していたそうです。

サスペンションがうまく動かない、チャターが収まらないと言う選手には、「サスがどうの、チャターが出るとか言うな。チャターと友達になれなかったら、世界には出ていけない。渡されたパッケージで十分に戦えないと、世界でなんか通用しない」と厳しい言葉でハッパをかけていたそうですが、このMiniGPは世界に挑戦する子供たちの登竜門になるわけですから、当り前と言えば当り前ですね。

ある意味、とても恵まれた環境でレースをしていた子供たちが、うまくいかないことがあっても自分で何とかしなければレースに勝てない、そういう状況に置かれたがためにどんどん精神面だけでなく、テクニック的にも成長していっているのがレースを重ねるごとに目に見えて分かり、それは観戦しているお客さんにも伝わって、観客もどんどん増えていったそうです。

初代シリーズチャンピオンの池上聖竜選手と、2位の松山遥希選手は、いよいよバレンシアサーキットで各国の選手権を勝ち抜いてきたライダーたちと相まみえることになります。

ハングリーさがなくなったと言われる日本人ですが、経験したことのない厳しいレースを戦って、一回りも二回りも大きくなった2人の選手が、外国のライダーたちとどんな戦いを繰り広げてくれるのか。とても楽しみです。

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MotoGPバレンシアラウンドが開催されるスペイン・バレンシアサーキットで、11月1~3日にWorld Finalレースが開催される。池上、松山の両選手の奮闘を期待しましょう!